相続放棄の手続は、比較的簡易であり、弁護士等に依頼しなくても手続ができることはありますが、ケースによっては、財産調査や必要書類の収集に時間がかかったり、複雑な手続が必要となることがあります。
本稿では、相続放棄の流れや注意点を解説しますので、相続放棄を検討中の方は参考にしてみてください。
目次
1.相続放棄とは
「相続放棄」とは、相続人が被相続人の権利義務の承継(亡くなった方の財産や負債のすべての引継ぎ)を拒否することをいいます(民法第915条)。
相続放棄を行うと、当該相続人は、相続開始時(被相続人の死亡時)に遡って相続人でなかったことになります(民法第939条)。
2.相続放棄のメリット
前述したとおり、相続放棄をした場合、初めから相続人でなかったことになるため、被相続人の財産を相続することはできない一方、被相続人に借金等の負債がある場合もその負債を相続することはなく、返済義務を免れることができます。
また、他の相続人がいる場合に、他の相続人との遺産分割協議・調停等の対応が必要なくなるなど、相続手続への関与が不要になります。
3.相続放棄の流れ
①相続放棄をするか検討する
まずは、相続放棄をするか否かを検討します。
相続放棄をするか悩んでいる方は、被相続人の財産を把握できていないという方が多いです。
このような場合は、被相続人の財産を調査するとよいでしょう。
相続人は、市町村区役所において被相続人名義の不動産の評価証明書を取得できたり、金融機関に預貯金の取引履歴や負債の残高を照会することができますので、これらの資料を収集し、被相続人の財産の全体像を把握するようにしましょう。
②必要書類の準備
相続放棄を決定した場合、相続放棄の手続に必要な書類を準備しましょう。
相続放棄に必要な書類は以下のとおりです。
戸籍関連の書類は、市町村役場・区役所で申請することで取得することができます。
【共通する書類】
すべての相続人に共通して必要な書類です。
被相続人の配偶者と子は、以下の書類の提出で足ります。
- 相続放棄の申述書
- 被相続人の住民票除票又は戸籍の附票
- 相続放棄をする者の戸籍謄本
- 被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
【孫の場合】
代襲相続者(親が相続人であったが、親が先に亡くなっている場合等によりその子(被相続人の孫)が相続人となっている場合)は、上記共通する書類の他に以下の書類が必要です。
- 孫の親(被相続人の子)の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
【親の場合】
被相続人の親が相続放棄をする場合には、上記共通する書類の他に以下の書類が必要です。
- 被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
- (被相続人の子及び孫が死亡している場合)その子及び孫の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
【祖父母の場合】
被相続人の祖父母が相続放棄をする場合には、上記共通する書類の他に以下の書類が必要です。
- 被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
- 被相続人の親の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
- (被相続人の子及び孫が死亡している場合)その子及び孫の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
【兄弟姉妹の場合】
被相続人の兄弟姉妹が相続放棄をする場合には、上記共通する書類の他に以下の書類が必要です。
- 被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
- 被相続人の配偶者と子の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
- 被相続人の親と祖父母の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
【甥姪の場合】
被相続人の甥姪が相続放棄をする場合には、上記共通する書類の他に以下の書類が必要です。
- 被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
- 被相続人の配偶者と子の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
- 被相続人の親と祖父母の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
- 被相続人の兄弟姉妹(甥姪の親)の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
③相続放棄の申述
必要書類の準備が完了したら、家庭裁判所に相続放棄の申述を行います。
書類の提出は、裁判所に直接持参する方法のほか、郵送による方法も可能です。
提出先の裁判所は、被相続人の最後の住所地(被相続人が亡くなった際に居住していた場所)を管轄する家庭裁判所です。
管轄を調べたい方は、裁判所のホームページをご参照ください。
相続放棄の申述に当たっては、収入印紙800円分と郵便切手を納める必要があるので、前述した必要書類と併せて準備をしておきましょう。
なお、必要な郵便切手の内訳は裁判所によって異なるので、事前に裁判所に確認する必要があります(裁判所によってはホームページに記載されていることもあります)。
申述の内容に不備があった場合、後日、裁判所より訂正や書類の追加提出を求める連絡が入ることがありますので、その際は裁判所の指示に従いましょう。
④相続放棄照会書に回答する
相続放棄の申述が完了すると、裁判所から相続放棄照会書という書類が送られてきます。
相続放棄照会書に必要事項を記載の上、裁判所に返送しましょう。
⑤相続放棄申述受理通知書の受領
相続放棄の手続が完了すると、相続放棄申述受理通知書が届きます。
相続放棄申述受理通知書は、相続放棄が完了すると裁判所から自動的に送られてきます。
相続放棄申述受理通知書は、相続放棄が完了したことを証明する重要な書類で、紛失した場合に再発行をすることができませんので、大切に保管しましょう。
万が一、紛失してしまった場合には、裁判所に相続放棄申述受理証明書という書類を発行してもらうことができますので、必要な手続を行ってください。
4.相続放棄の注意点
①相続放棄には期限がある
相続放棄の申述は、相続の開始があったことを知った時から3か月以内に行うことが必要です(民法第915条、同第921条2項)。
3か月以内に相続放棄をするか否かを決定することができない事情がある場合には、家庭裁判所に対し、相続放棄期間の伸長の申立てを行わなければなりません。
相続放棄期間の伸長の申立ての方法は、裁判所のホームページに記載があります。
相続放棄期間の伸長が認められるか否かは、裁判所の判断となりますので、期間の伸長が必要な理由については、詳細かつ具体的に記載するようにしましょう。
当職の経験上、期間の伸長が認められないケースは少ないですが、伸長が必要な理由をきちんと記載しないと、裁判所から呼出しを受けることがあり、呼出しに応じなかったり、呼出しを受けた際にきちんと理由を述べられなかった場合には、期間の伸長が認められないことがありますので、注意が必要です。
また、相続放棄の期間は、「相続の開始があったことを知った時から」3か月であり、相続開始時(被相続人の死亡時)からではありません。
相続開始からは3か月を経過しているが、相続開始を知った時からは3か月経過していないという場合には、相続放棄の申述に際し、裁判所に対し、相続の開始を知るに至った経緯や知った時期を具体的に説明するようにし、相続の開始を知った時期が分かる証拠がある場合には、資料として添付するようにしましょう。
②単純承認をしてしまうと相続放棄ができない
「単純承認」とは、プラスの財産・マイナスの財産を問わず、被相続人の財産のすべてを相続することをいいます(民法第915条、同第920条)。
前述した相続放棄の期間を経過した場合に加え、相続財産を処分したり(例:被相続人の預貯金を解約して引き出す)、相続財産を隠匿・費消した場合も、単純承認したものとみなされます(同1項、同3項)。
相続放棄を検討している方は、単純承認とみなされる行為をしないよう注意しましょう。
③相続財産の内容を把握しないまま相続放棄をしてしまうと・・・
相続財産の調査をしないまま相続放棄を行ってしまうと、実際は多額の相続財産(プラスの財産)があったにもかかわらず、その権利をすべて失ってしまうということになりかねません。
前述のとおり、相続人であれば相続財産の調査を行うことができますし、相続放棄期間(3か月)に間に合わない場合には相続放棄期間の伸長の申立てもできますので、相続放棄をするか否かは、慎重に検討すべきです。
④相続財産の管理が必要となる場合がある
相続に関する紛争や手続に巻き込まれたくないという理由で相続放棄をする方も多いですが、相続放棄をしたからといって、必ずしも相続財産に一切関与しなくて良いとは限りません。
被相続人が亡くなった時点で、「相続財産に該当する財産を現に占有している場合」、例えば、被相続人名義の不動産に居住している場合には、当該不動産を相続する者が管理することができるまでの間、当該不動産を管理する義務が生じることがあります(民法第940条)。
したがって、被相続人の財産を占有している場合、上記のような管理義務が生じる可能性があることには注意が必要です。
5.相続放棄手続を弁護士に依頼するメリット
①書類の準備や裁判所とのやりとりを一任できる
前述のとおり、相続放棄申述のためには、書類の作成・収集・提出が必要になります。
特に、戸籍関連の書類の収集には苦労される方が多いので、弁護士に依頼することで、戸籍の収集を含む書類準備の手間を省略することができます。
また、相続放棄の手続に当たっては、裁判所とのやりとりが必要となることもありますが、弁護士に代理人となってもらうことで、裁判所とのやりとりも弁護士に一任することができます。
②相続財産の調査を依頼できる
相続放棄を行うか否かを検討するに当たり、相続財産を調査する場合には、財産資料の収集が必要となりますが、資料の収集に際しては、役所や金融機関から戸籍謄本等の提出を求められたり、必要書類への記入及び提出を求められることがあります。
財産資料の収集を行う時間が取れないという方は、弁護士に相続財産の調査を依頼することで、財産調査の手間を省くことができますので、弁護士への依頼を検討されるとよいでしょう。
③相続放棄期間を徒過した場合でも相続放棄が認められる場合がある
前述のとおり、相続放棄が可能な期間は、相続の開始を知った時から3か月ですので、この期間を過ぎた場合、原則として、相続放棄は認められません。
もっとも、相続放棄期間中に相続財産が存在しないと信じており、信じたことについてやむを得ない事情がある場合など特段の事情がある場合には、相続放棄が認められることがあります。
当職の経験上、相当な理由について説得力のある説明ができた場合には、相続放棄期間を過ぎていても、相続放棄が認められたケースは少なくないです。
相続放棄期間を徒過してしまった場合でも、弁護士に依頼し、弁護士から裁判所に説得力のある説明をしてもらうことにより相続放棄が認められる可能性があるので、相続放棄期間を過ぎてしまったが、相続放棄をしたいという方は、弁護士に相談することをお勧めします。
6.まとめ
相続放棄の手続は、弁護士に依頼せずに完了している方も多いですが、手続のミス等により相続放棄が認められないと大きな不利益を生ずるおそれがあります。
相続放棄の手続に不安を感じている方は、一度弁護士に相談してみるとよいでしょう。
当事務所も相続放棄のご相談を承っておりますので、相続放棄でお悩みの方はお気軽にお問い合わせください。