飲食店や宿泊施設の運営をしている方にとっては、予約をしたのに来店しない客への対処は非常に重要です。
キャンセル料を確実に回収できないと、用意していた食材が無駄になってしまう、人件費が無駄になってしまう等の損害を被ってしまいます。
そこで、本記事では、キャンセル料を確実に回収するための方法を弁護士が解説します。
目次
1. キャンセル料の根拠とルール
飲食店の予約や宿泊の予約を申し込むと、店舗や宿泊施設との契約が成立します。
そこで、予約したにもかかわらず予約客が訪れなかった場合には、客側の債務不履行に該当し、予約時の契約内容や宿泊約款に基づき、キャンセル料を請求できるのです。
ただし、消費者契約法には、以下のとおりキャンセル料についての定めがあります(消費者契約法第9条1号)。
(消費者が支払う損害賠償の額を予定する条項等の無効等)
第九条次の各号に掲げる消費者契約の条項は、当該各号に定める部分について、無効とする。
一当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、当該条項において設定された解除の事由、時期等の区分に応じ、当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるもの当該超える部分
つまり、事業者に生じると考えられる損害額を超えるような高額のキャンセル料を請求する旨の定めは、その超える部分について無効となってしまいますので、キャンセル料を徴収する定めを置く場合には、この規定に留意して作成する必要があります。
例えば、宿泊施設において宿泊料を超えるような額のキャンセル料を請求する定めは、無効とされる可能性が高いでしょう。
2. キャンセルポリシーの設定方法
予約客に対してキャンセル料を請求する際には、明確なキャンセルポリシーを作成しておくことでトラブルを防ぐことにつながります。
キャンセル料の金額やキャンセル料がかかる期間、キャンセル料の支払方法について明確に記載しておくようにしましょう。
飲食店のキャンセル料の例
飲食店の場合には、例えば以下のようなルールを定めることが考えられます。
| 予約当日のキャンセル料の場合 | 100% |
| 予約前日のキャンセル料の場合 | 80% |
| 予約の2~3日前のキャンセルの場合 | 50% |
| 予約4~7日前のキャンセルの場合 | 20% |
| それ以前のキャンセル | 無料 |
これは一例であり、キャンセル料がかかる期間やキャンセル料の額は自由に設定ができますが、上記のとおり、高額に過ぎるキャンセル料は無効となる可能性がありますので、注意が必要です、
例えば、1か月前に予約をした場合にも、予約時から100%のキャンセル料がかかるという設定をすると、飲食店側が代わりの予約を受け付けたりすることが可能である・食材の準備をしてしまっているといった事情がなく、通常生ずる損害の額を超えるとして無効となる可能性があるでしょう。
宿泊施設の場合
宿泊施設の場合、以下のようなルールを定めることが考えられます。
| 宿泊前々日までのキャンセル | 無料 |
| 宿泊前日のキャンセル | 20% |
| 宿泊当日のキャンセル | 100% |
宿泊施設の場合も、1か月前からキャンセル料が100%かかるといった設定については、代わりの宿泊客の予約を受けつけることが可能な期間がある等の理由で、無効となる可能性があるでしょう。
なお、宿泊約款の定め方については、国土交通省のモデル宿泊約款も参考にするとよいでしょう。
3. キャンセル料の請求方法
直接請求する
予約した顧客が訪れずにキャンセル料が発生した場合には、まずは相手と直接交渉しましょう。
相手と連絡が取れるよう、予約時に連絡先(電話番号やメールアドレス)を必ず確認しておくようにしましょう。
メールアドレスが分かる場合には、キャンセル料を請求した記録が残るため、メールでの連絡も併せて行うことをお勧めします。
内容証明郵便を送付する
相手に連絡をしてもキャンセル料が支払われない場合には、内容証明郵便を活用することを検討しましょう。
内容証明郵便とは、誰が、いつ、どんな内容の文書を誰に対して送付したのかを、郵便局が証明してくれる制度です。
裁判において、相手にキャンセル料の請求をしたことを明確な証拠として提出することが可能となると共に、相手にも本気度が伝わりやすいというメリットもあります。
裁判手続きを利用する
上記の方法でも相手が対応しない場合には、裁判手続きを利用することを検討しましょう。
通常の民事訴訟手続きのほか、キャンセル料の額によっては支払督促(金銭等を請求する場合において、債権者の申立てにより、その主張から請求に理由があると認められる場合に、裁判所が支払督促を発する手続をいいます)や少額訴訟(60万円以下の金銭の支払を求める訴えについて、原則として1回の審理で紛争解決を図る手続きをいいます)の活用も検討しましょう。
4. キャンセル料を確実に回収するために
キャンセル料の回収ができないと、お店にとっては大きな損害となってしまいます。
確実に回収するためにも、以下のように、事前にできる限りの予防策を講じるとよいでしょう。
キャンセルポリシーを明確にする
予約客から「キャンセル料については合意していない」「予約時に認識していなかった」等と言われるのを防ぐためにも、キャンセルポリシーは明確に設定し、必ず予約画面等に分かりやすく表示しておくようにしましょう。
連絡先等の情報を確認する
予約客が現れなかった際にキャンセル料を請求する旨の連絡を確実に取れるよう、なるべく予約客の連絡先等の情報を確認したうえで予約を受け付けるようにしましょう。
特に、キャンセル料が高額になりそうな場合等には、住所まで確認することも検討しましょう。
クレジットカード情報の登録を必須とする
予約時にクレジットカードの登録を必須とすることで、キャンセル料を確実に回収することができます。
近年では、予約システムにおいてクレジットカードの登録を必須とする店舗も増えていますし、そういったシステムを提供するプラットフォームもあるので、利用を検討してもよいでしょう。
予約時に前受金を預かる
予約時に一定の前受金を預かることも対策として考えられます。
ただし、予約を躊躇する顧客もいることが考えられますので、提供するサービスの種類や額等を踏まえて検討するとよいでしょう。
5. まとめ
無断で予約をキャンセルするノーショーや、当日の予約キャンセルは、企業にとって大きな損害となることがあります。
また、キャンセルに伴うトラブルを可能な限り防ぐためにも、キャンセルポリシーの作成も非常に重要です。
当事務所には、都内の大手IT企業で企業内弁護士として勤務していた弁護士が所属しており、キャンセルポリシーのリーガルチェック等も可能ですので、問い合わせフォームよりお気軽にお問い合わせください。
