自分の写真を勝手にSNSに投稿されてしまった場合には、肖像権の侵害を理由に相手に投稿を消すよう求めたり、慰謝料の請求をすることができる可能性があります。
そこで、本記事では、どのような場合に肖像権侵害が成立するのかや、慰謝料の相場について解説します。
目次
1. 肖像権侵害とは?
肖像権とは、人がみだりに他人から写真を撮影されたり、撮影された写真をみだりに公表・利用されない権利のことをいいます。
法律に明文化されている権利ではないものの、判例により、「人は、みだりに自己の容貌等を撮影されないということについて法律上保護されるべき人格的利益を有する」「人は、自己の容貌等を撮影された撮影された写真をみだりに公表されない人格的利益も有する」として認められている権利です(最高裁判所平成17年11月10日)。
肖像権は、以下の3つの内容を含む権利であるとされています。
- 自分の容姿などをみだりに撮影されない権利
- 撮影された写真等をみだりに公表されない権利
- 肖像の利用についての本人の財産的利益を保護する権利
このうち、3については「パブリシティ権」と呼ばれる財産的な権利です。
容姿などを撮影された写真等が財産的価値を有するという側面に着目して認められるものであることから、通常は著名人や有名人のみに認められる権利です。
例えば、有名人の写真を無断で商品の広告に利用したといった場合に成立します。
上記のように、人は自分の容貌をみだりに撮影されたり、公表されたりしない権利を持つことから、無断で顔写真を撮影したり、撮影された写真を無断で公開した場合には、肖像権侵害が成立しうることになります。
2. 肖像権侵害が違法となるケースは?
前述のとおり、無断で顔写真を撮影したり、撮影された写真を無断で公開した場合には、肖像権侵害が成立しえます。
ただし、肖像権侵害が違法となるためには、社会通念上受忍すべき限度を超えたことが必要となります。
つまり、通常我慢すべきであろうという限度を超えた場合に初めて違法行為となり、民法上の不法行為であるとして慰謝料を請求したりすることができます。
これは、例えば景色の写真を撮影していたところたまたま小さく人が映り込んでいたという場合にまで違法行為とするのは妥当でないという理由によるものです。
そこで、肖像権侵害が違法となるかどうかは、以下の要素を総合的に考慮して判断されます。
- 被撮影者の社会的地位
- 被撮影者の活動内容
- 撮影の場所
- 撮影の目的
- 撮影の態様(公表の態様)
- 撮影の必要性(公表の必要性)
例えば、撮影された人が公人(政治家など)や著名人であった場合、一般人に比べると撮影されることもある程度許容せざるを得ないといえます(被撮影者の社会的地位)。
また例えば政治家が公式行事に参加していると言った場合にも、撮影されることを許容すべき事情にあたりうるでしょう(被撮影者の活動内容)。
他方、自宅にいる人を勝手に撮影して公開した場合より、公共の場(道路や公園など)にいる人を撮影して公開した方が、権利侵害の度合いが低いといえるでしょう(撮影の場所)。
また、報道のために撮影した場合については、目的の正当性が認められやすいので、一定程度の撮影であれば受忍すべきと考えられやすくなります(撮影の目的)。
さらに、特定の人に焦点が当たっていないとか、画質が悪い(撮影の態様)・撮影をする必要性があったかといった事情も考慮されます。
このように、上に挙げた6つの要素を考慮しつつ、受忍限度を超えているかが判断されることになります。
3. 無断で投稿されてしまった画像を削除する方法は?
もし、SNS等にご自身の写真などを無断で投稿されてしまった場合には、以下のような方法で削除をすることが考えられます。
- 本人に削除を求める
- サイトの管理者にウェブフォーム等から削除依頼をする
- 一般社団法人テレコムサービス協会が作成したガイドラインに基づいて削除請求をする
- 裁判手続で削除を請求する
1. 本人に削除を求める
投稿した相手が誰であるか認識できている場合には、本人に連絡して任意に削除をしてもらうことが考えられます。
この場合には、相手に対してなぜ削除をすべきなのかという点をきちんと説明する必要があるでしょう。
2. サイトの管理者にウェブフォーム等から削除依頼をする
SNSや掲示板等では、投稿の削除を依頼するためのフォームを用意していることが多いです。
投稿フォームに必要事項を入力するだけで依頼が可能であり、比較的手間がかからない方法ではありますが、削除するか否かはサイト管理者の判断に委ねられてしまうため、必ずしも削除されるわけではないという点がデメリットです。
3. 一般社団法人テレコムサービス協会が作成したガイドラインに基づいて削除請求をする
一般社団法人テレコムサービス協会という、インターネットサービスのプロバイダ等が所属している団体が出している削除請求のガイドラインに基づいて削除請求をする場合には、同団体が公開している削除請求の書式に必要事項を記載して請求することができます。
ただし、必ずしも削除がされるわけではない点は、②の場合と同様です。
4. 裁判手続で削除を請求する
1~4の方法を試しても削除がされない場合などには、裁判手続きを利用することを検討しましょう。
具体的には、裁判所を通じた手続きである仮処分の申立てをすることにより、裁判所から投稿を削除するよう命令を出してもらえることがあります。
削除請求については、こちらの記事で詳しく解説していますので、ご確認ください。
4. 肖像権侵害で慰謝料は請求できる?
前述のとおり、肖像権侵害は民法上の不法行為に該当するものですから、肖像権侵害が成立する場合には、相手に対して慰謝料(肖像権侵害により被った精神的損害への賠償)を請求することができます。
慰謝料は、被った精神的苦痛の大きさにより額が決まるものですから、相場は一概には言えませんが、一般的にはおよそ10万円~50万円程度であることが多いです。
なお、肖像権侵害だけではなく名誉棄損やプライバシー権も侵害されている場合(例:顔写真とともに誹謗中傷が投稿されている)など、投稿に複数の権利侵害がある場合には慰謝料の額が増額されることがあります。
さらに、例えば裸の写真が投稿されているなどと言った場合(いわゆる「リベンジポルノ」の場合)には、重大なプライバシー権の侵害もあるとして、高額な慰謝料を請求できる可能性があります。
相手に対して慰謝料を請求する場合には、まずは投稿者が誰であるかを特定することが必要となります。
投稿者が判明していない場合には、発信者情報開示請求を行い投稿者を特定しましょう。
発信者情報開示請求については、こちらのコラムで詳しく解説しています。
相手が特定できたら、内容証明郵便にて慰謝料を請求するとよいでしょう。
内容証明郵便とは、いつ・誰が・誰宛に・どんな内容の書面を送付したかを証明してくれる日本郵便のサービスです。
正式な請求であることを示すと共に、相手に対していつ慰謝料を請求したかということが明確にできますので、メール等ではなく内容証明郵便にて請求するとよいでしょう。
また、内容証明郵便であれば、慰謝料請求の時効を中断する効果もあります。
相手が内容証明郵便に対して反応しない・慰謝料を支払わらないなどと言った場合には、民事訴訟(裁判)にて慰謝料を請求する必要があります。
民事訴訟は、裁判所に訴状(相手の行為が不法行為に該当することや、それにより精神的苦痛を被ったことなど、請求の根拠を示す書面)を提出することで提起できます。
5. 自身が公開した写真の場合に肖像権侵害が成立するか?
例えば、ご自身が既にSNSに掲載した写真を無断で転載された場合、既に公開されているものであることから、肖像権侵害が成立するか否かが問題となります。
ただし、ご自身が公開している写真でも、あくまで本人が公開した範囲や目的での限定した利用のみしか想定されていないという場合には、肖像権侵害が成立しうるといえるでしょう。
例えば、特定の人しか見られないような設定でプロフィールに利用していた写真を転載された場合などには、肖像権侵害が成立する可能性があるでしょう。
6. まとめ
肖像権侵害は、成立するか否かの判断が一概にできるものではないため、弁護士に相談して見通しを確認したうえで対応しないと、費用のみがかかってしまうといった結果になりかねません。
当事務所にご相談をいただければ、肖像権侵害が成立するかや、慰謝料をどの程度請求しうるかなど詳細な見通しをお伝えできますので、一度ご相談ください。