相手の同意なく性交渉等をしてしまった場合、不同意性交の罪に問われるおそれがあります(刑法の改正により、「強姦罪」と「強制性交罪」は、「不同意性交罪」に名称が変更になりました)。
本稿では、不同意性交罪で被害届を出された場合の法的リスク及び対処法について、弁護士が解説いたします。
目次
1. 不同意性交罪とは
(1)要件
下記の行為又は事由(これらに類する行為又は事由を含む)により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、性交、肛門性交、口腔性交又は膣若しくは肛門に身体の一部(陰茎を除く。)、若しくは、物を挿入する行為であってわいせつなものをすることが要件の1つです(刑法第177条1項、刑法第176条1項)。
つまり、下記①〜⑧の行為等により、相手が拒否したいと思っているにもかかわらず、拒否することが困難な状況を作り出して、性交等を行った場合に、不同意性交罪が成立します。
改正前の強姦罪や強制性交罪は、暴行又は脅迫により性交渉をした場合のみが処罰の対象でしたが、刑法改正により、処罰範囲が、「暴行又は脅迫」の要件については、①〜⑧の行為又は事由に拡張されました。
また、「性交」の要件については、「性交」に限定されず、性交類似行為(肛門性交やオーラルセックス、アダルトグッズを膣内に挿入する行為など)も処罰の対象となりました。
- 暴行若しくは脅迫を用いること又はそれらを受けたこと
- 心身の障害を生じさせること又はそれがあること
- アルコール若しくは薬物を摂取させること又はそれらの影響があること
- 睡眠その他の意識が明瞭でない状態にさせること又はその状態にあること
- 同意しない意思を形成し、表明し又は全うするいとまがないこと(=相手が同意していないこと)
- 予想と異なる事態に直面させて恐怖させ、若しくは驚愕させること又はその事態に直面して恐怖し、若しくは驚愕していること
- 虐待に起因する心理的反応を生じさせること又はそれがあること
- 経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又はそれを憂慮していること
また、「行為がわいせつなものではないとの誤信をさせ、若しくは行為をする者について人違いをさせ、又はそれらの誤信若しくは人違いをしていることに乗じて、性交等をした」場合も対象になります(刑法第177条2項)。
例えば、性交等が性的な行為ではないと騙して性交等を行ったり、目隠しをして別人と勘違いさせて性交渉をした場合にも不同意性交罪が成立します。
さらに、相手が16歳未満の場合は(ただし、13歳以上の場合は行為者が5歳以上年長である場合に限る)、上記要件にかかわらず、性交渉等をするのみで不同意性交罪が成立します(刑法第177条3項)。
(2)法定刑(罰則)
不同意性交罪の法定刑は5年以上の有期拘禁刑と定められています。
なお、「拘禁刑」とは、これまでの懲役刑と禁錮刑を一本化したもので、2022年6月17日公布の刑法改正により規定されたものです。
公布から3年以内(2025年6月16日まで)に施行される予定です。
懲役刑と禁固刑は、刑務作業が義務化されているか否かの差はありますが、刑務所に収容・拘束される点では変わりがなく、実質的に同じ刑罰といえます。
(3)公訴時効
不同意性交罪の公訴時効(犯罪行為から一定期間が経過すると犯人を処罰することができなくなるもの)は、15年です(刑事訴訟法第250条3項2号)。
ただし、被害者が児童の場合には、犯罪が終わったときから18歳になるまでの期間分、公訴時効が延長されます。
例えば、13歳の子が不同意性交罪の被害に遭った場合、18歳になるまでの5年分が延長されるため、公訴時効は15年+5年=20年間は公訴時効が成立しないことになります。
2. 被害届が提出されるとどうなる?
(1)逮捕される可能性
被害届が提出された後、警察が捜査をして「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」(=不同意性交という罪を犯したという疑いがあることが客観的・合理的な根拠によりいえること)があり、かつ、逃亡や罪証(証拠)隠滅のおそれがあるなど逮捕の必要性があると判断した場合、逮捕される可能性があります。
逮捕されるか否かは、被害者の供述内容や物的証拠の有無、加害者の認否(不同意性交を認めるか否か)、住所が定まっているか、定職に就いているか、家族がいるかなどの事情を総合的に考慮した上で決定されます。
(2)捜査が開始される可能性
被害届が提出された場合、警察が捜査を開始する可能性があります。
捜査の具体的内容は、当事者や第三者からの事情聴取、防犯カメラ映像の解析、DNA鑑定、捜索差押え(家宅捜索)等です。
警察から電話があった場合には、捜査が開始されている可能性が高いです(固定電話の下3桁の番号が「110」の場合は警察からの着信です)。
警察からの連絡を無視してしまうと、逃亡や罪証(証拠)隠滅のおそれがあるとして、逮捕されるリスクが高くなるので、警察から連絡があった場合には必ず対応するようにしましょう。
(3)検察官送致
捜査の結果、警察が検察官に送致することが相当であると判断すると、記録が警察から検察官に送られます(書類送検)。
逮捕により身柄が拘束されている場合には、身柄が検察官に送られます(身柄送検)。
送検後は、検事が当事者に再度事情聴取を行うのが通常です。
追加の捜査の必要があると判断された場合には、検察官指揮のもと、追加の捜査が行われ、最終的に、起訴するか否か(刑事裁判にかけるか否か)を決定します。
(4)起訴
検察官が起訴すると、刑事裁判が行われます。
刑事裁判の有罪率は約99.9%ですので、起訴されてしまった場合、刑事罰を課される可能性が極めて高くなります。
3. 被害届を提出された場合の法的リスク
これまで述べてきたとおり、被害届を提出された場合、逮捕されたり、刑事罰を課される可能性があります。
不同意性交罪の法定刑は5年以上の有期拘禁刑と重く、前科もついてしまいます。
また、起訴されることで、報道されてしまう、家族や職場に発覚してしまうというリスクがあり、場合によっては、離婚や解雇に発展しかねません。
逮捕される可能性もあり、その場合も、家族や職場に発覚してしまう可能性が高いです。
また、不同意性交罪に該当する行為は、民法上の不法行為(民法第709条)にも該当するため、慰謝料請求や休業損害の賠償請求(不同意性交により会社を休まざるを得なくなり収入が減少したことの損害を賠償するよう求めること)をされるおそれがあります。
このように、不同意性交罪で被害届を出されることは非常に大きなリスクといえます。
4. 対処法
これらのリスクを回避するためには、早期に相手と示談をすることがベストな方法です。
示談が成立すると、起訴される可能性を大幅に減少させることができます。
示談の成立時には、「宥恕文言」といって、「刑事処罰を求めない」という内容を含めるのが通常です。
この文言がある場合、検察官は示談の成立と被害者の処罰を望んでいないことを重視し、不起訴の判断を下すことがほとんどです。
これまで述べてきたとおり、被害届が提出されると、刑事事件が進んでいく可能性がありますが、検察官が起訴した後に示談が成立したとしても、検察官が起訴を取り下げたり、裁判所が示談の成立を理由に公訴棄却(刑事裁判の打切り)や無罪判決を下すということはありません。
したがって、刑事事件によるリスクを回避するためには、早期に示談を成立させることが重要です。
中には、同意のもとの性交であったにもかかわらず、被害届を出されてしまったという方もいらっしゃると思います。
その場合、無罪を主張し徹底的に争うという選択肢もあり得ます。
しかし、相手が被害届を提出しているということは、当事者の認識が異なっている(相手は性交等に同意する意図はなかったなど)という可能性が高く、刑事事件化する可能性は否定できません。
互いの主張が異なっている場合でも、示談の選択肢を排除してしまうのではなく、相手の主張や証拠の内容を精査した上で、方針を検討されるのが良いでしょう。
5. 示談交渉を弁護士に依頼するメリット
(1)示談成立の可能性が高まる
不同意性交罪という事件の性質上、被害者は、加害者と直接連絡を取ることを拒否することがほとんどです。
また、相手の連絡先が分からない場合には、そもそも相手と連絡を取る手段すらないことになります。
被害届が出されている場合、警察は相手の連絡先を把握していますが、警察が被疑者本人(捜査機関に犯罪の嫌疑をかけられている者)に相手の連絡先を教えてくれることはまずありません。
弁護士に示談交渉を依頼することで、弁護士が警察官を通じて相手の連絡先情報を取得したり、依頼者を代理して相手と連絡を取るなど、相手と示談交渉を進められる可能性が高くなります。
私が代理人として就任したケースでは、相手側とまったく連絡を取ることができなかったことはほとんどなく、無事に示談が成立していることが多いです。
刑事事件や民事事件で最後まで争ったとしても、互いにメリットは小さく、早期に示談をした方が相手にとってもメリットが大きいので、弁護士がそのことを丁寧に説明することで相手に納得してもらえることが示談成立に繋がっていると考えられます。
(2)逮捕の可能性を低下させることができる
前述のとおり、被害届が提出された場合、逮捕される可能性は否定できませんが、早期に弁護士を就けて示談交渉を開始することで、警察は、逃亡のおそれや罪証隠滅のおそれがないと判断するため、逮捕状を請求しない可能性が高まります。
また、万が一、逮捕されてしまった場合でも、事前に弁護士を就けていれば、事情を把握している弁護士がすぐに身柄解放に向けて動いてくれるので、長期の身柄拘束のリスクや家族・職場に発覚するリスクを下げることができます。
(3)書面を作成してもらえる
示談が成立した場合、示談書を作成することがほとんどです。
示談書には、前述した宥恕文言(刑事処罰を求めないという内容の条項)や清算条項(示談金の支払により今回の事件の金銭面に関する清算は完了したことを確認する条項)を入れることで、後の紛争を防止することに繋がります。
弁護士に依頼することで、法的に有効な示談書を作成してもらうことができます。
また、既に検察官に送致されている場合、示談が成立していても、必ず不起訴になるとは限りませんので、不起訴意見書を提出すべきです。
不起訴意見書とは、今回の事件は不起訴とするのが相当であるという意見をその理由と共にまとめたもので、検察官の終局処分(起訴とするか、不起訴とするか)に影響を与えます。
弁護士に依頼した場合には、不起訴意見書の作成を一任することもできます。
6. まとめ
不同意性交罪で被害届を出されることは大きなリスクを抱えることを意味します。
刑事罰や逮捕、高額な慰謝料などの重大な法的リスクを回避するためには、迅速な対応が必須ですので、不同意性交等でトラブルが生じている方は、早急に弁護士に相談をした方が良いでしょう。