お子さんが刑事事件を起こしてしまった、お子さんが警察から呼び出されてしまったなど、今後大切なお子さんがどうなるのかご不安な方のために、本記事では、少年事件の流れを分かりやすく解説します。
目次
1. 少年事件とは
少年事件とは、少年が加害者である刑事事件のことをいいます。
少年法では、20歳未満の者が「少年」にあたると定められていますので(少年法第2条1項)、20歳未満の人が刑事事件を起こした場合には、少年事件として、通常の刑事裁判とは異なる手続きが行われます。
これは、少年は精神的に未熟である一方、更生の可能性が成人に比べて高いといった観点から、通常の刑事裁判とは異なる特別の配慮が必要であるという理由によるものです。
なお、民法改正により成人年齢は18歳となりましたが、少年法では引き続き、20歳未満の者が「少年」にあたります。
少年は、その状況や年齢から、以下の3種類に区別がされています(少年法第3条1項)
犯罪少年
14歳以上で罪を犯した少年のことをいいます。
少年が14歳以上の場合には、犯罪の種類(殺人や放火など重大犯罪など)によっては、成人と同様に逮捕されたり、刑事裁判により裁かれる可能性があります。
触法少年
14歳未満で刑罰法令に該当する行為を行った少年をいいます。
14歳未満の少年は、刑事責任が問われないため(刑法第41条)、逮捕されたり、懲役刑となるなどの刑事罰を受けることはありません。
触法少年については、矯正や保護の必要から、少年審判により保護処分(施設に送られるなど)の処分がされることがあります。
ぐ犯少年
保護者の監督に服しないなどの理由から、将来罪を犯したり、刑罰法令に触れる行為をするおそれがあると認められる少年をいいます。
触法少年や犯罪少年と違い、現時点ではまだ罪を犯していない少年ではありますが、将来罪を犯さないために、少年審判により保護施設に送られるなどの決定がされることがあります。
2. 少年事件の流れ-逮捕された場合-
少年が14歳以上であり、逮捕された場合の流れは以下の図のとおりです。
①逮捕
少年が逮捕された場合も、成人と同様に、警察署や留置場に身柄を拘束され、警察から取り調べを受けることとなります。
逮捕がされると、最大で72時間身柄が拘束されます。
警察は、逮捕をしてから48時間以内に事件の記録を検察官に送致しなければならないと定められています。
②勾留
事件の記録を受け取った検察官は、少年の身体拘束を継続する必要があるかを判断し、必要がある場合には裁判官に勾留の請求をします。
少年事件の場合、勾留はやむを得ない事由があるときにのみできるとされています(少年法第48条1項)が、実務上はこのやむを得ない事由は広めに解釈されています。
勾留の期間は10日間以内とされていますが、検察官の請求により裁判官が認めるとさらに10日間延長されるため、最大で20日間勾留がされる可能性があります。
③家庭裁判所への送致
成人の刑事事件では、検察官が不起訴の判断をした場合には、刑事裁判が開かれないことがあります。
これに対し、少年事件の場合には、検察官は必ず裁判所へ送致することが義務付けられています。
これを「全件送致主義」といいます(少年法第41条、第42条)。
④観護措置
事件の記録を受け取った家庭裁判所の裁判官は、少年を少年鑑別所に収容するかの検討を行います。
これを「観護措置」といいます。
観護措置は、事件が重大である場合や、心理検査や行動観察等を行い少年の心身の状況を調査する(「鑑別」といいます)必要性がある場合に認められます。
観護措置の期間は2週間と定められていますが、1回更新することができるため、実務上は、4週間とされることが多いです(少年法第17条3項)。
⑤家庭裁判所の調査
家庭裁判所では、事件の調査として「法的調査」と「社会調査」が行われます。
法的調査とは、主に非行事実があったか否かという点に関する調査です。
社会調査とは、裁判官から命令を受けた家庭裁判所の調査官によって行われます。
調査官は、少年や保護者との面会・学校への照会等を行って、少年の調査結果や処遇に対する意見をまとめます。
⑥審判
少年事件では、成人の刑事裁判のように公開の法廷で審理が行われることはなく、非公開の「審判」という手続で審理を行います。
審判では、裁判官や調査官、付添人から少年に対し、非行事実や更生の方法に関する質問がされます。
付添人とは、少年事件における弁護人のような役割を果たす、少年の権利を擁護する役割を担う人で、通常は弁護士が付添人となります。
また、裁判官から保護者に対する質問も実施されます。
少年の審判までの様子や、今後保護者としてどう少年をサポートしていくかなどが確認されます。
3. 少年事件の流れ―逮捕されていない場合-
少年が逮捕されていない場合は、以下の流れで手続きが進みます。
①捜査(取り調べ)
少年が逮捕されていない場合(「在宅」といいます)には、一般的には、警察や検察から呼び出しを受けた日にのみ警察署や検察庁に行き、取り調べを受けることになります。
まず初めに警察による捜査がされ、次に検察に事件の記録が送られるという点は、逮捕や勾留されている場合と同じですが、身柄拘束されている場合と比べ、身柄拘束の終了期限までに捜査を終了しなければならないといった制約がないため、時間をかけて捜査がされることが多いです。
取り調べは、毎日休みなく行われるということはまれであり、取り調べがない日は通常の生活が送れるため、学校に通うことも可能です。
ただし、通っている高校にどのような説明をするのか(しないのか)については、お子さんの通っている学校が私立学校か否かや、お子さんの状況によっても大きく異なり、慎重な判断が必要となりますので、一度弁護士に相談されることをお勧めします。
②家庭裁判所への送致
前述のとおり、少年事件の場合には、検察官は必ず裁判所へ送致することが義務付けられており、これは在宅の場合も同様のため、検察による捜査が終了すると、事件の記録が家庭裁判所に送られます。
③家庭裁判所の調査
家庭裁判所に送致がされた後、「法的調査」と「社会調査」が行われるという点も、少年が身柄拘束されている場合と同様です。
上で述べたとおり、学校への照会が行われることもありますので、事件のことを学校に説明していない場合、この照会が行われることにより、学校に判明してしまうケースも考えられます。
このような場合には、照会を行わないよう弁護士から申し入れをする・事前に弁護士から学校に説明をしておくなどといった対応が考えられます。
なお、在宅の場合、上で述べた「観護措置」が取られることはあまり多くはありません。
④審判
家庭裁判所で審判が行われるという点や、審判での流れも、基本は身柄拘束がされている場合と同じです。
異なる点としては、身柄拘束がされている場合、家庭裁判所に記録が送られてから、通常3~4週間で審判が開始されるのに比べ、在宅の場合、数か月後に審判が開かれることが多いという点です。
4. 少年審判の処分
家庭裁判所での審判が終了すると、裁判官が少年への処分を決定します。
処分の種類は以下のとおりです。
①不処分
非行事実の存在が認められない場合(非行なし)や、少年を保護処分に付する必要がないとき(非行事実が極めて軽微な場合など)には、不処分の決定がされます。
不処分の決定がされると、事件は終了し、少年が身柄を拘束されている場合には、釈放されます。
②保護処分
保護処分とは、少年の更生のためにされる処分をいいます。
最初に述べたとおり、少年事件では更生の可能性が大きいなどといった理由から、成人の刑事裁判で課される「刑罰」ではなく、少年を更生させるための処分が科されます。
あくまで更生のための処分のため、前科がつくこともありません。
保護処分の種類としては、保護観察処分、児童自立支援施設・児童養護施設への送致、少年院への送致があり、家庭裁判所の裁判官が、少年が更生するためにはどの処分が必要かといった観点から、処分を決定します。
保護観察処分とは、保護観察官という法務省所属の専門職員や、法務大臣からの委嘱により就任する保護司の指導の元、一般の社会の中で生活して更生を図る処分です。
少年は月に数回程度、保護観察官や保護司と面談をしながら生活することとなります。
児童自立支援施設とは、少年の自立を支援するための施設であり、児童養護施設とは、保護者がいない児童や虐待されている児童など、養護が必要な児童を入所させるための施設です。
いずれの施設も福祉施設という位置付けであり、開放処遇が原則とされていますので、少年が施錠された部屋に入れられるといったことはなく、施設内にある小学校や中学校に通ったりしながら生活します。
これに対し、少年院とは、矯正教育を受けされるための施設で、閉鎖処遇を原則としています。
少年は職業訓練などを受けながら、社会に適当できるよう社会のルールを学んでいきます。
いずれの処分も、単純に少年が犯した犯罪の重大さで決まるのではなく、少年の更生にはどういった処遇が適しているかという観点が重視されます。
6. 少年事件でお困りの方は弁護士にご相談を
家庭裁判所の裁判官は、調査官調査の意見の内容を参考にして少年の処遇を決定するため、調査の内容は非常に重要です。
調査官は、少年の処遇についても意見を述べることができるので、付添人として弁護士が就任している場合には、必要に応じて調査官と面会するなどして、少年の処遇について十分に協議することで、適切な処分が下されるよう活動できます。
また、少年の更生のためには、少年自身と周囲の環境を改善することが必要です(これを環境調整といいます)。
上で述べたとおり、学校にどういった説明をするのか、保護者として今後どのように少年をサポートしていけばよいのかについても、弁護士であれば最適なアドバイスができますので、お子さんが事件を起こしてしまってお困りの方は、お早めに弁護士に相談するとよいでしょう。