「不貞行為をされてしまったので慰謝料請求を考えているけど、いくらくらい請求するのが適切なんだろう」「不貞行為をしてしまって、慰謝料を請求されているけど、いくらくらいが適切なんだろう?」不貞行為に関して、こういったお悩みを持っている方は多いかとお思います。
そこで、本記事では、不貞行為の慰謝料の額について解説します。
目次
1. 慰謝料に関する基本的知識
「慰謝料」という言葉は、日常生活でも耳にすることがあるかと思いますが、法的には「損害賠償」のことを指します。
そして、損害賠償とは、不法行為などによって他人に損害を与えた場合に、その損害を補償するものをいいます。
例えば、交通事故を起こして相手の車に傷をつけてしまった場合、自己の被害者には、その傷の修理費という損害が発生します。
その損害を補償するのが、損害賠償であり、加害者には、修理費相当額の支払い義務が生じます。
ただし、慰謝料の場合は、車の事故の例のような金銭的損害を賠償するものではなく、精神的苦痛に対する損害の賠償です。
精神的苦痛のため、物の修理費のように、額が決まっているものではありません。
不貞行為によって生じた精神的苦痛を金銭で評価し、損害額を決定することとなります。
2. 慰謝料の相場
では、不貞行為の慰謝料はどのように決定され、相場はいくらくらいとなるのでしょうか。
実は、不貞行為の慰謝料については、はっきりとした相場というものはなく、「不貞行為の慰謝料は●●円」と決まっているものではありません。
前述のように、その人が受けた精神的苦痛を金銭的に評価して決めるものであるため、同じ「不貞行為」という行為であっても、不貞行為をされた側がどの程度の精神的苦痛を被ったかによって、金額が変わってくるためです。
もっとも、そうはいっても相場が全くない、というわけではなく、過去の裁判例などをもとに、おおよその相場は決まっています。
過去の裁判例から考えると、不貞行為の慰謝料は、おおよそ50万円~300万円程度であることが多いです。
また、一般的には、不貞行為により離婚や別居に至ったときの方が慰謝料が高額になる傾向にあり、慰謝料が200万円前後に、逆に、不貞行為発覚後も婚姻生活を継続している場合には、50万円から100万円程度となります。
3. 慰謝料を増減させる要因
不貞行為により離婚や別居に至ったか以外にも、慰謝料の額を増減させる要因は多くあります。
婚姻期間
婚姻期間が長ければ長いほど、夫婦がその期間をかけて築き上げた婚姻生活に与える影響は大きいといえ、不貞行為をされた側の精神的苦痛は大きくなります。
そこで、婚姻期間が長ければ長いほど、慰謝料は高額となる傾向にあります。
逆に、婚姻期間が1年未満など、極端に短い場合には、慰謝料が大幅に減額されうるといえるでしょう。
不貞行為の期間や回数
長期にわたり不倫相手との間で関係を続けている場合や、不貞行為を頻繁に行っている場合も、不貞行為が短期間である場合や、1回限りの場合に比べて、精神的苦痛が大きくなりえるでしょう。
そこで、不貞行為の期間や回数も慰謝料の額に影響を与える要因となります。
子供の有無
子供がいる場合、特に未成熟の子がいる場合には、不貞行為により夫婦関係に悪影響を及ぼしたり、離婚や別居に至った場合の子供の養育に与える影響が大きいといえます。
また、一方が未成熟の子の養育に奮闘している間に他方が不貞行為をした場合には、不貞行為をされた側が被る精神的苦痛が大きいといえ、慰謝料が高額となる可能性があります。
不貞行為の相手方の妊娠の有無
不貞行為の相手方が妊娠しているような場合には、不貞行為をされた側からすれば、配偶者が他に子供を作っていたという点で大きなショックを受けるといえ、慰謝料が増額される傾向にあります。
不貞行為の相手方の数
一般的に、慰謝料の額は、不貞行為の態様が悪質であればあるほど高額となります。
例えば、複数の不貞相手と同時に関係を持っているといったような場合には、不貞行為の態様がより悪質であるといえ、慰謝料が増額される傾向にあります。
不貞を行った側の態度
不貞行為発覚後の態度についても、不貞行為をした側の悪質性の判断に影響を与える事情です。
例えば、不貞発覚後に開き直って一切謝罪をしない、明らかな不貞の証拠があるにもかかわらず不貞行為を否認し不合理な弁解を繰り返す、過去に不貞が発覚していて二度としないと約束していたにもかかわらず不貞行為を行ったなどという場合には、慰謝料が増額される傾向にあります。
逆に、真摯に謝罪をし、二度としない旨の誓約をしている場合などには、慰謝料が減額されることがあります。
また、不貞発覚後にも、不貞行為を継続している場合には、反省の態度が見られないと判断され、慰謝料が増額される可能性があります。
不貞行為を行った側の資力
例えば、不貞行為を行った側が経営者であり、世間一般の所得と比較して極めて高額な所得を得ている場合には、慰謝料も高額となる場合があります。
逆に、不貞行為をした側が資産をほとんど有してない場合には、慰謝料の額を決めたとしても、そもそも支払うことができないという理由から、慰謝料の額が低額となる傾向があります。
不貞行為に至った原因
不貞行為をされた側にも不貞行為に至った原因があるといえる場合には、慰謝料が減額されることがあります。
例えば、DVやモラハラをしていた場合や、夫婦間の性交渉に一切応じなかった場合などは、不貞行為に至った原因があると判断されうるでしょう。
他の社会的制裁の有無
例えば、不貞行為により職場を退職せざるを得なくなり、既に退職したといった場合には、既に一定の社会的制裁を受けているとして、慰謝料の額が減額されることがあります。
その他の事情(不貞行為相手の立場や不貞行為際する役割)
例えば、不貞行為の相手が会社の上司で、年齢も上といった場合、強く肉体関係を迫られて断りづらかったなどということがあり得るため、不貞行為の相手の立場やどちらが主導したかなども、慰謝料の額を決定する際の要因となりうるという見解もあります。
ただし、この点に関しては議論が分かれていて、慰謝料の額に影響を及ぼすものではなく、慰謝料の分担割合にのみ影響を与える要素であると判断した裁判例も存在します。
慰謝料というのは不貞行為をした両者(不貞相手と配偶者)が連帯して支払義務を負うものであることから、請求側は、両者に請求することも、どちらか一方に全額を請求することも可能です。
片方が全額支払った場合には、もう片方は、自分の負担割合を超えた部分の金額を、もう一方の相手に請求できることとなります。
この負担割合を決めるにあたっては、両者の責任の大きさを加味して決められることとなります。
裁判例では、どちらが不貞行為を主導したかによって、責任の大きさが決まってくるといえるので、不貞行為を主導したかといった要素は、負担割合を決める要素にはなるものの、不貞行為をされた側の精神的苦痛の大きさを算定する要素にはならないという判断がされました。
4. 慰謝料が相場より高額・低額となった事例について
前述のとおり、慰謝料の額については、様々な要因を考慮して決定されますので、事情によっては、相場より大幅に高額な慰謝料が認められた、ということもありますし、逆に、相場より低い慰謝料しか認められなかった、ということもあります。
ここでは、実際に相場より高額な慰謝料が認められた事例や、低額な慰謝料のみしか認められなかった事例を紹介します。
慰謝料として800万円が認められた事例(東京地裁平成21年4月8日判決)
本件は、妻が夫に不貞慰謝料を請求した事例です。
不倫関係が17年という長期の間で継続していたことに加え、夫が十分に生活費を渡していなかったこと、不貞相手との間で子供を作っていたこと、さらに、夫が不貞行為の証拠を隠蔽していたことなど、悪質性の高い行為を繰り返していたと判断され、慰謝料が非常に高額となりました。
慰謝料として1000万円が認められた事例(岡山地裁平成15年2月18日)
本件も、夫が妻に不貞慰謝料を請求した事例です。
夫が不貞相手の女性を自宅に連れ込むなど、態様が悪質であったことや、婚姻期間が長期にわたっていたこと、さらに、夫がたびたび暴力をふるうなど、不貞行為のみにとどまらずDVも行っていたことから、1000万円という非常に高額の慰謝料が認められました。
慰謝料が30万円と判断された事例(東京地裁平成21年11月26日)
本件では、夫が不貞行為をし、妻が慰謝料を請求したものの、慰謝料が30万円しか認められませんでした。
不貞行為前から、夫が性交渉に誘っても妻が応じていなかったこと、妻がたびたび自宅に帰っていたなど、妻にも不貞行為に至った一因があると判断され、慰謝料が低額となった事例です。
5. まとめ
以上のように、同じ「不貞行為」がされたとして慰謝料を請求する場合でも、慰謝料は、様々な事情を考慮して決定されるため、どの程度が適切であるか、ご自身のみでは判断することが難しい場合も多いでしょう。
本来はより高額な慰謝料を得られるはずであったのに、低額な慰謝料のみで相手と合意してしまった、または、本来支払う必要のない高額な慰謝料を支払う合意をしてしまった、ということがないよう、不貞慰謝料でお困りの場合は、一度弁護士に相談し、適切な慰謝料額を確認することをお勧めします。