近年、建物を建築するために、土地を購入するよりも土地を借りた方が費用を抑えられるという需要から、土地に借地権を設定するケースが増えています。
また、実家の建物を相続したが、実家の建物がある土地は他人の所有で、借地権が設定されていたという場合もあります。
土地を借りている場合、土地上の建物の増改築や借地権の譲渡をするために、賃貸人(土地の貸主、地主)の承諾を得ることが必要な場合がありますが、地主の承諾を得られずに困っているなどの相談が増えてきております。
そのような場合は、借地非訟の手続を利用する方法が考えられます。
本稿では、借地非訟手続について、弁護士が解説いたします。
目次
1. 借地非訟とは
「借地非訟」とは、借地権等の設定されている土地について、土地の利用等に関し地主の承諾を得られないなどのトラブルが生じている場合に、旧借地法及び借地借家法上認められている手続です。
通常の裁判手続(訴訟)では申し立てることのできない内容が含まれており、審理も通常の訴訟より簡易で期間も短いなど、特殊な手続といえるでしょう。
借地非訟事件の対象となるのは、建物の所有を目的とする土地の賃貸借契約(土地を使用する対価として賃料を支払う契約)、又は、地上権設定契約(土地の使用を認める物権を設定する契約)になります。
土地を無償で使用させる使用貸借契約には適用がありませんので、注意が必要です。
2. 借地非訟事件の種類
借地非訟事件の種類は、借地借家法に明記されており、以下の事件が対象となります。
①借地条件の変更
借地契約においては、建物の用途(居住用・店舗用・事業用・賃貸用等)、構造(木造・鉄骨造・鉄筋コンクリート造等)、規模(床面積・階数・高さ等)に制限がなされていることが多いです。
上記のような条件を変更するためには、地主との合意が必要になります(無断で行った場合は解除や損害賠償のリスクがある)。
借地条件について、地主の承諾が得られない場合には、借地条件変更の申立てを行い、裁判所が相当であると判断した場合には、借地条件の変更を認める裁判を受けることができます(借地借家法第17条1項)。
実務上、借地契約でよく見られる条項としては、「建物は、非堅固建物に限る」というもので、例えば、非堅固建物(木造)から堅固建物(鉄筋コンクリート造のビル等)に建て替えたいときは、地主との合意が必要となります。
なお、一般的に、非堅固建物から堅固建物への条件変更を行う場合、地主に対し、条件変更承諾料として、土地の更地価格の10%程度を支払うことが必要とされています。
②増改築
借地契約では、建物の増改築をする場合に地主の承諾を必要とする条件が付されていることが多いです。
建物の増改築について、地主の承諾が得られない場合、増改築許可の申立てを行い、裁判所が相当であると判断した場合には、裁判所から地主の承諾に代わる許可を得ることができます(借地借家法第17条2項)。
なお、一般的に、増改築をする場合、地主に対し、増改築承諾料として、土地の更地価格の5%程度を支払うことが必要とされています。
③更新後の建物再築
借地契約の更新後に、借地権者(借主)がやむを得ない事情で残存期間を超えて存続すべき建物を築造する場合、地主の承諾を得る必要があります(借地借家法第8条1項、同条第2項)。
このような場合に、地主の承諾が得られないときは、更新後の建物再築許可の申立てを行い、裁判所が相当であると判断した場合には、裁判所から地主の承諾に代わる許可を得ることができます(借地借家法第18条1項)。
なお、この制度は、平成4年8月1日の借地借家法改正により認められた制度ですので、平成4年8月1日以降の借地契約についてのみ適用があります。
④土地の借地権譲渡又は転貸
借地契約が土地の賃貸借契約である場合、借地権者が土地上の建物を第三者に譲渡するためには(借地権が当該第三者に譲渡されることになるため)、地主の承諾を得ることが必要となります(民法第612条、なお、借地契約が地上権設定契約の場合、地主の承諾は不要です)。
このような場合に、地主の承諾が得られないときは、土地の賃借権譲渡許可の申立てを行い、裁判所が相当であると判断した場合には、裁判所から地主の承諾に代わる許可を得ることができます(借地借家法第19条1項)。
なお、一般的に、賃借権の譲渡又は転貸をする場合、地主に対し、賃貸借譲渡又は転貸承諾料として、借地権の価格の10%程度を支払うことが必要とされています。
⑤競売又は公売に伴う土地賃借権譲受
借地契約が土地の賃貸借契約である場合、第三者が競売又は公売で土地上の建物を譲り受けたときは、借地権が当該第三者に譲渡されることになるため、地主の承諾を得ることが必要となります(民法第612条、なお、借地契約が地上権設定契約の場合、地主の承諾は不要です)。
このような場合に、地主の承諾が得られないときは、競売又は公売に伴う土地の賃借権譲受許可の申立てを行い、裁判所が相当であると判断した場合には、裁判所から地主の承諾に代わる許可を得ることができます(借地借家法第20条1項)。
競売又は公売に伴う土地の賃借権譲受許可の申立ては、建物の代金を支払った後2か月以内に行う必要があるので、注意が必要です(借地借家法第20条3項)。
⑥借地権設定者の建物及び土地賃借権譲受
上記④(土地の借地権譲渡又は転貸許可申立事件)・⑤(競売又は公売に伴う土地賃借権譲受許可申立事件)の場合、地主は、優先して、土地上の建物と借地権を併せて自ら買い取ることができる権利を有しています(借地借家法第19条3項、同法第20条2項、「介入権」といいます)。
介入権の行使は、裁判所が定めた期間に限り、介入権行使の申立てを行うことが可能です。
地主から介入権の行使があった場合、原則として、地主は裁判所が定めた価格で建物と借地権を買い取ることになります。
3. 借地非訟手続の流れ
申立て
借地非訟は、土地の所在地を管轄する裁判所に申立書(正本1通、相手方の数に応じた副本)を提出することで申し立てることができます。
申立てに際し必要な書類は、以下のとおりです。
- 申立書(正本及び副本)
- 資格証明書(当事者の一方又は双方が法人の場合)
- 土地の固定資産税評価証明書
- 建物の固定資産税評価証明書
- その他関連する資料(賃貸借契約書、間取り図等)
- 収入印紙
- 郵券(郵便切手)
申立書のひな形は、裁判所のホームページに掲載されていますので、ご参照ください。
また、収入印紙については、土地の固定資産税評価証明書をもとに価額を算出し、裁判所の手数料額早見表に当てはめることで計算できます。
②増改築許可申立事件の場合は土地の固定資産税評価額÷10×3÷2、その他の事件の場合は土地の固定資産税評価額÷2で価額を算出するのが一般的です。
郵券については、裁判所により金額と内訳が異なりますので、事前に裁判所に確認するようにしましょう。
内容や必要書類に不備があった場合、裁判所から訂正や追完の指示がありますので、裁判所の指示に従いましょう。
審問期日
申立てが受理されると、裁判所から第1回審問期日の日程調整の連絡があります。
日程調整が完了すると、相手方に申立書の送付と期日の通知がなされます。
審問期日では、裁判所が当事者に事情聴取を行い、必要に応じて第2回、第3回と期日を重ねます。
鑑定委員会の意見
借地非訟の手続では、鑑定委員会というものが構成されます。
鑑定委員会は、裁判所が3名以上を指定することとされていますが(借地借家法第47条)、実務上は、弁護士1名、不動産鑑定士1名、建築士等の有識者1名で構成されることが多いです。
鑑定委員会は、当事者の陳述や提出されている資料、現地調査の結果などを踏まえ、裁判所に意見書を提出します。
実務上、鑑定委員会の意見書は非常に強い影響力を持つので、ほとんどのケースでは、鑑定委員会の意見書の内容に沿った和解や決定がなされます。
決定又は和解
鑑定委員会の意見書の内容を踏まえ、当事者間で和解ができそうな場合には、和解成立の手続や調停手続に移行し、最終調整が行われることが多いです。
一方で、和解が難しそうな場合は、裁判所が決定を下します。
なお、裁判所の決定に対して不服がある場合は、当事者双方が決定書の送達を受けた日から2週間以内に即時抗告を申し立てることができます。
また、借地非訟の手続は、通常の訴訟よりも簡易かつ迅速な手続ですので、多くのケースで、概ね1年以内に終了しています。
4. まとめ
借地契約は、長期に渡る継続的な契約であることがほとんどで、地主との信頼関係が重要なものですので、借地の件で地主と揉めている又は揉めそうな場合も、まずはしっかちと地主と協議をするのが良いでしょう。
もっとも、協議が整わない場合、地主の同意が得られず、借地権の条件変更や増改築ができないなどして、大きな不利益を被ってしまうこともあります。
そのような場合には、ぜひ借地非訟の手続を検討してみてください。
当事務所は、借地非訟事件を含む不動産案件全般に注力しています。
不動産に関する相談をご希望の方は、問い合わせフォームよりご連絡ください。