群馬県前橋市長の小川晶氏が前橋市役所勤務の男性職員とラブホテルで密会していたことが問題となっています。
小川市長は、男性職員に相談に乗ってもらっていた、男女の関係はないと弁解していますが、仮に裁判になった場合、小川市長の弁明は通るのでしょうか。
本稿では、裁判実務における不貞行為の認定について、解説いたします。
目次
1. 不貞行為とは
不貞行為とは、配偶者以外の人と肉体関係を持つことをいいます。
キスやハグ等は不貞行為には該当しません。
不貞行為は、民法上の不法行為に該当しますので、不貞をされた配偶者は、不貞をした配偶者と不貞相手に対し、慰謝料請求をすることができます。
(民法第709条、同第710条)。
不貞をされた配偶者は、裁判で慰謝料請求をすることも可能で、裁判所が不貞の事実を認定した場合には、原則として慰謝料請求が認められることになります。
2. 小川市長の弁明は通るのか?
小川市長は、既婚者である男性職員と複数回ラブホテルに行っており、不貞行為があったのではないかと疑いの目が向けられていいます。
これに対する小川市長の弁明は、「公私に渡る相談に乗ってもらっていた」、「男女の関係はない」、「飲食店やカラオケボックス等では、周りの目があり、安心して話ができるところはないかということで、ホテルはどうだろうという話になった」、「ホテルには食事を持ち込み、夕飯を食べながら相談や打合せをしていた」というものです。
仮に男性職員の奥さんが小川市長に対し、不貞行為を理由とする慰謝料請求の訴訟(裁判)を提起した場合、裁判所は不貞行為があったと認定するのでしょうか、それとも、小川市長の弁明を認め、不貞行為はなかったと認定するのでしょうか。
結論から申し上げると、小川市長の事例の場合、不貞行為が認定される可能性が極めて高いです。
その理由については、次項で解説いたします。
3. ラブホテルには行ったが性的な行為はなかったという弁明
私が代理人弁護士として不貞行為を理由とする慰謝料請求を行った際、相手方からラブホテルに行ったのは事実であるが、性的な行為はなかったという弁明がなされることは少なくありません。
私の経験上、上記の弁明が裁判所に認められたケースは1件もありません。
裁判所は、基本的にラブホテルに行ったという事実があれば不貞行為を認定する傾向にあります。
そのため、小川市長の事例も、仮に裁判になった場合には、不貞行為が認定される可能性が極めて高いといえるでしょう。
なお、「ビジネスホテルや自宅の場合は、不貞行為が認定されない」と勘違いされている方もいらっしゃいますが、ビジネスホテルや自宅の場合であっても、不貞行為が認定されるケースがほとんどです。
また、2人で宿泊を伴う旅行に行った場合も、不貞行為が認定されることがほとんどです。
4. 例外的に弁明が通るケース
前述のとおり、「ラブホテルに行ったが、性的な行為はなかった」という弁明は基本的に認められませんが、例外的に弁明が通るケースもあります。
滞在時間が短い
例えば、「気温の高い日に運動をして汗をかいたので、シャワーを浴びたかったが、近くにシャワーを浴びる施設がなかったので、ラブホテルを利用した。
軽くシャワーを浴びただけなので、滞在時間は20分程度だった」というように、滞在時間が短い場合には、不貞行為の認定がされない可能性があります。
40分以上滞在した場合には不貞行為が認められる可能性が高いと言われていますが、裁判実務上は何分以上滞在すれば不貞行為が認定されるかという基準はありません。
弁明内容の信用性や合理性、弁明内容を証明する客観的な証拠が存在するかにより、不貞行為の認定の有無が変わってきます。
上記の事例の場合、当日の気温が高かったこと、運動をしていたこと、近くにシャワーを浴びる施設がないこと等を証明することができれば、弁明内容の信用性が高まるため、不貞行為の認定がされない可能性が高まります。
一方で、実際は当日の気温は高くなかった、もっと近くに銭湯があった、運動をしていた証拠がない、ラブホテルから出てきた時にキスをしている写真があるなどの事情がある場合には、弁明内容の信用性と合理性に疑いがあるので、不貞行為が認定される可能性が高まります。
不貞行為を行っていない客観的な証拠がある
例えば、「ラブホテルに2人で入って行く写真が証拠として提出されているが、ラブホテルの部屋には他にも友人らがいて、みんなでカラオケをしていた。
友人の1人がずっと動画を撮っていたので、動画を証拠として提出することができる」というように、不貞行為がなかったことを客観的に証明できる証拠がある場合には、不貞行為が認定されない可能性があります。
上記事例の場合、一緒にいた友人が不貞行為がなかったことを証言してくれると、不貞行為が認定されない可能性が高まることがあるでしょう。
小川市長の事例は?
小川市長の事例では、ラブホテルに一定時間滞在していたことを前提とした弁明をしているため、滞在時間が短かったということはないと思われます。
また、小川市長は、ラブホテルに行ったことが複数回あると述べているため、ラブホテルを利用したすべての日について、不貞行為がなかったことを証明する客観的証拠を提出するのは困難であると思われます。
したがって、小川市長の事例では、不貞行為が認定される可能性が極めて高いといえます。
5. まとめ
今回は小川市長の事例をもとに、裁判実務における不貞行為の認定について解説しましたが、実際にどのような事実や証拠があれば不貞行為が認定されるかの判断には、法的評価が伴いますので、ご自身で判断することが難しい場合もあると思います。
そのような場合には、弁護士に相談し、意見と見通しを聞いてみると良いでしょう。
当事務所は、不貞慰謝料案件に注力しており、その経験と実績は豊富です。
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