興信所(探偵)に調査を依頼したが、詐欺被害・ぼったくり被害に遭った、不当な請求をされているという相談は多いです。
実際に悪徳な探偵業者は一定数存在し、契約事項や調査内容によっては、探偵費用の返金が認められるケースもあります。
そこで、本稿では、探偵に対する返金請求が認められるケースや請求方法を弁護士が解説します。
目次
1. 興信所(探偵)とは
「興信所」とは、企業や個人の情報を調査する業者のことを指し、「探偵」とも呼ばれます(本稿では、「探偵」という呼び方に統一します)。
探偵業を行うためには、探偵業の業務の適正化に関する法律(いわゆる「探偵業法」)に基づき、営業所の管轄する都道府県公安委員会に、所轄警察署長を経由して、営業の届出をする必要があります(探偵業法第4条1項)。
2. 探偵費用
探偵費用に法律上の決まりはなく、各探偵業者によって様々です。
着手金(調査に着手するに当たり支払う費用)と報酬(条件を達成した時に生ずる費用)に分けられていることもあれば、調査開始前に一括で支払うこととされている場合、完全成功報酬制(着手金はゼロで成果を達成した時に費用が生じる体系)、タイムチャージ制(調査に要した時間に応じて費用が生じる体系)など多岐に渡ります。
金額も探偵業者によって様々で、後述のとおり、不当に高額な探偵費用が設定されることもあります。
また、調査の内容も多種多様で、一般的な信用調査、不倫・浮気調査、住所調査などに加え、いわゆる「別れさせ屋」、「復縁屋」などの公序良俗違反に該当し得る業務、探偵業の範囲を超える業務を行っている探偵も散見されます。
一般的に、探偵費用は高額であることが多いので、トラブルが生じるケースは多いです。
3. 返金請求ができるケース
探偵費用について合意が成立している場合、原則として、返金を請求することはできません。
しかし、以下のような場合は、返金が認められる可能性があります。
契約内容と異なる場合
探偵と契約した内容と実際の調査内容が異なる場合には、債務不履行(契約で合意した内容を履行しないこと)を理由に返金を求めることができる可能性があります。
<具体例>
- 調査を依頼したが、探偵が調査に着手しない
- 浮気調査の時間を24時間と合意していたのに12時間しか実施してもらえていない
- 調査報告書を作成することになっていたのに調査報告書を交付してもらえない
探偵の故意・過失により契約の目的を達成できなかった場合
探偵側の故意・過失により、調査を依頼した目的を達成できなかった場合も、債務不履行として返金を求めることができる可能性があります。
<具体例>
- 浮気調査を依頼し、2名の調査員が調査することになっていたが、1名しか派遣できなかった結果、対象者が密会している現場を押さえることができなかった
- 尾行が対象者にばれてしまい、以降警戒されて調査の続行が困難になった
- 調査で撮影した画像データや写真を紛失してしまった
詐欺行為があった場合
探偵が虚偽の事実を述べて契約を締結させたような場合には、詐欺を理由に返金を求めることができる場合があります。
<具体例>
- 不貞(不倫)を理由とする慰謝料請求が認められるためには、ラブホテルに出入りする所を1回だけではなく、2回以上押さえる必要があると説明し、2回目の不倫調査を依頼させた(※実際は1回でも認められる可能性が高い)
- 探偵は職権で対象者の住民票を取得することができると説明されたので、住所調査を依頼したが、実際は住民票を取得する権限がなかった
- 行方不明者の所在調査において、実際は所在を調査することは不可能であるにもかかわらず、調査できる可能性があると説明し、契約を締結させた
消費者契約法に違反する場合
消費者契約法第4条に違反する事情がある場合には、契約を取り消すことができます。
なお、消費者契約法に基づく取消権の時効は、追認をすることができる時(通常は誤認していたと認識した時がこれにあたります)から1年以内と短いので、注意が必要です。
<具体例>
- 実際は緊急性がないにもかかわらず、「早く調査を始めないと調査ができなくなってしまう」と不安を煽り、調査を依頼させた(不実告知)
- 調査が成功するか否かが不確定であるにもかかわらず、「必ず成功する」と説明し契約を締結させた(断定的判断の提供)
- 浮気調査をしている中で対象者が浮気をしていないことを把握していたにもかかわらず、それを説明せずに追加の調査を依頼させた(不利益事実の不告知)
調査費用が不当に高額の場合
調査費用が不当に高額な場合には、公序良俗違反を理由に契約の無効を主張できる可能性があります。
もっとも、原則として契約で合意した金額は有効ですので、市場相場より高額というだけでは公序良俗違反は認められず、著しく過当な金額であることが必要です。
なお、不当なキャンセル料や違約金が設定されている場合も、キャンセル料や違約金の条項を無効とし、支払を拒否できることがあります。
また、いわゆる「別れさせ屋」という対象者とその交際相手を別れさせる工作を行う業務を行っている探偵もいます。
別れさせ工作を業務内容とする契約は公序良俗に反し無効であるとの議論もありますが、仮に公序良俗に違反すると判断されたとしても、返金を求めることはできません。
なぜなら、自ら公序良俗に違反する契約を締結した者には、法は助力しないという趣旨のもと、返金請求は認められないと定められているためです(「不法原因給付」(民法第708条))。
強迫があった場合
例えば、契約を締結しなければ危害を加えるなどと脅迫されて契約を締結させられた場合には、民法の「強迫」(民法第96条1項)に該当し、契約を取り消すことができます。
ただし、強迫を理由とする取消しの場合、強迫に該当する事実があったことを返金請求する側が立証(証拠により証明)する必要があります。
探偵に脅迫されたという相談は少なくないですが、証拠が残っていることは稀で、立証が難しい類型といえるでしょう。
4. 返金請求の方法
裁判外での請求
まずは、裁判外で探偵に返金の交渉を行いましょう。
請求に際しては、請求したこと及びその内容が記録に残る形で行うべきです(内容証明郵便やメール等)。
記録を残しておくことで、訴訟(裁判)に移行した際に証拠として提出することができ、時効の完成を猶予させることができたり、遅延損害金の起算点を請求時まで遡らせることができるなどのメリットがあります。
なお、私の経験上、弁護士を就けずに本人が返金請求をした場合、探偵が任意に返金に応じてくれるケースは少ないです。
返金に応じてもらえない場合には、後述する訴訟に移行する方法も考えられますが、その前に弁護士への依頼や消費者センターへの相談等、第三者に間に入ってもらうことを検討すると良いでしょう。
また、詐欺行為があった場合は、警察に相談することも検討しましょう。
刑事事件化することで、探偵が任意の返金に応じる可能性が高まります。
裁判上の請求(訴訟提起)
裁判外の交渉が決裂した場合には、訴訟提起を検討しましょう。
訴訟を提起する裁判所は、探偵の事業所の所在地(被告の住所地)を管轄する地方裁判所又はご自身の住所地(義務履行地)を管轄する地方裁判所になります。
ただし、契約で管轄裁判所が合意されている場合は、合意した裁判所に訴訟提起することになります(専属的合意管轄裁判所)。
訴訟提起に当たっては、訴状や証拠説明書の作成、提出証拠の準備、印紙や郵券(郵便切手)の納付が必要になります。
訴状の作成や証拠の精査には法的知識が必要になり、また、訴訟提起後は、裁判所とのやりとり、裁判所への出頭、書面や証拠の追加提出の必要がありますので、弁護士に依頼することを検討した方が良いでしょう。
5. まとめ
前述のとおり、探偵への返金請求においては、探偵が任意で返金に応じてくれるケースは少なく、訴訟提起のためには法的知識が必要になります。
探偵への返金請求を検討されている場合には、弁護士に相談した上で、依頼することも検討されると良いでしょう。
当事務所は、探偵に対する返金請求案件を多く経験しておりますので、探偵への返金請求を検討されている方は、ぜひご相談ください。