自身の遺留分が侵害されている場合に、遺留分侵害者との話合いがまとまらない場合、遺留分侵害額請求訴訟を提起する方法があります。
本稿では、遺留分侵害額請求訴訟の方法と裁判の流れについて、解説いたします。
目次
1. 遺留分侵害額請求とは
「遺留分」とは、被相続人(亡くなった方)の相続財産について、一定の相続人に法律上保証されている最低限の取得分のことです。
遺留分を侵害されている場合、遺留分を侵害している者に対し、遺留分の不足分を請求することができます。
これを「遺留分侵害額請求」といい、遺留分を請求できる相続人のことを「遺留分権利者」といいます。
遺留分権利者の範囲、遺留分の割合、遺留分の算定方法については、以下のコラムで解説しておりますので、ご参照ください。
2. 訴訟の前に調停の申立てが必要
遺留分侵害者との間で話合いがまとまれば問題ないですが、協議がまとまらない場合には、裁判手続を検討しましょう。
遺留分侵害額請求の場合、原則として、いきなり訴訟を提起することはできず、まずは遺留分侵害額調停を申し立てる必要があります(「調停前置主義」といいます。
家事事件手続法第257条1項)。
「調停」とは、裁判所を通じた話合いの手続のことです。
調停でも話合いがまとまらなかった場合に、遺留分侵害額請求訴訟を提起することができます。
例外的に、遺留分侵害者の住所その他訴状の送達先(就業場所等)が不明な場合には、調停を経ることなく、訴訟提起が可能ですが、遺留分額侵害請求の場合、遺留分侵害者が親族であることが多かったり、遺言書に住所が記載されていたりするので、住所の調査が容易で、住所等が不明であるケースは稀です。
なお、遺留分侵害額調停の詳細は、以下のコラムで解説しておりますので、ご参照ください。
3. 遺留分侵害額請求訴訟の方法
管轄裁判所
遺留分侵害額請求訴訟の提起は、遺留分侵害者の住所地を管轄する地方裁判所です。
遺留分侵害額調停の申立ては、遺留分侵害者の住所地を管轄する家庭裁判所に行いますが、訴訟は地方裁判所に対して提起する必要があるので、注意しましょう。
必要書類
遺留分侵害額請求訴訟を提起するためには、以下の書類を管轄裁判所に提出する必要があります。
- 訴状(正本(裁判所用)と副本(被告用)それぞれ1通ずつ)
- 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍謄本
- 相続人全員の戸籍の附票又は住民票
- 被相続人の戸籍の附票又は住民票の除票
- 遺言書の写し又は遺言書の検認調書謄本の写し
- 事件終了証明書(調停を行った家庭裁判所に申請することで取得することができます。取得するためには収入印紙150円分が必要です)
- (遺産に不動産が含まれている場合)全部事項証明書、固定資産評価証明書
- (遺産に預貯金や有価証券が含まれている場合)残高証明書、取引履歴、通帳の写し等)
- 収入印紙(金額は請求金額により異なるので、裁判所のホームページを確認するようにしましょう)
- 郵券(各裁判所により金額と内訳が異なるので、事前に申立先の裁判所に確認するようにしましょう。金額は6000円分であることが多いです)
4. 訴訟の流れ
必要書類の提出
まずは、前述した必要書類を管轄裁判所に提出します。
直接持参して提出する必要はなく、郵送で提出することも可能です。
必要書類が提出されると、裁判所が訴状の内容と必要書類を審査します。
訴状の内容や提出書類に誤りや不足がある場合には、裁判所から訂正や追完の指示がありますので、裁判所の指示に従いましょう。
第1回期日の指定
訴状の審査が完了すると、裁判所から第1回口頭弁論期日の日程調整の連絡があります。
調整が完了すると、裁判所が第1回期日を指定します。
第1回期日が指定されたら、裁判所に期日請書を提出する必要があります。
期日請書とは、「第1回口頭弁論期日が◯年◯月◯日と指定されたので、同日時に出頭いたします」という内容の書面のことです。
訴状の送達
第1回期日が指定されると、裁判所から相手方に訴状が送達されます。
訴状の送達が完了することで、訴訟が開始されたという扱いになります(「訴訟係属」といいます)。
第1回期日
訴状の送達が完了したら、第1回期日に出頭します。
第1回期日までに、遺留分侵害者から答弁書(訴状に対する反論書面)が提出されます。
請求内容を争うという内容であれば、第2回期日以降、反論→再反論→再々反論というように、互いに主張と立証(証明)を繰り返すことになります。
第2回期日以降
第1回期日までに相手方からこちらの請求を争う内容の答弁書が提出された場合、第2回期日が指定されます。
なお、被告は、答弁書を提出することで、第1回期日に出頭しなくても、答弁書の内容を期日に出頭して読み上げたとみなす制度(擬制陳述)があるので、第1回期日には出頭しないことが多いです。
前述のとおり、第2回期日以降は、互いに主張と立証(証明)を展開していきます。
また、不動産の評価に争いがある場合で、不動産の評価額について合意ができない場合には、不動産鑑定を実施することがあります。
不動産鑑定については、以下のコラムで解説しておりますので、ご参照ください。
和解協議・尋問
主張と立証が尽くされると、尋問→判決と進むのが原則ですが、裁判実務上は、主張と立証が尽きた段階で和解協議に入ることが多いです。
和解協議では、裁判官が一定の心証(争点に対するその時点での裁判官の認識)を開示したうえで、双方に和解の提案をしたり、当事者の一方から和解案が出されるなどし、双方がその案に合意できるかを検討します。
和解が成立すると訴訟は終了となります。
一方で、和解協議が決裂した場合には、尋問→判決と進むことになります。
ただし、尋問を行う必要がない場合には尋問を実施せずに判決に進むこともあります。
特に遺留分侵害額請求の場合、他の訴訟と比較すると、尋問を行う必要性がないケースが多いです。
判決
尋問を実施した場合、尋問終了後に再度和解協議を行うことがあり、和解が成立すれば訴訟は終了となりますが、和解が成立しない場合には、裁判所が判決を下します。
判決書が双方に送達されてから2週間以内に双方から控訴の提起がなければ、判決は確定し、訴訟は終了となります。
控訴審
判決後に当事者の一方又は双方が控訴提起をした場合には、高等裁判所で審理がなされます。
控訴審では、控訴した側(「控訴人」といいます)が控訴状と控訴理由書を、控訴された側(「被控訴人」といいます)が控訴答弁書を提出し、弁論を終結する(主張と立証を終了させる)ことがほとんどですので、第1審より時間はかかりません。
また、控訴審では、弁論終結後、判決がなされるまでの間に和解協議を行うことがあります。
裁判実務上は、和解成立の余地が一切ない場合を除き、裁判所から和解協議を提案されるのが一般的です。
和解が成立すれば訴訟は終了となり、和解が成立しなければ、控訴審の判決が出されることになります。
なお、控訴審判決に対する上告をすることも可能ですが、上告は、憲法違反や判例違反、法律に定められた重大な訴訟手続の違反等の事由がないと認められないので、遺留分侵害額請求において、上告が認められるケースはほとんどありません。
4. まとめ
遺留分侵害額請求訴訟は、必要書類が多く、内容も複雑であることが多いです。
また、裁判所とのやりとりが必要となり、裁判手続の知識も必要になります。
そのため、遺留分侵害額請求訴訟をお考えの方は、書面の作成、必要書類の準備、裁判所とのやりとり、裁判所への出頭などを弁護士に一任することを検討すると良いでしょう。
当事務所は、相続案件に注力しており、遺留分侵害額請求訴訟の経験と実績も豊富です。
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