X(旧Twitter)で誹謗中傷されている、なりすましを受けているといった場合には、投稿者を特定して投稿者に対し損害賠償請求をすることを検討するとよいでしょう。
そこで、本記事では、Xで誹謗中傷やなりすましの被害にあっている場合の対処法・流れについて解説します。
1. Xで起こりやすい権利侵害
Xで誹謗中傷やなりすましを受けている場合、相手がこちらの法律上保護された権利を侵害しているといえれば、投稿者の特定や損害賠償請求が可能となります。
X上で侵害がされやすい代表的な権利は以下のとおりです。
①名誉権侵害
名誉とは、判例上、「人の品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的評価」と定義されています(最大判昭和61年6月11日)。
つまり、投稿により人の社会的評価を低下させた場合に名誉権侵害が成立します。
例えば、「Aさんは不倫をしている」と投稿した場合、Aさんは不倫をするような人物であるとして、Aの社会的評価が低下するとして、名誉権侵害が成立しえます。
②名誉感情侵害
名誉感情とは、判例上、「人が自己自身の人格的価値について有する主観的な評価」であるとされています(最二小判昭和45年12月18日)。
名誉権は他者からの評価であるのに対して、名誉感情侵害は、人が自分自身に感じている評価や自尊心のことです。
例えば、「バカ」「はげ」などといった投稿は、その人の社会的評価は低下しないものの、自尊心を傷つけられたと感じるでしょうから、名誉感情侵害が成立しうるでしょう。
③肖像権侵害
肖像権とは、人がみだりに他人から写真を撮影されたり、撮影された写真をみだりに公表・利用されない権利です。
人の写真を無断でX上に投稿した場合には、肖像権侵害が成立しうるでしょう。
④プライバシー権侵害
プライバシー権とは、一般に「自己の私生活上の事柄をみだりに公開されない権利」と解釈されています。
例えば、住所や勤務先などの本人が公開していない情報をXに投稿した場合には、プライバシー権の侵害に該当する可能性があります。
⑤アイデンティティ権侵害
裁判例上、他者から見た人格の同一性を偽られ、その人格の同一性に関する利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超える場合、アイデンティティ権侵害が成立すると解釈されています。
Xにおいて、本人でもないのに本人と名乗って投稿をしていた場合などには、アイデンティティ権の侵害にあたる可能性があります。
2. Xの投稿で権利を侵害されている場合の対処法
①X社への報告
Xでは、利用規約に違反した投稿を報告するための仕組みが用意されています。
該当のポスト(ツイート)の右上メニューボタンから「ポストを報告」を選択し、削除依頼をすることができます。
また、Xのヘルプセンターの問い合わせフォームから報告をすることもできます。
なお、削除依頼によりポストが消えてしまうと、後々投稿者の特定ができなくなってしまいます。
まずは該当のポストを保存(スクリーンショット等)したうえで削除依頼を行うようにしましょう。
また、スクリーンショット等で証拠を保存する場合、「投稿の日付」と「投稿のURL」が分かる形で保存しておくことが重要です。
②被害届の提出や刑事告訴をする
ポストが名誉棄損(公然と事実を適示し、人の社会的評価を低下させた場合に成立する犯罪(刑法第230条))や侮辱罪(公然と人を侮辱した場合に成立します(刑法第231条))に該当する場合には、警察に被害届や告訴状を提出することで、警察が捜査を開始してくれることがあります。
警察が捜査を開始してくれれば、相手方より示談の申し入れがされる可能性が高いので、その中で投稿の削除や慰謝料を求めていくとよいでしょう。
③投稿者を特定して損害賠償請求をする
ポストが犯罪には該当しない場合や、刑事事件にすることは避けたい場合には、投稿者を特定したうえで、特定できた相手方に対して損害賠償請求をすることが考えられます。
具体的には、ポストが前述したような権利を侵害しており、相手の違法な権利侵害行為によって精神的苦痛を被ったとして、慰謝料を請求するのが一般的です。
3投稿者の特定の方法
相手の氏名や住所が分からないと、損害賠償請求は難しいですし、被害届や刑事告訴も受理されない可能性が高いため、投稿者が不明な場合には、まずは投稿者を特定することが必要です。
Xの投稿者を特定されるためには、発信者情報開示命令という手続きによるのがお勧めです。
発信者情報開示請求という裁判上の手続きでも投稿者を特定できますが、発信者情報開示命令は、より簡易・迅速に発信者情報の開示を受けられるよう、2022年10月1日に施行された改正プロバイダ責任制限法(民事関係手続等における情報通信技術の活用等の推進を図るための関係法律の整備に関する法律)により新設された手続きであり、現在の実務上ではこちらの手続きを利用する場合がほとんどです。
発信者情報開示命令の流れは、以下のとおりです。
①X社宛の申立てをする
まずは、X社宛に申立てを行います。
発信者情報開示命令の申立て
X社に開示を求める情報は、大きく分けて(ⅰ)投稿の際に用いられたIPアドレスと(ⅱ)X社に投稿者が登録しているアカウントの情報(電話番号やメールアドレス)が考えられます。
IPアドレスとは、ネットワークに接続する際に機器に割り振られた番号のことです。
X社では、投稿者の氏名や住所といった情報を保有していないことから、まずはIPアドレスや電話番号の開示を受け、そこから投稿者を特定していくことになります。
東京地方裁判所に申立てを行う場合、必要な書類は、以下のとおりです。
発信者情報開示命令の申立ては、東京高等裁判所、名古屋高等裁判所、仙台高等裁判所又は札幌高等裁判所の管轄区域内に所在する地方裁判所が管轄を有する場合、それらの地方裁判所だけではなく、東京地方裁判所に申立てができます。
例えば、相手方の所在地が静岡市であり、静岡地方裁判所が管轄を有する場合には、東京地方裁判所にも申立てができます。
- 申立書(写し含め計2通)
- 証拠(対象の投稿のスクリーンショットなど)
- 証拠説明書(証拠の標目や内容を説明するための書類)
- (相手方が法人の場合)資格証明書
- 印紙:1つの申立てにつき1000円
- レターパックライト(相手方に申立書の写しを送付する用)
申立書の書式は裁判所のホームページで確認できます。
発信者情報開示仮処分命令の申立て
IPアドレスの開示については、「開示仮処分」の申立てという方法を取ることもあります。
申立てや手続きについては、開示命令の申立てとほぼ同じで、認められる要件もほぼ同じです。
仮処分命令の手続きを選択すると、裁判所が開示をするよう命令を出してもX社が速やかにIPアドレスを開示しない場合に、間接強制(義務者(=X社)に対し、一定の期間内に義務の履行をしなければ間接強制金を課すことを決定することで義務者に心理的圧迫を加え、債務の履行を促す手続き)という手続きをすぐに取ることができるので、ログの保存期間が残り短いと考えられる場合等、IPアドレスを早急に開示させたいときには仮処分命令の申立てをすることが考えられます。
②裁判所による開示命令の発令
提出した申立書や証拠から、裁判所が開示命令の発令の要件を満たしていると判断した場合は、開示命令の発令がされます。
③アクセスプロバイダ(AP)への発信者情報開示命令申立て
X社からIPアドレスの開示を受けたら、次にアクセスプロバイダ(インターネット接続事業者)に対して発信者情報開示命令の申立てを行います。
自宅でインターネットを利用する場合、通常は住んでいる人が自分でプロバイダと契約をしてインターネットを利用しているので、プロバイダは契約者の氏名や住所等の情報を保有しています。
そこで、プロバイダに対し、開示されたIPアドレスを利用している契約者の情報を開示するよう求めることで、投稿をした人の氏名や住所などが判明します。
④APへの消去禁止命令の申立
プロバイダへ③の開示命令を申し立てる際には、消去禁止命令の申立ても併せて行うことをお勧めします(一つの申立てで同時に行うことができます)。
これは、プロバイダによってアクセスログの保存期間が決まっており、ログが消えてしまうと発信者を特定することができなくなってしまうので、開示命令が出るまでの間ログを消さずに保存してもらうために行う申立てです。
⑤APから発信者への意見照会
プロバイダは、発信者に対して「あなたの情報を開示することに同意しますか」という形で発信者の意見を聞く手続きを行います。
この段階で発信者が意見照会に同意をすれば、プロバイダから発信者の氏名や住所が開示されます。
発信者が開示に同意しなかった場合には、プロバイダは、申立てに対する反論(開示がされるべきかどうかに対するプロバイダ自身の意見)の書面を提出することが一般的です。
⑥開示命令の発令
裁判所が、申立書の記載やプロバイダの反論(申立人からさらに反論の書面が出されることもあります)を踏まえて、発信者情報を開示すべきかどうかを判断し、要件を満たしていると判断した場合には、開示命令が発令され、プロバイダから発信者情報が開示されます。
4. 発信者情報が開示されたら
発信者情報が開示されたのちは、発信者に対して、投稿の削除や損害賠償を求める、名誉棄損など刑法上の犯罪に当たる場合には、刑事告訴を行うなどといった対応が考えられます。
また、上で述べた意見照会の段階で、投稿者が開示に同意している場合、投稿者の側から和解交渉をしたいと連絡が来る場合もあります。
誹謗中傷の場合の慰謝料の相場については、こちらのコラムで、肖像権侵害の場合の慰謝料の相場はこちらのコラムで解説していますので、こちらも参考に、相手と交渉をしていくとよいでしょう。
なお、電話番号やメールアドレスの開示を受けた場合には、それだけでは投稿者はまだ特定できません。
この場合は、弁護士会照会(弁護士が依頼を受けた事件についての証拠や資料を収集したり、事実を調査したりするために弁護士法上認められた照会制度)を利用して、携帯電話会社等に該当の番号やメールアドレスを利用している契約者の情報を照会する必要があります。
5. まとめ
X社に対して発信者情報開示命令の申立てをする場合、ログの保存期間の関係で早急な対応が必要となったり、仮処分命令の申立てをした方がいいかが不明であったりと、ご自身のみでは対応が難しい場合もあるでしょう。
また、開示を受けられた情報が電話番号やメールアドレスのみであった場合、弁護士に依頼をしないと弁護士会照会を利用することができません。
当事務所では、都内大手IT企業にて企業内弁護士として勤務していた経験のある弁護士が所属しており、開示命令の申立てから相手への損害賠償請求まで、一貫して対応することが可能です。
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