「揉め事となった相手から被害届を出すと言われているがどうしたらよいか?」
このように相手から被害届を出すと言われていてお困りの方のために、本記事では被害届が出された場合にどのようなことが起きるか、実際に被害届が出された場合の対処法などについて解説します。
目次
1. 被害届とは
被害届とは、犯罪の被害にあった人が、どういった被害にあったかを警察に申告するための書類です。
あくまで犯罪の被害にあった場合の届出ですので、刑事事件には該当しない場合(例えば、単に貸したお金を返してくれないなどの場合)の場合に被害届を出すことはできません。
警察が被害届を受理した場合には、警察は、実際に犯罪があったかについて捜査を開始します。
ただし、被害届には、警察に対し捜査を開始するよう義務を課すものではありません。
被害届が受理されたからといって、必ず捜査が開始されるわけではなく、捜査が開始されなければ、刑事事件として立件されることもありません。
2. 被害届と刑事告訴・刑事告発について
被害届とよく似ている制度として、刑事告訴・刑事告発があります。
いずれも犯罪被害の内容を捜査機関に申告するという点では共通していますが、告訴は被害の申告をするのみではなく、加害者の処罰を望むという意思表示をするものという点で違いがあります。
被害届との一番の違いは、告訴状を受理した捜査機関は、必ず捜査を開始する義務があるという点です。
そのため、被害者が告訴状を提出した場合には、捜査を開始されずに何もなく終わる、ということはなく、少なくとも加害者に対する取り調べが行われることとなるでしょう。
告訴と告発の違いは、届出ができる人が被害者本人(または代理人)に限られているのが告訴、誰でもできるのが告発です。
また、強姦や名誉棄損など一部の犯罪については、告訴がなければ検察官が起訴できないとされています。
これは、被害者が望んでいないのに、知られたくない事項を強制的に証言させられたりするのを防ぐためです。
出せる人 | 捜査義務 | 処罰の意思 | |
---|---|---|---|
被害届 | 被害者本人 (または代理人) | なし | なし |
刑事告訴 | 被害者本人 (または代理人) ・遺族など告訴権者 | あり | あり |
刑事告発 | 誰でも可能 | あり | あり |
3. 被害届が出されたらどうなる?
警察に被害届が受理されると、警察はその判断により捜査を開始します。
捜査の過程で、警察は加害者や被害者に対して取り調べを行います。
捜査が開始されたのに取り調べが行われないということはまずないため、加害者であるとして被害届が出されてしまった場合には、取り調べに応じる必要が生じます。
また、警察が行う捜査は、取り調べのみではありません。
犯罪があった際の状況を確認するために実況見分を行ったり、証拠の収集や聞き込み、鑑定などを行ったりします。
捜査の結果、警察が事件を検察に送検することが適当であると考えた場合には、検察官に事件の記録が送られ、今度は検察官による捜査が開始されますので、検察官による取り調べもなされます。
検察官は、捜査の結果を踏まえて起訴・不起訴の判断をします。
検察が起訴をした場合には刑事裁判が行われることとなりますが、日本の刑事裁判の有罪率は約99.9%と非常に高い数字であるため、刑事裁判まで至ってしまうと、ほぼ確実に刑事罰が課されてしまうことになります。
4. 被害届が出されると必ず逮捕される?
被害届が出され、捜査が開始されている場合には、逮捕される可能性はあります。
ただし、必ず逮捕されるわけではありません。
裁判所が以下の要件を満たしたと認め、捜査機関の請求に応じて逮捕状を発布した場合にのみ逮捕が認められます。
要件① 罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があること(逮捕の理由があること)
まず、犯罪を犯したと十分に疑われることが必要です。
犯罪を犯したと疑うに足りる理由がないのに逮捕ができてしまうと、まったく無実の人が逮捕されてしまうことになりかねないため、この要件が必要とされています。
要件② 逮捕の必要性
また、犯罪の嫌疑がある場合でも、逮捕の必要性がない場合にまで身柄拘束をする必要はないといえます。
逮捕はあくまで、逃亡や証拠隠滅を防止することを目的とした手続であることから、「逃亡のおそれ」や「罪証隠滅のおそれ」がある場合、つまり、逮捕の必要性がある場合にのみ認められます。
逃亡のおそれは、文字通りですが、逮捕して身柄を拘束しなければ逃亡してしまい行方が分からなくなってしまうおそれがある場合に認められます。
罪証隠滅とは、証拠隠滅のことです。
被疑者が関係者と口裏を合わせたり、事件に関係のある証拠を捨ててしまうなどのおそれがある場合に認められます。
このように、被害届が出されたとしても必ず逮捕されるわけではなく、逮捕がされずに在宅のままで捜査が行われることもあります。
在宅で捜査が行われる場合は、身柄を拘束されることなく、通常どおりの生活を続けながら取り調べを受けることになります。
逆に、逮捕の理由や必要性があるとされた場合には、警察官が自宅にやって来て逮捕状を示し、そのまま警察署まで連行されることとなります。
多くの人は早朝であれば在宅していることから、警察官が逮捕をするときは、早朝に自宅を訪れるケースが多くなっています。
5. 逮捕がされた場合の流れ
逮捕がされた場合の流れは、以下の図のとおりです。
逮捕がされると、まずは留置場に入れられます。
ここで警察官による取り調べが行われ、48時間以内に、事件の記録が検察官に送られます(検察官送致)。
検察官は、事件の記録を元に、被疑者の身柄拘束が引き続き必要かを検討します。
身柄拘束が必要であるとされた場合には、勾留(被疑者の身柄を拘束すること)の請求が行われ、裁判所がこれを認めると、最大10日間の勾留がされることとなります。
この10日間のうちに検察官は捜査を続け、起訴・不起訴の決定を行います。
捜査が10日以内に終わらないなどの理由で、さらに勾留期間を延長することが必要であると判断されれば、勾留延長の請求がされます。
延長できる期間も最大で10日間なので、逮捕から考えると最大23日間身柄が拘束されます。
不起訴の決定がされた場合には、事件は終了し、前科もつきません。
他方、起訴がされた場合には刑事裁判を受けることとなり、起訴後も身柄拘束の必要性が認められた場合には、勾留されたまま裁判を受けることとなります。
6. 被害届が出された時の対処法
被害届が出された場合には、なにより示談をすることを目指しましょう。
示談の際には、被害者との間で「加害者の刑事処罰を求めない」という旨を含めた示談書を締結します。
これを「宥恕文言」といいますが、検察官は、起訴・不起訴の判断をするにあたってこの宥恕文言があるか否かを重視しますので、これがある場合には不起訴となる場合がほとんどです。
また、示談の際に被害者に被害届の取り下げに同意してもらえることもあります。
7. 示談を成立させるには
示談を成立させる場合には、弁護士に示談交渉を依頼することを検討しましょう。
そもそも身柄を拘束されている場合、ご自身で示談交渉をすることは不可能ですし、身柄を拘束されていなかったとしても、捜査機関が加害者に対して被害者の連絡先を教えてくれることもありませんので、ご自身での示談交渉はかなりハードルが高いといえます。
弁護士に依頼をすれば、示談交渉から示談書の作成、検察官に対して、示談が成立していることや犯罪の内容から不起訴が相当であるという旨を述べる「不起訴意見書」の作成も全て一任できます。
また、弁護士が示談交渉の代理人に就任している場合、逃亡のおそれや罪証隠滅のおそれがないとして逮捕される可能性を下げることにもつながります。
被害届を出されてしまっている場合には、少しでも早く示談交渉をすることで刑事事件となってしまうリスクを下げることができますので、お早めに弁護士に相談されるとよいでしょう。