離婚した夫婦の一方が子どもを養育・監護している場合、もう一方の相手に対して養育費を請求することができます。
養育費は、算定表といって、両親双方の収入額や子どもの年齢・人数に応じて標準的な額を確認できる表で決めることが一般的ですが、この算定表において考慮されていない額については、追加で請求できる場合があります。
そこで、本記事では、算定表の額に加算して養育費を請求できる場合や、加算できる額について解説します。
目次
1. 養育費の特別費用とは?
前述のとおり、養育費は裁判所が作成した算定表にて額を決めるのが一般的です。
この算定表は、子どもの養育にかかる標準的な費用(生活費や学費、医療費など)を算出して、その費用を両親の収入に応じて両親で分担するという考え方を元に作成されています。
公立高校までの平均的な学費や医療費は算定表から算出できる養育費に既に含まれていますが、私立高校や大学の費用などは、算定表において考慮されていない費用になります(これを「特別費用」といいます)。
この特別費用を、算定表上決めた養育費に追加して相手に請求できます。
2. 特別費用として請求できるものは?
では、具体的にどのようなものが特別費用として請求できるのでしょうか。
①私立学校の学費
前述のとおり、算定表上考慮されているのは公立学校までの学費であるため、子どもが私立学校に通っている(通う予定がある)場合には、学費の分担を求めることができます。
ただし、私立学校の学費を請求できるのは、養育費を払う側(義務者といいます)が私立学校に通うことを承諾していた場合に限られます。
この承諾は、明示的に承諾をしていた場合に限られず、黙示の承諾でもいいとされています。
例えば、同居中に私立学校に通うことが決まっていた場合などには、黙示の承諾があったと認められることがあります。
また、義務者の同意がない場合でも、義務者の収入や地位、学歴等を考慮すると、私立学校へ進学することが不合理でない場合には、養育費への加算が認められる場合が多いです。
②大学の学費
大学の学費についても、算定表上考慮されていない費用です。
基本的には、①の私立学校の学費と同様の考えで、義務者が大学進学に同意していた場合や、大学への進学が不合理でない場合には、養育費への加算を請求できます。
③医療費
医療費については、標準的な額は既に算定表上考慮されています。
この考慮されている額を超える高額の医療費などについては、養育費に加算して請求できるという考えが一般的です。
例えば、風邪を引いた場合の医療費については養育費に含まれていると考えられますが、大きな怪我や病気をした際の治療費・手術費については加算を請求できる可能性が高いでしょう。
また、歯列矯正の費用や眼鏡代なども加算できると判断した裁判例もあります(大阪高等裁判所平成18年12月28日決定)。
④習いごと・塾
習いごとや塾の費用は、基本的に養育費月額から支出されるべきと考えられており、裁判実務上は、請求が認められないことが多いです。
例外的に、相手方が習いごとや塾に行くことを承諾していたり、社会通念上相当と認められる場合には義務者が一定額を負担すべきであるという考え方の元、例えば受験のために塾に行く必要性が高く、義務者の収入上も負担されることが不合理でない場合や、子どもに障がいがあり学習支援を受ける必要がある場合の費用など特別な事情がある場合には、養育費への加算が認められることもあります。
3. 義務者に請求できる額は?
以上のように、一定の場合には、私立学校の学費や習いごとの費用、医療費などを算定表上算出される額に加えて義務者に請求できる場合があります。
では、具体的にいくら請求できるのでしょうか。
以下では、ケースごとに一般的な考え方を解説します。
①大学や私立学校の学費・医療費の場合
大学・私立学校の学費や医療費の場合には、算定表で公立高校の学費や平均的な医療費の額については既に考慮されていることから、算定表で考慮されている学費との差額を両親の収入で按分するという形が実務上一般的です。
具体的には、以下の式で加算する額を計算します。
私立学校の学費加算額の計算式:
(私立学校の学費-公立学校の標準的な教育費)×義務者の基礎収入÷(義務者の基礎収入+権利者の基礎収入)
基礎収入とは、年収から公租公課や住居関係費などの必要経費を引いた額をいいます。
可処分所得とほぼ同じと考えていただくとイメージがつきやすいでしょう。
算定表でも、この基礎収入という考え方を元に養育費の月額を算出していますので、加算する額についても基礎収入を元に計算します。
基礎収入は、以下の表に基づき決められた割合を収入に乗じることで算出できます。
また、公立学校の標準的な教育費(算定表上考慮されている額)は、年額で25万9342円です。
表:給与所得者の基礎収入割合
収入(万円) | 割合 |
---|---|
0~75 | 54 |
~100 | 50 |
~125 | 46 |
~175 | 44 |
~275 | 43 |
~525 | 42 |
~725 | 41 |
~1325 | 40 |
~1475 | 39 |
~2000 | 38 |
表:自営業者の基礎収入割合
収入(万円) | 割合 |
---|---|
0~66 | 61 |
~82 | 60 |
~98 | 59 |
~256 | 58 |
~349 | 57 |
~392 | 56 |
~496 | 55 |
~563 | 54 |
~784 | 53 |
~942 | 52 |
~1046 | 51 |
~1179 | 50 |
~1482 | 49 |
~1567 | 48 |
例:夫の年収が800万円、妻の年収が400万円、子どもの通っている私立学校の学費が100万円の場合
①両親の基礎収入を計算
夫の基礎収入=800万円×0.4=320万円
妻の基礎収入=400万円×0.42=168万円
②私立学校の学費加算額を計算
(100万円-25万9342円)×320万円÷(320万円+168万円)≒ 485677円
以上より、約48万5677円、月額に直すと約4万円が加算額となります。
なお、上記の家族構成の場合、養育費は月額3万円前後ですので、合計約7万円を養育費として請求できます。
②習いごとや塾の費用の場合
習いごとや塾の費用については、①の場合のように算定表上考慮されている額があるわけではないので、実際にかかっている額を両親の収入で按分するという形が一般的です。
例えば、塾の月謝が月額1万円の場合、以下のように算出します。
1万円×320万円÷(320万円+168万円)≒6612円
以上より、月額約6612円を加算して請求できます。
4. 特別費用の請求方法は?
①相手との協議で請求する
養育費の請求方法としてまず考えられるのが、相手との協議によって額を決めて請求する方法です。
既に養育費の月額について合意があったとしても、その後に私立学校に進学した場合などには、改めて協議をすることで増額を請求することができます。
また、まだ相手との間で養育費の月額について合意がない場合には、特別費用の額を考慮して額を決めるとスムーズでしょう。
相手と額が合意できた場合には、合意書の形で支払い方法や額、いつからいつまで支払うのかといったことを書面に残すようにしましょう。
書面に残すことで、後になって「養育費を支払うなんて合意していない」などと言われることを避けられます。
また、可能であれば、支払いが滞ったときに差押などの強制執行が可能となるように、公正証書(公証役場で公証人が作成する、書面の内容等を公証人が証明してくれる文書)を作成するとよいでしょう。
②調停
相手と合意ができない場合には、養育費の請求調停を申し立てることを検討しましょう。
調停とは、1名の裁判官(又は調停官)と2名の調停委員が当事者の話し合いを仲介し、当事者による合意を目指す手続です。
調停の申立ては、裁判所に申立書や以下の必要書類を提出することで行います。
既に養育費の月額が決まっている場合には養育費の増額の調停を、養育費の月額も含めて調停で決める場合には、養育費請求の調停を申立てることとなりますが、必要な書類は共通です。
- 申立書
- 収入印紙:子ども1人につき1200円分
- 郵券(切手):事前に管轄の裁判所に必要な額や枚数を確認しましょう
- 対象となる子の戸籍謄本(全部事項証明書)
- 申立人の収入に関する資料(源泉徴収票など)
上記の他に、裁判所から追加で資料の提出を求められることがありますので、その場合は指示に従って資料を提出しましょう。
特別費用についての資料(大学・私立学校の学費が分かる資料、塾や習いごとの月謝の請求書、医療費の領収書など)を用意しておくとスムーズです。
なお、調停でも話し合いが成立しなかった場合には、調停は不成立となり、自動的に審判という手続きに移行します。
審判では、調停と異なり、裁判官が当事者の提出した証拠を元に養育費の額を決定します(通常、1か月あたり〇円を支払え。といった形で結論が出されます)
5. 特別費用の請求についてお困りの場合は弁護士に相談を
前述のとおり、特別費用の請求については、相手が同意していたことや、そうでない場合相手が支払うことが不合理でないという要件を満たしていないと請求することができません。
特に私立学校や大学の学費は高額になる場合も多いことから、相手との間でスムーズに話し合いができないことも多いです。
当事務所では、養育費に関するご相談を数多くお受けしていますので、お困りの場合は、以下問い合わせフォームよりお気軽にお問い合わせください。