離婚について、当事者間で話合いがまとまらない場合、離婚調停を申し立てるという方法があります。
しかし、調停が初めての方は、離婚調停の流れが分からず、不安という方もいらっしゃるでしょう。
そこで、本稿では離婚調停の流れを弁護士が解説していきます。
目次
1. 離婚調停とは?
離婚調停とは、夫婦関係調整(離婚)調停という家庭裁判所を介して話合いを行う手続です。
あくまで「話合い」ですので、裁判所が何らかの決定を下したり、強制力を働かせたりすることはなく、当事者間での自主的な解決を図る制度です。
離婚調停の進行は、調停委員会が行います。
調停委員会の構成委員は、裁判官又は調停官1名と調停委員2名(原則、男性1名、女性1名)です。
裁判官は他の調停の担当も兼ねているため、通常は調停委員2名が主に進行を行うことになります。
当事者は、離婚調停を申し立てた側を「申立人」、離婚調停を申し立てられた側を「相手方」と呼びます。
なお、夫婦関係を円満に調整してもらいたい場合には、夫婦関係調整(円満)調停を申し立てることになります。
2. 離婚調停の流れ
①申立て
離婚調停の手続を利用するためには、まず、家庭裁判所に対する申立てが必要になります。
申立てに際しては、申立書、夫婦の戸籍謄本、印紙・郵券等が必要になります。
申立て先は、相手方の住所地を管轄する裁判所です。
申立人の住所地を管轄する裁判所に申立てをすることはできませんので、注意しましょう(※ただし、相手方の同意がある場合や特殊な事情がある場合には、管轄の裁判所を変更できる場合があります)。
必要書類と管轄の裁判所は、裁判所のホームページに記載がありますので、必ず確認するようにしましょう。
また、書類や申立て先等に不備がある場合には、裁判所から連絡がありますので、裁判所の指示に従い、訂正しましょう。
②第1回期日の指定
申立てが完了すると、裁判所から第1回期日の日程調整の連絡が入ります。
第1回期日は、概ね1〜2か月後で調整されることが多いです。
裁判所は、相手方とは日程調整をしませんので、裁判所と申立人の都合で決定することになります。
第1回期日に必ず相手方に出頭して欲しいという希望があり、かつ、相手方とやりとりができる状況の場合には、事前に相手方と日程を調整しておくと良いでしょう。
③相手方への通知
第1回期日が決まると、裁判所が相手方に期日と調停が係属したことの通知を行います。
通知は書面でなされ、申立書の副本(写し)も併せて送付されることになります。
④第1回期日以降
第1回期日の日を迎えましたら、指定された時間に家庭裁判所に出頭します。
ほとんどの裁判所では、申立人待合室と相手方待合室に分かれています。
また、調停での話合いは当事者が交互に調停室に入る形で行われるので、基本的に相手方と顔を合わせることはありません。
ただし、調停委員が調停の説明を行う際は同席で行うこともあります。
また、調停が成立又は不成立となる場面でも同席する可能性があります。
もし同席ができない事情がある場合には(例えば身体的DVがあった場合など)、事前に裁判所に同席ができないこと及びその理由を伝えておきましょう。
調停委員から当事者双方に調停制度の説明が終わると、いよいよ本題に入ることになります。
調停委員によって質問事項は様々ですが、離婚をしたい理由、離婚に際し請求したいものの確認(例えば、慰謝料や財産分与)とその金額、お子さんがいらっしゃる場合には親権の希望やお子さんの状況、現在の生活費(婚姻費用)の支払状況などについて聞かれることが一般的です。
第1回期日で話合いがまとまることはほとんどありませんので、第1回期日の終了時に第2回期日の日程調整をし、第2回期日に続くことになります。
第2回期日以降も同様の流れです。
次回の期日は概ね1〜2か月後で調整されることが多いですが、ゴールデンウィークや年末年始などの長期休暇を挟む場合には、2か月以上間が空くこともあります。
また、次回の期日までに、調停委員会から指示を出されることがあります。
例えば、「養育費を決めるために源泉徴収票を出してください」、「離婚したい理由を書面でまとめてください」などです。
上記のような指示が出た場合には、調停をスムーズに進めるためにも、きちんと従い、提出期限も守りましょう。
⑤調停の成立or不成立
調停の成立
調停期日が重ね、双方合意に達すると、「調停の成立」という手続に入ります。
調停委員会が合意した内容をまとめ、当事者双方にその内容(調停条項)を読み上げ、最終確認が取れれば、調停成立となります。
後日、調停委員会が合意した内容を書面にまとめ、当事者双方に送付します。
この書面を調停調書と言います。
調停調書は、強制執行(差押え等)が可能な内容を含むこともあるので、大切に保管しましょう。
調停の不成立
一方で、話合いがまとまらず、調停委員会が「合意に達する見込みがない」と判断した場合、「調停の不成立」という手続に入ります。
調停が不成立となると、調停手続は終了し、自動的に別の手続に移行するということもないので、別途、離婚訴訟(裁判)を起こすか検討することになります。
離婚訴訟を提起する予定の場合には、「事件終了証明書」という調停が終了したことを証明する書類が必要になりますので、裁判所に申請し取得しておくと良いでしょう。
3. 調停を有利に進めるポイント
①感情的にならない
離婚調停では、相手方に対する憎しみ等から感情的になってしまうこともあるかと思います。
また、相手方が嘘をついている場合や言い分が異なる場合、良い気分がしないのは当然のことです。
しかし、調停期日において、感情を全面に出してしまうと、冷静な判断力を失い、本来であれば自分にとって有利であったにもかかわらず、交渉が決裂し、損をしてしまうおそれがあります。
また、調停委員会の心証を害してしまい、自己に不利な展開になってしまう可能性もあります。
調停の進行という点では、感情的な話で貴重な調停の時間を無駄にしてしまい、話合いが前に進まず、いたずらに紛争が長期化するおそれがあります。
調停では、できる限り、冷静に対応するよう心がけることで、調停を有利に進めましょう。
②自身の主張を書面でまとめておく
調停期日では、口頭で調停委員とやりとりをすることが可能で、必ず書面を作らなければならないということはありません。
しかし、自己の主張を正確に調停委員会に伝えたい場合は、主張内容を書面にまとめて、事前に裁判所に提出すると良いでしょう。
書面で提出するメリットは、主張内容が正確に調停委員会に伝わりやすいことに加え、調停委員が事前に書面を確認してくれるため調停の進行がスムーズになりますし、口頭で伝える場合よりも時間の短縮に繋がります(調停期日は2時間程度と時間が限られています)。
③法律の知識を得る
離婚案件は、離婚事由、親権、養育費、面会交流、財産分与、慰謝料、年金分割と専門的な知識が要求される項目が多数あります。
知識がないまま、調停に臨んでしまうと、交渉において不利になってしまう可能性があります。
相手方と争点になっている事項については、書籍を購入したり、法律事務所のホームページを確認するなどして、知識を得てから、調停に臨むと良いでしょう。
4. 注意すべきこと
①個人情報の秘匿
例えば、同居中にDVがあったので、別居後の住所は絶対に相手方に教えたくないと言う方もいるでしょう。
ここで注意しなければいけないのが、調停に提出した書類は、すべて相手方が閲覧をすることができてしまうことです。
すなわち、申立書に現住所を書いてしまうと、裁判所だけでなく、相手方もこれを見ることができてしまうのです。
そこで、裁判所に書類を提出する際、相手方に知られたくない情報がある場合には、裁判所に対し秘匿申出を行ったり、提出する資料にマスキング処理を施すなどして対応しましょう。
②相手方と鉢合わせないように注意
多くの調停期日は、申立人と相手方が同じ日時に裁判所に来るよう呼び出されています。
そのため、調停開始時刻に近い時間帯に出頭すると、裁判所の出入口やエレベーター等で相手方と鉢合わせてしまうケースが散見されます。
相手方と絶対に顔を合わせたくないという方は、事前に裁判所に時間をずらすよう希望を出すか、調停開始時刻よりも早めに出頭するなどして対応しましょう。
5. 相手方が無断欠席した場合
相手方が調停を無断欠席した場合、裁判所の調査官が第2回期日までの間に、相手方に書面や電話で連絡を入れる運用が一般的です(出頭勧告と言います)。
裁判所からの出頭勧告にもかかわらず、第2回期日も欠席した場合は、調停が不成立で終了することがほとんどです。
裁判所からの出頭勧告に対し、正当な理由なく出頭しないときは、5万円以下の過料が課されるおそれがあります。
6. 弁護士に依頼するメリット
①交渉を有利に進められる
調停は「話合い」の場ですので、交渉力が重要になります。
弁護士に依頼することで、自己に有利な主張を展開でき、交渉を有利に進めることができます。
②書面を作成してもらえる
前述のとおり、調停においては、主張内容をまとめた書面を提出することで、主張の漏れをなくし、調停の進行をスムーズにすることができるというメリットがあります。
しかし、書面を作成することは大きな負担になりますし、仕事や育児等で書面を作る時間が取れないという方もいらっしゃると思います。
弁護士に依頼した場合、弁護士が書面を作成してくれますし、法律の専門家である弁護士が作成する文書のため、内容に説得力を持たせることができます。
③法律の知識が豊富
離婚案件は、法律の専門知識が必要となるため、知識を取得することで交渉を有利に進めることができるという点は前述したとおりです。
弁護士は、法律知識を有しているため、知識の不足により不利な交渉を強いられるというリスクがなくなりますし、法律知識を勉強する時間を短縮できると言うメリットもあります。
④調停に同席してもらえる
一人で調停期日に出頭することが不安という方も多いでしょう。
弁護士に依頼した場合、調停期日に同席してくれて、調停委員や相手方と交渉を行なってくれます。
また、調停の待ち時間に案件に関する相談を受けてもらえたり、悩みを聞いてもらえたりすることもできます。
さらに、急な用事が入ってしまい、どうしても調停期日に出頭できなくなってしまったという場合でも、弁護士が代わりに裁判所に出頭し、交渉を代行してくれます(仕事が多忙で平日は出頭が困難という方も同様です)。
⑤煩雑な裁判手続を行わなくて済む
調停の申立てや書記官とのやりとりは、手続が煩雑で手間のかかるものです。
弁護士に依頼した場合、弁護士との間の委任状のみ作成すれば、弁護士がほぼすべての手続を代行してくれますので、手間がかかることもありませんし、時間も短縮できます。
7. まとめ
離婚調停は、交渉力と専門的知識の有無により、離婚条件が大きく有利になることもあれば、逆に大きく不利になる可能性を伴う制度です。
また、手続も煩雑で裁判所に出頭する手間や時間もかかる非常に負担の大きい制度でもあります。
弁護士に依頼することで、離婚条件を有利にできる可能性が高まりますし、負担の軽減にも繋がりますので、離婚調停を検討している方は、1度弁護士に相談し、依頼するか否かを検討されると良いと思います。