離婚時に養育費の金額を定めたものの、離婚後に事情が変わり、養育費の増額を求めたいという方もいらっしゃると思います。
原則として、従前に合意した養育費の金額を変更することはできませんが、当事者間で合意するか、裁判所に事情の変更を認めてもらえれば、養育費の増額を求めることができることがあります。
本稿では、養育費の増額が認められる条件と養育費の増額を求めるための手続を弁護士が解説します。
なお、養育費の総論については、こちらのコラムで解説していますので、ご参照ください。
目次
1. 養育費の増額が認められる条件
養育費の増額について、当事者間で合意が成立すれば、養育費を増額することができます。
一方で、当事者間で合意ができない場合には、養育費増額調停を申し立てる必要があります。
民法では、「扶養すべき者若しくは扶養を受けるべき者の順序又は扶養の程度若しくは方法について協議又は審判があった後事情に変更が生じたときは、家庭裁判所は、その協議又は審判の変更又は取消しをすることができる」と定められています(民法第880条)。
すなわち、裁判所に養育費の増額を認めてもらうためには、「事情の変更」があることが必要です。
「事情の変更」が認められるか否かは、ⅰ重大な事情変更といえるか、ⅱ事情の変更の予測可能性、ⅲ増額の必要性を基準に判断すべきであると解釈されています。
2. 養育費の増額が認められるケース
では、どのような事情があれば、事情の変更があったとして裁判所に養育費の増額が認められるのでしょうか。
以下、事情の変更が認められる具体例を紹介します。
①義務者の収入が増加した場合
義務者(養育費の支払義務を負う側、非監護親=子と離れて暮らす親)の収入が増加した場合、事情の変更があったとして、養育費の増額が認められることがあります。
ただし、単に収入が増加したというだけでは事情の変更は認められず、昇進や転職により継続的に収入が増加することが見込まれるか、増加した収入の金額などの事情を総合的に考慮して判断されます。
②権利者の収入が減少した場合
権利者(養育費の支払を受ける側、監護親=子と一緒に暮らす親)の収入が減少した場合、事情の変更があったとして、養育費の増額が認められることがあります。
裁判実務上、事情の変更が認められるか否かは、収入の減少した理由が重視される傾向があります。
例えば、大きな病気・怪我等により就労が困難になった場合には事情の変更が認められやすく、一方、特別な理由なく仕事を辞めたような場合には事情の変更が認められない傾向にあります。
収入の減少を理由とする養育費の増額を求める場合には、収入が減少した理由を合理的かつ詳細に説明できるようにしましょう。
③子の進学・病気等の事情が生じた場合
子に進学や病気等の事情が生じた場合、養育費の増額が認められることがあります。
例えば、子が私立高校に進学することになった、子が大きな病気にかかり継続的に手術代や入院代、治療費の負担が生じたなどの事情がある場合には、養育費の増額が認められる可能性があります。
子の進学に関しては、義務者が進学に同意していたか、同意していない場合、親の学歴・職歴・収入等を考慮して子が当該学校に進学することが不合理ではないかという点が養育費の増額が認められるか否かのポイントとなることが多いです。
④子が四年制大学に進学した場合
養育費の終期は、「子が満20歳に達する日の属する月まで」とするのが一般的ですが、仮に子が四年制大学に進学した場合、子は、大学卒業まで、すなわち、22歳に達した後最初に到来する3月までの間、扶養が必要になるので、養育費の終期の延長を求めることができます。
なお、義務者が子の大学進学に同意していた場合や、同意していない場合でも親の学歴・職歴・収入等を考慮して大学に進学することが不合理でない場合は、互いの収入に応じて大学の学費の負担を按分することもできます。
3. 増額できる金額は?
養育費の金額は、原則として、裁判所が公表している「養育費・婚姻費用算定表」により決定されます。
権利者又は義務者の収入が増減している場合には、増加又は減少した双方の収入を算定表に当てはめて養育費を算定するのが一般的です。
ただし、元々合意していた養育費の金額が算定表より高い金額又は低い金額であった場合は、その理由も考慮した上で算定表の金額から調整されることもあります。
また、私立学校への進学や大きな病気により学費や入院代等を加算する場合は、互いの収入に応じて按分した金額を加算することになります。
例えば、義務者の収入が300万円、権利者の収入が100万円、私立学校の学費加算分(実務上は、算定表情考慮されている学費と私立学校の学費の差額を加算分とすることが多いです)が月額4万円の場合、3:1の割合で按分することになるので、月額3万円が養育費の増額分ということになります。
4. 養育費増額請求の方法
①協議
まずは、当事者同士で協議をするのが良いでしょう。
養育費の増額の始期は、事情の変更が生じた時から認められるものではなく、養育費増額の請求をした時からと考えるのが裁判実務です。
したがって、養育費の増額を請求する場合には、必ず内容証明郵便等の記録に残る方法で請求を行い、それから協議を始めるようにしましょう。
当事者間で合意が成立した場合には、後日紛争が生じることがないように、合意した内容を書面に残すと良いでしょう。
また、増額した養育費が支払われなくなった場合に、速やかに強制執行手続に入ることができるように、公正証書を作成しておくのがベストです。
②調停
協議がまとまらない場合には、養育費増額調停の申立てを検討しましょう。
調停は、裁判所を通じて話合いを行う手続で、調停委員会(裁判官又は調停官1名と調停委員2名の合計3名)が間に入り、話合いを仲介してくれるので、裁判外での協議よりも解決力が高い手続といえます。
調停を申し立てる裁判所は、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所です。
また、調停の申立てに当たっては、以下の書類等の提出が必要になります。
- 申立書(正本と副本を各1通ずつ)
- 子の戸籍謄本
- 申立人の収入資料(源泉徴収票や確定申告書等)
- 連絡先等の届出書
- 事情説明書
- 進行に関する照会回答書
- (非開示を希望する事項がある場合)非開示の希望に関する申出書
- 収入印紙(子1人につき1200円)
- 郵便切手(裁判所毎に金額と内訳が異なるので管轄の裁判所に確認しましょう)
③審判
調停でも合意が成立しなかった場合、調停は不成立となり、自動的に審判手続に移行します。
「審判」とは、裁判官が当事者双方の主張や資料を踏まえた上で、養育費の増額に関する決定を下す手続です。
審判の内容に不服がある場合には、審判の内容から通知されてから2週間以内に即時抗告の申立てを行うことができます。
即時抗告がなされた場合には、原審(家庭裁判所)を管轄する高等裁判所が審理を行い、結論を出すことになります。
なお、相手方が裁判所の出した決定に従わない場合には、給与の差押えなどの強制執行を行うことができます。
養育費の強制執行については、こちらのコラムで解説していますので、ご参照ください。
5. 養育費増額請求を行う際の注意点
養育費を増額できる事情の変更があるからといって、安易に養育費の増額請求を行うことは危険です。
こちら側に増額事由があったとしても、相手側に減額事由があることがあるためです。
例えば、収入が減少したという理由で養育費の増額請求をしたところ、相手方は再婚しており再婚相手との間に子がいる(養育費の対象となっている子以外の扶養義務者がいる)という減額事由を有していた場合、増額できる金額よりも減額できる金額が大きいために、逆に養育費の減額がされてしまったというケースが散見されます。
養育費の増額請求をする場合には、減額事由がないかをできる限り調査した上で行うようにしましょう。
なお、養育費の減額事由については、こちらのコラムで解説しています
6. まとめ
養育費の増額が認められるか否かを判断するためには、法的な知識が必要となる場合があります。
また、増額できる金額の計算が複雑になることもあります。
したがって、養育費の増額請求を検討されている方は、まずは弁護士に相談し、増額が認められるか否か、増額が認められるとしていくら増額することができるかなどの見通しを聞いてみると良いでしょう。
当事務所は、養育費に関する案件を多く経験しておりますので、養育費に関する相談をご希望の方は、問い合わせフォームよりご連絡ください。