金銭の支払を命ずる判決がなされたものの、相手方が任意での金銭の支払に応じない場合、強制執行の申立てを検討することになります。
しかし、相手方の保有している財産が不明な場合、強制執行の申立てをすることができません。
そのような場合に取ることができる方法の1つとして、弁護士会照会制度を利用して、相手方の預貯金情報を開示する方法があります。
本稿では、弁護士会照会による預貯金情報の開示手続の詳細を解説いたします。
目次
1. 弁護士会照会とは
「弁護士会照会」とは、弁護士法で定められた制度で、弁護士が依頼を受けた事件についての証拠や資料を収集したり、事実を調査したりするために設けられた制度です(弁護士法第23条の2)。
弁護士会照会制度を利用することで、弁護士は、所属している弁護士会を通じて、企業や団体に必要な事項の照会をすることができます。
弁護士会照会は、弁護士のみが行うことのできる制度であり、また、弁護士が依頼を受けた事件のために必要性がある場合に限り利用することができる制度です。
そのため、弁護士以外の方は利用できませんし、弁護士であっても依頼を受けていない事件について弁護士会照会制度を利用することはできない点には注意が必要です。
具体的には、弁護士会照会による預貯金情報の開示を行う場合、債権差押命令申立事件を弁護士に依頼することが必要となります。
2. 預貯金情報の開示とは
例えば、「被告は、原告に対し、100万円を支払え」という判決を得た場合、被告は原告に100万円を支払わなければなりません。
あなたが原告の場合、被告から任意で100万円の支払があれば問題ありませんが、被告が任意で100万円を支払わない場合には、強制執行の申立て(預貯金の差押えなど)を検討することになります。
強制執行を申し立てるためには、相手方の財産を特定している必要があります。
具体的には、預貯金を差し押さえたい場合、相手方が預貯金を有している銀行と支店名まで特定している必要があります。
強制執行の詳細については、以下のコラムで解説しておりますので、ご参照ください。
強制執行の方法は?流れや費用を弁護士が解説
しかし、実際には相手方の銀行や支店名が分からないというケースは多いです。
そこで考えられる方法が弁護士会照会です。
弁護士会照会制度を利用することで、特定の銀行に対して、相手方の口座の有無及び口座がある場合には口座情報の開示を求めることができます(「全店照会」といいます)。
相手方が預貯金を有する銀行にまったく心当たりがない場合、相手方の住所地又は所在地が東京ないし東京近郊の場合には、いわゆるメガバンク(みずほ銀行、三井住友銀行、三菱UFJ銀行、りそな銀行等)に全店照会を行うことが多いです。
静岡の場合には、静岡県内に本店のある金融機関(静岡銀行、清水銀行、しずおか焼津信用金庫、スルガ銀行、静清信用金庫等)に全店照会を行うことが多いです。
なお、全店照会を行うためには、債務名義(判決や裁判上の和解、公正証書等)を取得していることが必要です。
債務名義を取得していない段階で、弁護士会照会による口座情報の開示を求めることはできませんので、注意が必要です。
3. 取引履歴の開示
相手方の財産が不明な場合には、まずは前述した全店照会を行うのが一般的です。
しかし、金銭の支払を命ずる判決がなされたにもかかわらず、任意の支払に応じない相手方の場合、預貯金の残高がゼロ又はゼロに近いことが多く、全店照会により口座情報を特定できたとしても、強制執行が功を奏さないというケースは非常に多いです。
そこで考えられる方法が相手方の口座の取引履歴を開示させる方法です。
具体的には、全店照会により口座を特定できた場合、更に弁護士会照会制度を利用して、特定した口座の取引履歴の開示を求めます。
取引履歴を開示させることで、例えば、相手方の勤務先が判明し給与や賞与を差し押さえることができたり、生命保険の積立てをしていることが判明し解約返戻金を差し押さえることができたり、相手方の取引先が判明して取引先に対する債権を差し押さえることができたりと、金銭を回収できる可能性が高まります。
なお、取引履歴は無制限に開示を求めることができるわけではありません。
実務上は、特段の必要性がない限り、1年分の取引履歴のみ開示が認められることが多いです。
仮に1年を超える取引履歴を開示させる必要性がある場合には、弁護士にその旨を説明し、弁護士会照会の申出書に必要性があることを記載してもらうようにしましょう。
4. 第三者からの情報取得手続との違い
第三者からの情報取得手続とは
弁護士会照会と類似する制度として、第三者からの情報取得手続があります。
第三者からの情報取得手続とは、相手方の財産に関する情報を、裁判所を通じて第三者から取得する手続です。
弁護士会照会も、第三者からの情報取得手続も、強制執行の申立てを行うために、相手方の預貯金情報の開示を求める制度という点は共通しています。
弁護士会照会との大きな違いは、弁護士会を通じた手続か、裁判所を通じた手続かという点ですが、その他にも弁護士会照会と異なる点が複数ありますので、以下で解説します。
なお、第三者からの情報取得手続の詳細は、以下のコラムで解説しておりますので、ご参照ください。
第三者からの情報取得手続とは?手続と流れを弁護士が詳しく解説
手数料
弁護士会照会の場合、弁護士会により手数料が異なります。
例えば、東京弁護士会の手数料は1件当たり8620円(手数料7700円、実費920円)です。
静岡県弁護士会の手数料は1件当たり5500円です。
第三者からの情報取得手続は、申立手数料が1000円、予納金が5000円(金融機関が1つ増えるごとに+4000円)、郵便切手110円(金融機関が1つ増えるごとに+110円)になります。
弁護士会照会の方が若干高額ではありますが、金額に大きな差はないといえるでしょう。
相手方への通知の有無
弁護士会照会の場合、口座情報が開示されたとしても、基本的には相手方に口座情報が開示された旨の通知はなされません(※ただし、金融機関によっては通知を行う場合もあるので、事前に依頼している弁護士から対象の金融機関に確認してもらうと良いでしょう)。
他方、第三者からの情報取得手続の場合、口座情報が開示された後1か月が過ぎた時点で、裁判所から相手方に口座情報が開示された旨の通知がなされます。
相手方に通知がなされることを避けたい場合には、弁護士会照会制度を利用することをお勧めいたします。
第三者からの情報取得手続を利用する場合には、相手方に通知がされた後だと預貯金を引き出して費消してしまうなどの財産隠匿のリスクが高まるので、それまでに差押えの手続をするとよいでしょう。
開示を拒否されるリスク
稀なケースではありますが、弁護士会照会の場合、金融機関が口座情報の開示を拒否することがあります。
他方、第三者からの情報取得手続の場合、裁判所を通じた手続であるため、口座情報の開示が拒否されることはまずありません。
確実性を重視されたい方は、第三者からの情報取得手続を利用する方が良いでしょう。
5. まとめ
前述のとおり、弁護士会照会は、弁護士が事件の依頼を受けた場合にのみ利用できる制度です。
弁護士会照会による預貯金情報の開示を希望される方は、まずは弁護士に相談し、依頼することを検討しましょう。
当事務所は、債権回収案件に注力しており、弁護士会照会による預貯金情報開示の経験と実績も豊富です。
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