夫が突然家出をして、家に帰らなくなった・・・こんな状況になってしまった場合、どうしていいのか途方に暮れてしまうことでしょう。
本記事では、そのような場合の対処方法について解説します。
1. まずは話し合いを
夫と連絡を取れる場合には、まずは家出の原因やその原因を解消できるかなどについて、話し合いをしてみるといいでしょう。
ご本人同士のみだと冷静になれないことが想定される場合には、お互いの親族等、第三者の同席の上で話し合いをするという方法も検討しましょう。
ただし、妻の親族から責められて、より家に帰りたくなくなるということにならないよう注意が必要です。
夫と連絡が取れない場合や、行方が分からない場合には、まずは居場所を知ることが必要となるでしょう。
ご自身で取れる方法としては、実家や共通の知人に連絡を取ってみたり、職場付近を探すなどが考えられます。
また、警察に捜索願を出すことも考えられますが、喧嘩による家出などで、緊急性が低いと判断された場合には、警察がすぐに対応してくれないこともあります。
さらに、夫が「捜索願不受理届」を出している場合には、警察による捜索は行われません。
捜索願不受理届とは、家出をした人が、警察に対して、捜索を希望しないという意思を表明するための届出をいいます。
どうしても見つからない場合は、費用はかかってしまうものの、探偵に依頼をして探してもらうということも検討しましょう。
2. 夫婦の同居義務について
民法第752条には、「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない」と定められています。
「しなければならない」と義務の形で定められているので、夫婦が同居することは、民法上の義務となります。
夫が突然家出した場合には、この同居義務に違反していることとなります。
夫と再び同居して夫婦関係を継続させたい場合には、まずは夫に対して同居するよう求めていくこととなりますが、突然家出するという形で別居をしている場合、相手の意思が強固であり、任意に戻ってくることは考えづらいです。
そのような場合には、同居を求める調停や審判を申し立てることを検討しましょう。
調停とは、家庭裁判所で行う手続であり、1名の裁判官(又は調停官)と2名の調停委員を交えて、話合いにより解決をすることを目的とする手続です。
話合いにより解決を目指す手続であることから、「同居をしなさい」といった形で結論がでることはなく、あくまで調停の中で夫が同居することに合意することが必要となります。
これに対し、審判とは裁判所が当事者の主張を踏まえて一定の判断を下すための手続ですから、裁判官が同居をすべきであると認めた場合には、夫の合意がなくとも「同居せよ」という形の判断がされることとなります。
また、同居を求める調停や審判については、その先後についての決まりがありませんので、調停をせずに審判を申し立てることも可能です。
ただし、当事者が審判を申立てた場合でも、裁判官がその判断により、まずは調停で話し合いをすべきと考えた場合には、付調停といって、調停の手続がされることとなります。
そのため、実務では、まずは調停を申し立てることがほとんどです。
調停の申立ては、夫の住所地を管轄する家庭裁判所に申立書を提出して行います。
申立書の書式や、必要書類等は、家庭裁判所のホームページで閲覧することができます。
家庭裁判所によっては、調停の流れ等の簡単な解説も載っていることもありますので、一度確認してみると良いでしょう。
なお、同居を求める審判については、少しだけ特殊な点があります。
審判により「同居せよ」という判断がされたとしても、強制的に同居をさせることができるわけではないという点です。
例えば、相手に対してある債権(金銭の給付を求める権利のことをいいます。簡単にいうと、10万円払え、などと請求できる権利です)を持っていて、それが裁判手続により認められている場合、相手がその支払い義務を果たさないのであれば、法律に定められた手続に従って、相手の資産を差押さえるなど、強制的にその義務を履行させることができます。
これを、強制執行といいます。
しかし、同居義務については、そうはいきません。
無理やり家に連れてきて「ここに住め」という形で強制することは倫理上も問題がありますし、そもそもそのような形で強制したとしても、またすぐに別居を開始することも可能ですから、そもそも強制するということがほぼ不可能です。
また、民法にもあるとおり「互いに協力し扶助」するための同居義務ですから、無理やり同居をさせても民法が同居義務を定めた趣旨にそぐわないといえるでしょう。
このようなことから、同居をさせるという形の強制執行は、法律上認められていません。
3. 家出した夫と離婚を希望する場合
夫が家出した場合で、これ以上夫婦関係を継続することを望まない場合には、離婚に向けた手続を進めることとなるでしょう。
通常、夫が一方的に家出をした場合には、相手も離婚に応じる可能性が高いです。
そのため、離婚の際の条件(財産分与や慰謝料、子どもがいる場合の親権など)さえ合意できれば、離婚届にお互いが署名をして役所に提出することで離婚が成立します。
また、仮に夫が離婚を希望しない場合でも、一方的に家を出て別居をしていることが「悪意の遺棄」に該当するとして、法で定められた離婚事由に該当することを根拠に、離婚を請求することができます。
悪意の遺棄とは、正当な理由なく、上で述べた民法第752条に定める義務(同居義務、協力義務、扶助義務)に違反することをいいます。
なお、夫側が悪意の遺棄をした場合には、夫側は、有責配偶者といって、離婚原因を作った側に該当します。
自ら離婚の原因を作っておきながら離婚を請求することは倫理上許されないといえることから、裁判や調停において、有責配偶者から離婚を請求することはできないとされています。
そのため、離婚を望まない場合には、相手が離婚をしたいと申し出たとしても、応じる必要はありません。
4. 婚姻費用について
夫が家出して家に帰らず、別居を継続している場合であっても、離婚が成立するまでは夫婦であることに変わりがありません。
そのため、夫に対して婚姻費用を請求できる場合があります。
婚姻費用とは、民法第760条に定められているもので、同条では「夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する。」とされています。
この「婚姻から生ずる費用」を略して「婚姻費用」といいます。
基本的には、生活費のこととお考えいただくと分かりやすいでしょう。
夫婦(やその子)の生活費については、夫婦が共同して分担するべきであるという考えに基づいて定められているものです。
「分担」とあるとおり、生活費を全額負担してもらえるわけではなく、夫婦のお互いの収入に応じて、負担すべき額が決まるということになります。
婚姻費用の額については、標準算定方式といって、裁判所が作成した基準に基づき算出されます。
もちろん相手との任意の交渉により相手が合意するのであれば、基準以上の額を支払ってもらうことができますが、実務では、この算定基準に基づいて額を決めることがほとんどです。
婚姻費用の額を簡単に算出できるようにするために裁判所が作成した算定表を見ることにより、おおよその額が確認できます。
算定表は裁判所のホームページで閲覧することができますので、おおよその額を知りたいという方は、一度見てみると良いでしょう。
なお、収入に応じた生活費の分担という観点から、婚姻費用は、基本的には、夫婦のうち収入の高い方が低い方に支払うことになります。
そのため、家出した夫の収入がご自身の収入より低い場合には、婚姻費用を請求することが難しくなってしまいます。
この場合、夫に逆に婚姻費用を支払わなくてはならないのでは?とご心配になる方もいるかもしれませんが、正当な理由なく別居した場合には、婚姻費用の分担請求は認められないのが原則です。
5. 慰謝料について
「2」で述べたとおり、夫婦には同居義務がありますから、夫が一方的に家出した場合には、その同居義務違反を根拠に、慰謝料を請求することが考えられます。
ただし、慰謝料とは、不法行為(今回でいうと同居義務違反のことをいいます)によって生じた精神的苦痛などの非財産的損害に対する賠償として支払われるものですから、同居義務違反のみを理由とした慰謝料請求については、その損害の程度が大きくなく、仮に認められたとしても、数万円程度のみ、となってしまうことが考えられます。
他方、同居義務違反をした夫と離婚をする場合には、離婚をすることとなったという精神的苦痛についても損害額の算定の際に加味されます。
婚姻期間や別居期間、別居の態様にもよりますが、50万円から100万円を超える慰謝料が認められる場合もあります。
また、慰謝料の額については、事案により異なりますが、相手の行為の悪質性が加味されて判断されますので、もし夫が愛人と住むために別居したという場合などには、可能な限り、その証拠を保管しておくと良いでしょう。
6. まとめ
夫が突然家出してしまった場合、衝撃やご不安から、どのように対応して良いのかを冷静に考えられない方が多いのではないかと存じます。
弁護士が話を聞くだけでも、落ち着いたり、ご不安が少しでも減ったりといった助けになれることもあるのではないかと思います。
また、ただでさえご心労が多い中で、ご自身のみで夫と話しあったり、調停や審判の申立てをすることが難しいというご状況の方もいらっしゃるでしょう。
弁護士にご依頼をいただければ、申立ての手続や相手との交渉など、すべてを代わりに行うことができます。
正式にご依頼をいただく前の段階として、まずはお話をお伺いして簡単なアドバイスをするということもお受けできますので、お悩みの方は、お気軽にご相談ください。