SNSが発達している昨今、なりすましに関するご相談も多くお受けするようになりました。
ご自身の投稿ではない投稿を放置していると、無用なトラブルに巻き込まれてしまうことになりかねません。
そこで本記事では、SNSでなりすましされている場合の対処法について解説します。
1. SNSでのなりすましとは?
なりすましとは、SNSなどで特定の人物のアカウントであると誤信させるようなアカウントを作成したり、投稿をしたりする行為をいいます。
現在、なりすまし行為自体を直接規制するような法律はないため、単になりすましをしていることをもって罪に問うことはできません。
ただし、以下で述べるとおり、なりすましに関連して犯罪行為が成立する場合があります。
2. なりすまし行為に関連する行為が犯罪に該当する場合とは?
①名誉棄損罪
名誉棄損罪とは、公然と事実を適示し、人の社会的評価を低下させた場合に成立する犯罪です(刑法第230条)。
なりすまし行為において考えられるケースは、Bという人が自分はAであるという体で「私は昔犯罪をして逮捕されたことがある」などと投稿する場合です。
この場合、Aという人物は逮捕歴があるという事実を適示して(=挙げて)、Aが犯罪をするような人物であるという社会一般からみると評価を低下させるような投稿をしているので、名誉棄損罪が成立しうることになります。
②侮辱罪
侮辱罪は、公然と人を侮辱した場合に成立します(刑法第231条)。
例えば、「○○はバカ」「○○はブス」などといった場合が典型例です。
SNSでのなりすましの場面では、AさんになりすましたBが、「Cはブスである」などと投稿する、「私は不細工である」などと投稿することが考えられます。
③詐欺罪
人を欺いて(騙して)財物を交付させた場合には、詐欺罪が成立することがあります(刑法第246条)。
例えばAさんになりすましたBが、Aと名乗るアカウントで、コンサートのチケットを譲ると言って代金だけを受け取りチケットを渡さないなどした場合、詐欺罪に該当しうるでしょう。
④電子計算機使用詐欺罪
電子計算機(コンピューターなど)を使用して詐欺をした場合に成立するのが、電子計算機使用詐欺罪です(刑法第246条の2)。
例えば、BがAさんのアカウントを使用して電子決済をして商品を購入する場合などが考えられます。
⑤不正アクセス行為の禁止等に関する法律(不正アクセス禁止法)違反
他人のIDやパスワードを使用してアカウントにログインする行為は、不正アクセス禁止法で禁止されている不正アクセス行為にあたります。
BがAさんになりすますために、Aさんのアカウントに勝手にログインした場合には、不正アクセス禁止法違反となり、3年以下の懲役または100万円以下の罰金に処せられる可能性があります(不正アクセス禁止法第11条)。
3. 民事上の責任追及
前述した犯罪が成立しない場合でも、なりすまし行為については、民法上の不法行為に該当する可能性があります。
①プライバシー権の侵害
プライバシー権とは、一般に「自己の私生活上の事柄をみだりに公開されない権利」と解釈されています。
私生活上の事実などで、一般的には知られたくなく、実際に知られていない事柄をみだりに公開されない権利がこれにあたります。
例えば、勝手に住所や勤務先等を公開した場合には、プライバシー権の侵害に該当しうるでしょう。
②名誉権侵害・名誉感情侵害
前述のとおり、刑法上の名誉棄損罪については事実の摘示が必要ですが、民法上不法故意にあたる名誉権の侵害については、事実の摘示は必須ではありません。
意見や論評を述べた場合でも、それが人の社会的評価を低下させる場合には、不法行為に該当しうるのです。
例えば、BがAさんになりすまし「私は生きている価値のないブスだ」などと投稿する場合が考えられます。
また、侮辱にあたるような表現の場合、社会的評価を低下させるには至らないものでも、名誉感情侵害(自身の人格的価値について有している自分自身の評価)に該当する可能性もあります。
③アイデンティティ権の侵害
裁判例上、他者から見た人格の同一性を偽られ、その人格の同一性に関する利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超える場合、アイデンティティ権侵害が成立すると解釈されています。
なりすまし行為については、まさに人格の同一性を偽る行為ですので、受忍限度を超える場合(例えば、なりすまし行為をしたうえで悪質な投稿を繰り返すなど)には、不法行為に該当します。
④肖像権の侵害
肖像権とは、人がみだりに他人から写真を撮影されたり、撮影された写真をみだりに公表・利用されない権利のことをいいます。
なりすましに利用したアカウントを利用し、無断で本人が写っている写真を公開した場合などには、肖像権侵害が成立します。
3. なりすまし行為をされている場合の対処法3選
では、実際になりすましの被害にあってしまった場合には、どのように対処すればよいのでしょうか。
以下では、代表的な対処法を紹介します。
①被害届の提出や刑事告訴をする
なりすまし行為に関連して上で述べたような犯罪行為がある場合には、被害届や告訴状を提出することを検討しましょう。
警察が被害届や告訴状を受理し、捜査を開始した場合、加害者に対する取り調べが行われます。
その中で加害者から示談の申し入れがあることが考えられますので、示談金を求めたり、示談の条件の一つとして投稿の削除を約束させることができる可能性があります。
なお、被害届や告訴状は、いずれも犯罪事実を捜査機関に申告し、加害者の処罰を求める旨の書類です。
違いは、告訴状を受理した捜査機関には捜査を開始する義務があるのに対し、被害届にはそういった義務がない点です。
②損害賠償請求をする
相手の行為が犯罪に該当しない場合や、刑事事件化を望まない場合には、民事上の責任追及をすることもできます。
具体的には、相手の行為が上で述べた不法行為に該当する場合、それにより被った精神的苦痛を補填するための慰謝料を請求できます。
慰謝料の請求は、相手に対して内容証明郵便にて請求する・民事訴訟を提起して請求するといった方法が考えられます。
慰謝料請求の方法は、こちらの記事でも解説していますので、ご確認ください
③投稿の削除を請求する
被害届の提出や慰謝料の請求とは別に、投稿の削除を請求することも重要です。
なりすましによりされた投稿が他の人の名誉を棄損する内容であった場合、投稿をしていないにも関わらず、自身が損害賠償請求をされてしまう、警察の捜査を受けてしまうことになりかねないためです。
投稿の削除をしてもらうためには、SNSの運営会社が用意しているフォームから請求する、裁判所を通じた手続きである仮処分を利用することが考えられます。
インターネット上の書き込みの削除方法について、詳しくはこちらの記事でご確認ください。
4. なりすまし行為をしている相手が不明な場合は?
なりすまし行為の被害にあっている場合、その行為をしている相手が誰であるか不明な場合も多いでしょう。
被害届や告訴状の提出や慰謝料の請求をするには、相手が誰か分かっている必要があるため、このような場合には、発信者情報開示請求という手続を利用して、相手を特定する必要があります。
発信者情報開示請求とは、相手の住所や名前、電話番号などの情報の開示を求めることができる手続です。
発信者情報開示請求については、こちらの記事で詳しく解説しています。
なお、多くのプロバイダでは、一定期間を経過するとログを保存しなくなってしまうため、発信者情報開示請求は、投稿がされてから短期間のうちに行わなくてはならない点には注意が必要です。
5. まとめ
SNSのトラブルについては、解決に専門的知識が必要であることに加え、投稿が一度拡散されてしまうと止めることが難しいという特殊性やログの保存期間の観点から、早急な対応が必要となる場合が多いので、お困りの場合には早めに弁護士に相談することをお勧めします。
当事務所では、インターネットトラブルに関するご相談も数多くお受けしていますので、お気軽にお問い合わせください。