知人に駐車場を貸したが賃料が支払われないので自動車を移動してもらいたい、自分の土地に見知らぬ自動車が放置されているなどの相談は少なくありません。
駐車場や土地を占有されていることで、駐車場や土地の利用ができずお困りの方もいらっしゃると思います。
このような場合に有効な法的手段が「自動車収去土地明渡請求」です。
本稿では、自動車収去土地明渡請求の方法を解説いたします。
目次
1. 自動車収去土地明渡請求とは
「自動車収去土地明渡請求」とは、土地の所有者が土地に無断で駐車されている自動車を撤去し、土地を明け渡すよう求めることです。
請求の相手方は、土地の占有者、すなわち、自動車の所有者及び使用者です(ただし、稀なケースではありますが、所有者及び使用者とは別の者が占有者であることもあります)。
2. 請求の要件
①土地の所有者であること
原則として、自動車収去土地明渡請求を行うことができるのは、土地の所有者になります。
所有者が不明又は不明確である場合には、法務局で土地の全部事項証明書(登記簿)を取得するなどして、土地の所有者を確認するようにしましょう。
なお、土地が共有の場合、不法占有者に対する明渡請求は共有者全員で行う必要はなく、共有者の1人が行うこともできます(「保存行為」といいます)。
②土地の占有
自動車が駐車・放置されたままになっているなど、実際に土地を占有されていることが要件の1つです。
「占有」といえるかは、様々な事情を考慮して評価されることになりますが、例えば、月1回、1時間程度、無断駐車されることがあるという場合には、占有と評価することは難しいでしょう。
③土地の占有権限がないこと
土地を不法に占有している、すなわち、土地に自動車を駐車(土地を占有)する正当な権限を有していないことも要件の1つです。
例えば、駐車場を賃貸している(賃貸借契約)、無償で駐車を許可している(使用貸借契約)という場合には、正当な占有権限があるため、明渡しを求めることはできません。
もっとも、駐車場を賃貸していたが長期間賃料の支払が滞っている、無償で駐車を許可してきたが土地を別の用途に使用することになったなど、賃貸借契約や使用貸借契約に解除事由が生じた場合には、占有者に対し、契約を解除する旨の意思表示を行うことで、占有権限が失われることになるため、明渡しを請求することができます。
3. 賃料相当損害金の請求
土地を不法に占有している相手方には、自動車の収去と土地の明渡しだけではなく、不法に占有を開始した時から明渡しに至るまでの賃料相当損害金を請求することができます。
「賃料相当損害金」とは、相手方が不法に土地を占有していなければ、第三者に賃貸するなどして得られたはずの利益分の損害金です。
賃料の算定方法は、駐車場として賃貸している場合、実際に賃貸している賃料を基準とすることが多いです。
駐車場として利用していない又は賃貸をしていない場合には、近隣の駐車場の月額賃料を参考に金額を算定することが一般的です。
4. 請求の方法
①自動車の所有者を特定する
前述のとおり、自動車収去土地請求の相手方は、自動車の所有者及び使用者です。
自動車の所有者及び使用者が不明の場合、登録自動車であれば、ナンバープレート記載の情報から運輸局に照会することで、所有者及び使用者を特定することができます。
運輸局に照会への照会には正当な理由が必要となりますので、自動車収去土地明渡請求を行う目的であること及びその理由を具体的に説明するようにしましょう。
ご自身での対応が難しいという方は、弁護士に依頼することで、弁護士が代わりに弁護士会照会制度を利用して運輸局に照会を行ってくれます。
また、自動車が知人のものである場合、運輸局への照会は必要ないと考える方もいらっしゃると思いますが、使用者が知人であっても所有者が異なるケース、特にローンで自動車を購入している場合には、所有権留保というローンを完済するまでは自動車販売店ないし信販会社が所有権を有する旨の特約が付いていることが多いです。
また、使用者は知人であるが、所有者は親族であるというケースも少なくありません。
そのため、自動車が知人のものである場合でも、運輸局に照会をし、所有者を特定することが望ましいです(ただし、相手方の車検証の写しを所持している場合は不要です)。
②裁判外での請求
所有者及び使用者を特定できたら、裁判外で所有者と使用者に自動車の収去を請求しましょう。
前述した運輸局への照会を行うことで、所有者及び使用者の住所も特定できますので、所有者及び相手方の住所に書面を郵送する方法が良いでしょう。
郵送の方法は、請求を行ったこととその内容を記録に残すために、内容証明郵便の方法とするのがベストです。
内容証明郵便の送付方法やメリットは、以下のコラムで解説しておりますので、ご参照ください。
また、相手方に内容証明郵便を送付したが、「あて所に尋ねあたりません」という理由で返送されてしまったというケースも散見されます。
この場合、内容証明郵便の住所の記載が誤っているか、相手方が運輸局に登録されている住所地から転居している可能性が高いです。
相手方が転居している場合には、相手方の住所地の市区町村役場に住民票や戸籍の附票を取得し、現住所地を特定する必要があります。
この際も、運輸局に対する照会と同様に正当な理由が必要になります。
ご自身で相手方の住所を特定することが難しい場合には、弁護士に依頼すると、職務上請求という方法で相手方の住所地を調査してもらうことができます。
③訴訟提起
相手方が裁判外の請求に応じない場合には、訴訟提起(裁判上の請求)を検討しましょう。
管轄の裁判所は、対象の土地の所在地を管轄する地方裁判所又は簡易裁判所、相手方の住所地を管轄する地方裁判所又は簡易裁判所です(ただし、事前に当事者で合意した管轄裁判所がある場合には当該裁判所が管轄裁判所になります)。
④強制執行
自動車収去土地明渡請求を認める判決がなされたにもかかわらず、相手方が自動車を収去せず、土地を明け渡さない場合には、強制執行を検討しましょう。
強制執行とは、判決などの債務名義を取得した者の相手方に対する請求権を裁判所が強制的に実現する手続です。
自動車収去土地明渡請求の強制執行の場合、裁判所の執行官という特別な権限を有する者が自動車を収去し、土地の明渡しを実現させることになります。
自動車の収去に当たっては、レッカーの手配や自動車の保管場所の確保が必要となります。
レッカーや自動車の保管にかかる費用は、相手方の負担となりますが、経験上、任意で自動車を収去しない相手方は、連絡が取れなかったり資力がないことが多いため、最終的に請求者の負担となっているケースは少なくありません。
自動車収去土地明渡請求を行う場合には、最悪の場合、強制執行にかかる実費の負担を負う可能性があることを念頭に置いておく必要があるでしょう。
5. 注意点
自動車収去土地明渡請求の相談において、「請求が認められることが明らかなのであれば、勝手に自動車を処分してしまって良いですか?」という質問を受けることがあります。
しかし、法的に請求が認められる事案であっても、裁判手続を経ずにご自身で相手方の自動車を収去してしまうことは、法律上禁止されている「自力救済」に該当し違法となります。
また、刑法上の器物損壊罪にも該当し得るため、刑事事件化するリスクもあります。
そのため、裁判手続を経ずにご自身で自動車を収去してしまうことは絶対にやめましょう。
6. 自動車収去土地明渡請求を弁護士に依頼するメリット
運輸局への照会を代行してもらえる
前述のとおり、自動車収去土地明渡請求を行うためには、所有者及び使用者を特定するために、運輸局への照会が必要となります。
弁護士に依頼することで、弁護士会照会制度により運輸局への照会を代行してもらうことができます。
交渉の窓口になってもらえる
弁護士に依頼することで、弁護士がすべての交渉の窓口となってくれるため、相手方と直接やりとりをする必要がなくなります。
また、請求者本人からよりも弁護士から請求した方が、相手方にプレッシャーがかかることが多く、任意の明渡しが実現する可能性が高まります。
訴訟・強制執行の対応をしてもらえる
自動車収去土地明渡請求訴訟や強制執行の申立ては、書類の作成や裁判手続において、専門的な知識と経験が必要となるため、ご自身で対応することは非常に難しいと思われます。
訴訟提起や強制執行をお考えの方は、弁護士に手続の代行を依頼することをお勧めいたします。
7. まとめ
自動車収去土地明渡請求は、前述のとおり、運輸局への照会、相手方の現住所の特定、訴訟提起や強制執行の手続が必要となる可能性があり、法的請求の中でも手続が難しい類型の1つといえます。
したがって、自動車収去土地明渡請求をお考えの方は、まずは弁護士に相談の上、ご自身で対応されるか、弁護士に依頼するかを検討されると良いでしょう。
当事務所は、自動車収去土地明渡請求を含む不動産案件に注力しており、自動車収去土地明渡請求の経験もございます。
当事務所への相談をご希望の方は、問い合わせフォームよりご連絡ください。