離婚の際に養育費の取り決めをしていても、元妻が再婚をし、再婚相手と養子縁組をしていた場合には、養育費を支払う義務はなくなります。
離婚をしている場合、元妻が再婚をしたことを後になって知るケースも多く、本来払う必要のなかった養育費を長年支払っていたという方も多いでしょう。
そこで、本記事では、養育費の返還請求について解説します。
目次
1. 養育費の返還請求はできる?
離婚の際に一定額の養育費を払うことを約束した場合には、その合意どおりに養育費を支払う義務が生じます。
しかし、元妻(夫)が再婚し、子どもが再婚相手と養子縁組をした場合、養子縁組により養親となった再婚相手が子どもの第一次的な扶養義務者となることから、養育費の支払い義務がなくなります。
また、自身の収入が大きく減少したり、元妻(夫)の収入が大幅に増加した場合などには、養育費の減額を請求できることがあります。
養育費の減額ができる事情については、こちらのコラムで解説していますので、ご確認ください。
離婚をしていると、元配偶者とは密に連絡を取らない方もおり、こういった養育費の減額事情について、時間が経ってから知るケースも多いでしょう。
このような場合に、既に払った養育費を減額ができる時にさかのぼって返還請求をしたいと考える方もいらっしゃるでしょう。
しかしながら、基本的には過去にさかのぼって養育費の返還請求をすることはできないとされています。
過去にさかのぼって返還請求が可能となってしまうと、既に利用してしまった部分まで不意打ち的に一度に請求されてしまうことになり不合理であることがその理由です。
特に、減額の事情が相当程度前に生じた場合には、返還請求を認めてしまうと、高額な金銭を一度に返還する義務が生じてしまい、過酷な義務を負うことになってしまうこともあるといえます。
2. 養育費の減額の始期に関する裁判例
前述のとおり、現在の実務では、養育費を減額する事情が生じたとしても、減額することができるのは相手に対して減額を請求した時であり、養育費の返還請求は認められないというのが一般的です。
裁判例でも、以下のとおり、養育費の減額の始期について述べているものがあります。
裁判例(東京高等裁判所平成28年12月6日決定):
・・・養育費を零に減額すべき始期について検討すると、かかる点についての判断は、家事審判事件における裁判所の合理的な裁量に委ねられているところ、累積した過去分を一度に請求される危険(養育費請求または増額請求の場合)や既に支払われて費消した過去分の返還を求められる危険(養育費減額請求の場合)と明確性の観点から、原則として、養育費の請求、増額請求または減額請求を行う者がその相手に対してその旨の意思を表明した時とするのが相当である。
しかしながら、上記裁判例にもあるとおり、養育費の減額の始期は個別の事情によっても判断が変わるとされており、以下のように養子縁組をした時から減額ができると判断した例もあります。
裁判例(東京高等裁判所平成30年3月19日決定):
しかしながら、本件養子縁組によってC(注:再婚相手)が長男及び長女の扶養を引き受けたとの事情の変更は、本件養子縁組という専ら抗告人(注:母)側に生じた事由であるし、収入の増減の変更があった場合等と異なり、本件養育費条項を定めたときに基礎とした事情から養育費支払義務の有無に大きな影響を及ぼす変更があったことが抗告人にとって一見して明らかといえるのであって、抗告人において、本件養子縁組以降、実父から養育費の支払を受けられない事態を想定することは十分可能であったというべきである。
他方、相手方(注:父)とすれば、本件養子縁組の事実を知らなかった平成19年頃までに、本件養子縁組がされたことを変更の事由とする養育費減額の調停や審判の申立てをすることは現実的には不可能であったから、相手方に対して本件養子縁組の日から本件養子縁組がされたことを知った日までの養育費の支払義務を負わせることは、そもそも相当ではない。
(略)前記のとおり、抗告人は本件養子縁組によりCが長男及び長女の扶養を引き受けたことを認識していたことに照らすと、このような相手方の不作為が、抗告人との関係において、相手方の養育費支払義務が変更事由発生時に遡って消失することを制限すべき程に不当であるとはいえない。
このように、上記裁判例では、養子縁組をした時から養育費の減額ができると判断しています。
しかしながら、この事例では、父親がそもそも養育費の支払いをしておらず、養育費の減額の始期を、養子縁組をした時からとしても、母親が養育費の返還義務を負うわけではないという点が考慮されていたとも考えられます。
養育費の減額の始期は、最終的には、個別の事情も踏まえた裁判所の判断によるものの、減額を求める場合には、速やかに相手に対し、内容証明郵便やメール等の記録に残る形で減額請求をする方が確実でしょう。
3. 元配偶者との協議で返還を請求することはできる?
前述のとおり、養育費の返還請求は難しい場合が多いですが、相手との協議で相手が合意さえすれば、返還をしてもらうことも可能です。
全額を返還してもらうことは難しくても、一部返還するよう求める、分割で返還するよう求めるなど、相手が応じやすいような条件を提示してみることも検討してみましょう。
また、例えば離婚時の取り決めに「再婚して養子縁組をした場合には通知する」などと定めていた場合には、その義務違反を理由に養育費の返還請求の交渉をすることも考えられるでしょう。
4. 養育費の減額を求める場合の注意点
再婚相手が養子縁組をしていることを知り、養育費の支払い義務がなくなったとしても、勝手に養育費の支払いを止めてしまうとことは止めましょう。
相手と減額について取り決めをするまでは、現在の取り決めが有効となるため、相手から遅延損害金を請求されてしまったり、調停や審判で養育費を取り決めていた場合には、相手から強制執行をされてしまう可能性もあります。
強制執行とは、債務(支払うべき金銭)の履行を強制的に実現させるための手続きです。
主なものとして、預金や給与の差し押さえがあります。
預金を差し押さえられてしまうと、その銀行にあるすべての口座の預金を引き出せなくなったり、給与を差し押さえられてしまい会社に迷惑をかけてしまう、会社に養育費の支払をしていないことが知られてしまうといったことになりかねず、大きなリスクを負ってしまいます。
自身の生活に影響を及ぼさないためにも、必ず相手との協議や調停により減額の取り決めをするようにしましょう。
5. まとめ
養育費の減額や返還が可能かについては、個別の事情によっても大きく見通しが変わってきます。
見通しを誤ってしまうと、逆に養育費が増額されてしまうといったことにもなりかねません。
当事務所では、養育費に関するご相談を多数お受けしています。
ご相談者様のご事情に合わせて詳細に見通しをお伝えすることが可能ですので、問い合わせフォームよりお気軽にお問い合わせください。