亡くなった人(被相続人)に法定相続人がおらず、遺言書も作成されていない場合、被相続人の財産は国庫に帰属するという決まりがあります(民法第959条)。
被相続人と親しくしていても、法律上相続人にあたらない場合には、原則として被相続人の財産を受け取ることができません。
しかし、特別縁故者に該当すれば、被相続人の財産を受け取ることができます。
そこで、本記事では、どのような場合に特別縁故者として認められるかや、財産を受け取る方法などを解説します。
目次
1. 特別縁故者とは
特別縁故者とは、被相続人と特別の縁故があったこと(=特別親しい関係にあったこと)を理由に、被相続人の財産の分与を受けられる人のことをいいます。
被相続人に法定相続人がおらず、遺言書も作成されていない場合、被相続人の財産を相続する人がいないため、相続人の財産は、最終的に国庫に帰属します。
しかし、被相続人と特別親しくしていた人がいれば、その人にも財産を与えるべきという理由から、民法では、以下のいずれかに該当する人を「特別縁故者」として、被相続人の財産を分与することを認めています。
なお、個人だけではなく法人も特別縁故者になることができます。
特別縁故者として認められる人(民法第958条の2第1項)
- 被相続人と生計を同じくしていた者
- 被相続人の療養看護に努めた者
- その他被相続人と特別の縁故があった者
①被相続人と生計と同じくしていた者
例えば、被相続人と同居していた内縁の妻や、被相続人と同居して生活を共にしていた被相続人の従兄弟などが考えられます。
②被相続人の療養看護に努めた者
被相続人を献身的に介護していた人がこれにあたります。
なお、仕事として介護や看護を行っており、それによって報酬を得ていた場合には、特別縁故者にはあたらないと考えられています。
③その他被相続人と特別の縁故があった者
①や②に該当しなかったとしても、被相続人と特別近しい関係にあったといえる場合には、特別縁故者に該当する可能性があります。
例えば、近所に住んでいて長期間に渡り親密に交流していた知人や、被相続人の生活の援助をしていた人などが考えられます。
2. 特別縁故者として財産を受け取る場合の流れ
特別縁故者として被相続人の財産を受け取る場合には、家庭裁判所へ申立てをする必要があります。
国や裁判所が特別縁故者であると認定して財産を分与してくれることはなく、自ら申立てをしないと財産を受け取ることができなくなってしまうので、自身が特別縁故者に該当すると考える場合には、必ず以下の手順で申立てを行いましょう。
①相続財産清算人の申立て
相続財産清算人とは、亡くなった人(被相続人)に誰も相続人がいない場合に、被相続人の相続財産の管理や清算を行い、最終的に残った財産を国庫に帰属させる職務を行う人のことです。
この相続財産清算人の職務に、特別縁故者への財産の分与も含まれるため、まずは相続財産清算人の選任が必要となります。
相続財産清算人の申立ては、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に申立書を提出して行います。
なお、詳しい相続財産清算人の選任方法は、以下のコラムで解説しています。
②法定相続人の捜索
家庭裁判所により相続財産清算人が選任されると、法定相続人の捜索が行われます。
具体的には、官報に、相続人がいる場合は名乗り出るように公告がされます。
この公告の期間は6か月です。
この6か月の間に法定相続人が名乗り出た場合には、被相続人の財産はその法定相続人が相続することになりますので、特別縁故者として財産を受け取ることはできません。
なお、法定相続人の範囲については以下のコラムで解説しています。
③債権届出の公告
相続財産清算人は、相続人の捜索と同時に、被相続人の債権者や受遺者(被相続人から財産の贈与を受けた人)の調査も行います。
相続人の捜索と同様、被相続人の債権者や受遺者に対し、債権の届出をするよう公告をする方法にて行いますが、公告期間は2か月以上とされています。
④債務の弁済
相続財産清算人は、③で債権の届出があった債権者等に、被相続人の財産から弁済を行います。
なお、相続財産清算人は、被相続人の不動産等の資産を換価(=お金に換えて)、債権者に弁済することもできます。
⑤相続人不存在の確定
6か月以内に相続人であると名乗り出る人がいなかった場合、相続人がいないことが確定されます。
⑥財産分与審判の申立て
特別縁故者は、相続人がいないことが確定してから3か月以内に、相続人の財産を分与するよう申立てを行います。
申立ては、相続財産清算人の申立てと同じく、被相続人の最後の住所地を管轄する裁判所に対して行います。
申立てに必要な書類は以下のとおりです。
- 申立書(記載例は裁判所のホームページで確認できます)
- 申立人の住民票又は戸籍の附票
- 収入印紙800円分
- 郵券(連絡用切手、必要な額と種類は事前に管轄の裁判所に確認しましょう。)
⑦特別縁故者への財産分与
裁判所により特別縁故者に該当すると認められれば、被相続人の財産の全部又は一部が特別縁故者に分与されます。
なお、④の段階で分与すべき財産がなくなったとき(債権者や受遺者への弁済で相続財産が全てなくなったとき)には、特別縁故者に対する財産の分与はされませんので注意が必要です。
⑧相続財産の国庫への帰属
特別縁故者に対する財産の分与がされても相続財産が余った場合や、特別縁故者であると認められずに特別縁故者への分与がされなかった場合、残った財産については、清算人が国庫に帰属させる手続きを行います。
3. 特別縁故者として認めてもらうためには?
特別縁故者として相続財産の分与を受けようとする場合、裁判所に特別縁故者であると認めてもらう必要がありますから、証拠と共に申立てをするとよいでしょう。
考えられる証拠としては、以下のようなものがあります。
被相続人と生計を同じくしていた場合
被相続人と同居していたことが分かる書類(住民票や賃貸借契約書など)
被相続人の自宅の水道光熱費を支払っていた履歴
被相続人の介護、看護をしていた場合
介護や看護の記録(日記や介護施設への送迎記録、介護施設とのやり取りの記録など)
特別の縁故があったこと
被相続人とのメール、LINE等のやり取りの記録
被相続人と過ごしていた際の写真
4. 特別縁故者として財産の分与を受ける際の注意点
特別縁故者として被相続人の財産の分与を受ける際、相続税の課税対象となり、相続税を支払う必要があります。
相続税には基礎控除額が定められており「3000万円+(600万円×法定相続人の数)」という計算式で基礎控除額を計算します。
特別縁故者に財産分与がされるということは、法定相続人はいないということになりますから、基礎控除額が、3000万円部分のみとなります。
また、配偶者控除や未成年控除、障碍者控除等の控除制度も利用できません。
さらに、被相続人の1親等の血族または配偶者以外が相続する場合に相続税が2割加算されるという2割加算の対象にもなります。
このように、通常の場合と比べて多額の相続税を支払う必要がある可能性がある点には、注意が必要です。
5. まとめ
ご自身が特別縁故者であるとして財産の分与を受けようとする場合、複数の申立てが必要となりますし、特別縁故者に該当することを事実に基づいて裁判所に主張しなければなりません。
当事務所にご相談いただければ、必要な証拠収集のアドバイスや詳細な見通し等をお伝えできますので、まずはお気軽にお問い合わせください。