昨今、カスハラは社会問題となっており、カスハラへの対応方針を公表する企業も増えています。
カスハラへ正しく対応ができないと、無用なトラブルを招いてしまったり、対応に疲弊した自社の従業員が離職してしまうなど、様々なデメリットが生じてしまうことになりかねません。
そこで、本記事では、カスハラについて解説します。
目次
1. カスハラ(カスタマーハラスメント)とは
カスハラとは、カスタマーハラスメントの略で、「顧客や取引先等からのクレーム・言動のうち、要求内容の妥当性に照らして、要求を実現するための手段・態様が社会通念上不当なものであって、手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの」と考えられています(参考:厚生労働省)。
例えば、以下のような行為はカスハラに該当しうるでしょう。
長時間の拘束 | 一定時間を超えてお店に居座ったり、電話にて長時間の説明を求める行為 |
暴言 | 大声や暴言で執拗にクレームを述べる 罵声や恫喝を繰り返す |
正当な理由のない過度な要求 | 言いがかりをつけて金銭や商品を要求する 難癖をつけて代金の返還を要求する |
セクハラ | 特定の従業員へのつきまとい 従業員やオペレーターへの性的な質問 |
脅迫 | 脅迫的な言動(○○をしないと殴る、店に押しかける等) SNSや報道機関への暴露をほのめかす |
2. カスハラは刑事罰に該当する?
カスハラは、以下のように、刑事罰に該当しうる行為です。
暴行罪・傷害罪
従業員に暴力を振るったり、物を投げつけたりした場合には、暴行罪(刑法第208条)に、さらに従業員が怪我をした場合には、傷害罪(刑法第204条)に問われる可能性があります。
脅迫罪
脅迫罪とは、生命や身体、財産に対して害を加えると告知して人を脅迫した場合に成立します(刑法第222条)。
例えば、「返金しないとお前やお前の家族が痛い目にあうぞ」と告げた場合には、脅迫罪に該当しうるでしょう。
恐喝罪
人を恐喝(=脅す)して財物を交付させた場合には、恐喝罪(刑法第249条)に該当する可能性があります。
例えば「SNSで悪評を流されたくなかったら、○円払え」などといった行為が考えられます。
強要罪
生命や身体、財産に対して害を加えると告知するか、暴行を用いて、他人に義務がないことを行わせた場合に成立するのが強要罪(刑法第223条)です。
例えば、土下座を要求する行為などが挙げられます。
信用棄損及び業務妨害
虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を棄損、又は業務を妨害した場合に成立する犯罪です(刑法第233条)。
例えば、ある店舗で食中毒が発生したなどと嘘のうわさをSNSで流した場合には、信用毀損罪が成立する可能性があります。
また、難癖をつけて代金の返金を執拗に要求し、業務を妨害した場合には、偽計業務妨害罪が成立する可能性があります。
3. カスハラへの対応
カスハラが実際に起こってしまった場合には、以下のような流れで対応するとよいでしょう。
①事実関係の把握
まずは、事実関係を把握することから始めます。
相手の行為が、カスタマーハラスメントに該当する行為であるか否かを確認するために、顧客の要求の内容や、従業員の対応をヒアリングしましょう。
②証拠の確保と対応
事実関係を把握した結果、相手の要求が不当なものでカスハラに該当すると判断した場合には、相手の要求には応じられないことを相手に伝えます。
毅然とした対応をとったとしても相手が要求を辞めない場合などには、状況に応じて、警察への通報も検討するとよいでしょう。
③被害届の提出や刑事告訴の検討
前述したとおり、カスハラの中には、刑事罰に該当する行為もあります。
被害届の提出や刑事告訴をすることも検討しましょう。
厳格な姿勢で対応することで、以後のカスハラ被害を防ぐことにもつながります。
4. カスハラの事前・事後対応
カスハラへの対応は、事前の対応や、事後の振り返りをしっかりしておくことも必要です。
特に、令和7年3月11日に、企業に対してカスハラ対策を事業主に義務づける労働施策総合推進法の改正案が提出されており、同法案は成立する可能性が高いことから、企業としてカスハラ対策をすることは必須といえます。
事前対応
基本方針の策定
事前にカスタマーハラスメントへの対応方針を決め、従業員への周知・公表をすることで、従業員が毅然とした対応を取ることができます。
昨今、カスタマーハラスメントへの対応方針を公表したり、店舗内に周知している企業も増えており、顧客への抑止効果も期待できるでしょう。
対応方針の策定
実際にカスハラが起きた際に適切に対応できるよう、事前に対応方法をまとめておくことも有効です。
例えば、複数名で対応する・繰り返しの要求には応じられない旨を毅然と伝える、上司を含めて対応するといった方針を定めておくことで、従業員が迷わず対応することができるでしょう。
事案ごとに対応例を記載することも有効です。
事後対応
対応した従業員への配慮
実際にカスハラの対応をした従業員へ対する配慮も必要です。
精神に不調をきたしている従業員がいる場合には、産業医と連携する・病院への受診を促すなどの対応をとりましょう。
対応の振り返り
実際に起きた事例を検証し、対応方針を改訂したり、事例を社内に共有するなどすることで、以後のカスハラへの対応がよりスムーズにできるでしょう。
5. カスハラ対応を弁護士に依頼するメリット
①対応を一任できる
カスハラを行うような相手の場合、冷静に話し合いをすることが難しい場合もあるでしょう。
弁護士に依頼をすれば、以後の相手とのやり取りを全て一任できます。
カスハラの対応に追われて通常業務に支障がでてしまうといったことも防ぐことができます。
②法的措置の対応も依頼できる
前述したとおり、カスハラへの対応には、被害届の提出や刑事告訴などの対応をすべき場合もあります。
また、相手の行為により企業に損害が生じた場合には、相手に対して訴訟を提起するなどして損害賠償請求をすることも考えられます。
弁護士に依頼をすれば、刑事告訴状の作成や訴訟の手続きも一任でき、スムーズに法的手続きを進めることができます。
③事前の予防策や対応マニュアル作成の相談ができる
カスハラが起こってしまった場合の対応ももちろんですが、事前の対策についても弁護士に依頼をすることで、対応方針の策定や対応マニュアルの作成についても弁護士に相談することができます。
事前に対応方針を検討したいものの、どこから手をつけてよいか分からないといった場合でも、企業の実情に合わせてアドバイスを受けることで、より実践的な対応が可能となるでしょう。
また、定期的なカスハラ対策が必要な場合には、弁護士と顧問契約を締結する方法も考えられます。
顧問弁護士については、以下のコラムで解説しておりますので、ご参照ください。
6. まとめ
カスハラを行う相手の場合、自身が「客」という立場を強調するということはよくあります。
このような相手に対しては、毅然として対応することももちろんですが、弁護士など第三者が交渉をすることにより、スムーズに解決できる場合が多いです。
企業のビジネスを阻害しないためにも、カスタマーハラスメントにお悩みの方は、一度お気軽にご相談ください。
当事務所には、大手IT企業で企業内弁護士として勤務した弁護士と企業法務を主に取り扱う事務所に在籍経験のある弁護士が所属しております。
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