親や兄弟姉妹が亡くなった際、他に相続人がおり、かつ、遺言書がない場合には、遺産をどのように分けるか話し合う必要があります。
これを遺産分割協議といいます。
相続人が多い場合や遺産が多い場合は、遺産分割協議がスムーズに進まないことがあります。
本稿では、遺産分割協議の流れを弁護士が解説いたします。
目次
法定相続人
まずは、誰が相続人なのかを確定する必要があります。
民法上、相続人は、以下のように定められています(民法第887条〜890条)。
- 配偶者は常に相続人となる(なお、内縁の妻は法定相続人に当たらないと解されています)
- 被相続人(亡くなった人)の子は相続人となる(被相続人の死亡時に子が既に亡くなっている場合で亡くなった子に子(被相続人から見て孫)がいる場合は、その子が相続人となります。これを「代襲相続」といいます)
- 子又は代襲相続人がいない場合には、直系尊属が相続人となる。例えば、両親や祖父母は、「直系尊属」に当たります
- 直系尊属がいない場合には、兄弟姉妹が相続人となる
相続人の確認方法
相続人の範囲を確定するためには、戸籍謄本を取得することが必要です。
自身が法定相続人の場合、相続人の範囲を確定するために必要な限度で第三者の戸籍謄本を取得することができますので、まずは、被相続人の本籍地がある役所に問い合わせ、被相続人の除籍謄本や原戸籍等を取得しましょう。
相続放棄がなされた場合
相続人は、被相続人の遺産を相続したくない場合、「相続放棄」をすることができます(民法第915条)。
相続放棄した相続人は、被相続人の死亡時に遡って、相続人でなかったことになりますので、相続人の範囲から除外されます。
相続放棄の意思表示は、相続の開始、すなわち、被相続人が亡くなったことを知ってから、原則として、3か月以内にしなければなりません。
なお、相続放棄の詳細については、以下のコラムで解説していますので、ご参照ください。
相続欠格・廃除
相続欠格
民法の定める相続欠格事由に該当する場合、当該相続人は、相続人になることはできません(民法第891条)。
欠格事由は、次のとおりです。
- 故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者
- 被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴しなかった者(ただし、その者に是非の弁別がないとき、又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは、除かれます)
- 詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた者
- 詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者
- 相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者
廃除
被相続人は、生前に、虐待、重大な侮辱、その他著しい非行等があった相続人から相続人の地位を剥奪するよう求めることができます。
これを「廃除」といいます(民法第892条)。
廃除された相続人は、相続人の地位を有しませんので、遺産分割協議の当事者から除外されることになります。
なお、相続欠格と廃除の詳細については、以下のコラムで解説していますので、ご参照ください。
遺産の確定
相続人の範囲が確定したら、次は遺産の範囲を確定させます。
遺産の対象となるのは、相続発生時(被相続人の死亡時)の被相続人名義の財産です。
不動産、預貯金、株式、投資信託、保険、自動車等の財産に加え、ローンや税金等の負債も対象になります。
法定相続人は、以下の方法で財産調査が可能ですので、財産を調査した上で、遺産の範囲を確定させましょう。
不動産
- 不動産の所在地の市区町村役場で名寄帳や評価証明書を取得する
- 法務局で全部事項証明書(登記簿)取得する
- 国税庁のホームページで路線価図を確認する
預貯金・株式・投資信託
- 金融機関や証券会社で残高証明書や取引履歴を取得する
- 株券を確認する
- インターネットで残高や取引履歴が確認できる場合にはスクリーンショットを撮る
保険
- 保険会社で解約返戻金の金額が分かる証明書を取得する
- 保険証書を確認する
- 担当者に問い合わせをする
自動車
- 車検証を確認する
- 自動車保険の保険証書を確認する
- 売買契約書を確認する
遺産の評価
遺産の範囲が確定したら、遺産の評価額を決定します。
不動産と未上場株は評価が争点になることが多いです。
不動産
不動産を売却する場合には、売却金額が不動産の評価額と考えられるので、問題ありませんが、相続人の1人が不動産を取得する場合には、不動産の評価額が争点になることがあります。
一般的に、固定資産評価証明書の金額は、市場相場よりも低いと言われています。
また、不動産会社に査定を依頼した場合、不動産会社によって金額に大きな差がでることもあります。
評価額が争いとなった場合には、不動産鑑定士に鑑定を依頼し、評価額を出してもらうと良いでしょう。
また、他人の土地を借りて被相続人名義の家を建てているような場合、借地権も相続財産の対象になります。
国税庁が公開している路線価図を見ると、借地権割合が確認できますので、土地の価格に借地権割合を乗じることで借地権の評価額を算出することができます。
株式
上場会社の株式であれば、株価が公開されているので、争点となることは少ないですが、非上場会社の場合、株式の評価が争点になることがあります。
未上場会社の株式の評価方法は、純資産方式(会社の純資産額を株式の価値と考える方法)、類似業種比準方式(事業内容が類似している上場会社の株価を参考に株式の価値を算定する方法)、純資産方式と類似業種比準方式を併用する方法等があります。
自身で算定することが難しい場合には、公認会計士や税理士へ鑑定を依頼することも検討されると良いでしょう。
特別受益・寄与分
特別受益
ある相続人が被相続人から特別に利益を得ていた場合には、特別に利益を受けた金額を相続財産に持ち戻し(加算し)、遺産分割を行うことになります。
これを「特別受益」といいます(民法第903条)。
特別受益は、単に利益を受けていただけでは足りず、「特別に」利益を得ていたと認められることが必要です。
例えば、不動産の生前贈与を受けた、相続人が自宅を建てる際に多額の贈与を受けたなどの事情がある場合には、特別受益と認められることが多いです。
なお、被相続人の生命保険金は、特別受益の対象にはなりませんので、注意しましょう。
特別受益に関しては、以下のコラムで解説していますので、ご参照ください。
寄与分
被相続人の療養看護をしていた、経済的に援助していたなど、被相続人の財産の維持や増加に特別の寄与をした相続人がいる場合、当該相続人に対する相続分を増加させることがあります。
これを「寄与分」といいます(民法第904条の2)。
寄与分も、単に被相続人に寄与しただけでは認められず、「特別の」寄与をしたことが必要になります。
なお、寄与分に関しては、以下のコラムで解説していますので、ご参照ください。
分割方法の決定
遺産の評価が確定し、特別受益や寄与分等による相続分の修正が完了したら、最後に分割方法を決めます。
分割方法で争点となることが多いのが不動産です。
以下、不動産の分割方法を紹介します。
現物分割
相続人間で不動産を分筆する方法で分割する方法があります。
これを「現物分割」といいます。
手続が簡易である上、共有物を分割する場合の原則とされている方法ですが、土地上に建物が建っていたり土地が狭かったりして分筆することが現実でない、法律上分筆が禁止されているなどの理由で、実務上はあまり採用されていない方法になります。
換価分割
相続人全員が不動産を売却することに合意している場合には、不動産を売却して、売却代金を分割するのが一般的です。
これを「換価分割」といいます。
最終的に相続人間でお金を分ける方法ですので、遺産の評価が不要であるなど、トラブルは生じにくい方法ですが、なかなか不動産の買い手がつかない、想定していたよりも低い金額でしか売却できなかった、多額の経費(売買仲介手数料等)が生じてしまったなどのリスクもあります。
代償分割
1人の相続人が不動産のすべてを相続する代わりに、他の相続人に代償金を支払う方法があります。
これを「代償分割」といいます。
不動産を取得する相続人に資力があること、当該相続人が取得すること及び不動産の評価について他の相続人が同意していることが条件になりますが、換価分割と異なり、なかなか不動産の買い手がつかない、想定していたよりも低い金額でしか売却できなかった、多額の経費(売買仲介手数料等)が生じてしまったなどのリスクを回避できる点がメリットになります。
共有
不動産を分割せず、相続人間の共有状態のままにする方法も考えられます。
手続は簡易ですし、遺産分割協議の時点では紛争が生じにくい方法ではあります。
しかし、共有状態の場合、各自が自由に不動産を管理処分することができませんので、不動産の運用、例えば、売却、賃貸、修繕等の際に非常に不便です。
また、相続人が死亡し、再び相続が発生すると、共有者がどんどん増えてしまい、更に不動産の運用が難しくなり、最悪の場合、誰が共有者なのかすら分からなくなってしまうこともあります。
したがって、不動産を共有状態にすることはあまり推奨できません。
遺産分割協議書の作成
遺産分割協議がまとまったら、遺産分割協議書を作成しましょう。
遺産分割協議書を作成することで、預貯金の出金や不動産の移転登記等が可能になります。
また、遺産分割について合意が成立したことを書面に(証拠化)することで、後の紛争を回避できるメリットもあります。
遺産分割協議書の作成方法は、以下のコラムで解説していますので、ご参照ください。
協議がまとまらなかった場合
遺産分割協議がまとまらない場合には、裁判所に遺産分割調停を申し立てると良いでしょう。
調停委員会が間に入り、話合いを仲介してくれますので、当事者間で協議するよりも解決できる可能性が高まります。
調停でも話合いがまとまらない場合には、審判手続に移行し、裁判官が決定を下すことになります。
既に遺産分割協議が整わず、調停に移行することを検討されている方は、以下のコラムをご確認ください。
まとめ
遺産分割は、相続人の範囲や遺産の調査が必要となること、遺産の評価や特別受益など金額に関する争いが生じやすいこと、相続人間の感情的な対立も生じやすいことから、紛争になりやすく、協議がスムーズに進められるか不安という方も多いでしょう。
遺産分割協議に不安を抱えている方は、一度弁護士に相談し、協議の進め方や見通しを相談してみてください。