「街中で喧嘩になり相手方が110番通報をして警察沙汰になった」、「交際相手と口論になりついカッとなって肩を押してしまったら警察に通報された」というように、暴行罪で警察沙汰となった場合にこの後どうなってしまうのだろうと不安に思う方もいらっしゃると思います。
本稿では、暴行罪で刑事事件化した場合の手続の流れと対処法を弁護士が解説いたします。
目次
1. 暴行罪とは
刑法では「暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、二年以下の懲役若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する」と定められています(刑法第208条)。
「暴行」とは、人の身体に向けられた不法な有形力の行使と解釈されています。
殴る蹴るなどの相手の身体に直接触れる行為だけでなく、胸ぐらを掴む、髪の毛を引っ張る、人に向けて物を投げるなどの行為も、暴行罪における「暴行」に該当すると考えられています。
2. 警察に通報されたら逮捕される?
暴行罪で警察に通報されたからといって、必ず逮捕されるとは限りません。
逮捕は、犯罪があったと疑うに足りる相当な理由があること、逮捕の必要性(逃亡や罪証隠滅のおそれ等)があることなどの要件が定められているためです。
逮捕のリスクを下げるための対応方法としては、以下の方法が考えられます。
①相手方と早期の示談交渉を開始する
相手方と示談交渉を開始することによって、捜査機関(警察・検察官)が逃亡や罪証隠滅(証拠隠滅)のおそれがないと判断し、逮捕されるリスクを軽減できます。
また、後述のとおり、相手方との示談が成立すると、起訴される(刑事裁判が開かれる)可能性を極めて低くできるため、逮捕の必要性がないとして、逮捕の可能性も極めて低くできることになります。
相手方の連絡先が不明な場合、基本的に捜査機関が相手方の情報を教えてくれることはありませんので、弁護士を通じて、捜査官から相手方の情報を得た上で、示談交渉を行うことが一般的です。
②捜査に協力する
警察に通報された場合、警察から捜査の協力を求められることがあります。
例えば、取調べのために警察署に呼び出されたり、証拠物の提供や現場検証への立会いを求められるなどです。
捜査への協力を拒否した場合、逃亡のおそれや罪証隠滅のおそれがあると判断されて、逮捕されてしまう可能性があるので、できる限り警察の捜査には協力するようにしましょう。
③虚偽の供述をしない
暴行の事実があるにもかかわらず、嘘をついて暴行の事実はないなどと供述した場合、他の証拠と矛盾する可能性が高いでしょう。
この場合、捜査機関としては、不合理な弁解をしており、罪を免れるために逃亡したり罪証隠滅のおそれがあると判断し、逮捕する可能性が高まります。
取調べ等の捜査においては、嘘をつかずに真実を話すようにしましょう。
また、身元に関する質問をされた時に、合理的な理由なく、これを拒否してしまうと、逃亡のおそれがあるとして、逮捕される可能性が高くなるので、基本的に身元に関する質問には素直に答えるようにしましょう。
④弁護人を就ける
捜査が開始した場合、弁護士に依頼し、刑事事件の弁護人となってもらうことができます。
弁護人を就けることで、刑事事件にきちんと対応する意思があると考えられ、逃亡や罪証隠滅のおそれがないとして、逮捕のリスクを減らすことができます。
⑤住所や職業が安定している
住所が不定であったり、無職である場合は、逃亡のおそれがあるとして、逮捕される可能性が高まります。
無職の場合、すぐに仕事を見つけるのは難しいかもしれませんが、住所が定まっていない場合は、実家で親族と同居するなどして、安定した住居地を定めることが賢明です。
また、親族に身元引受人になってもらうと、逮捕のリスクを減らすことができます。
身元引受人になってくれる人がいない場合は、弁護人に身元引受人になってもらうこともあります。
3. 刑事事件の流れ
①捜査
警察は、通報や被害届の提出があった後、捜査の必要性があると判断した場合、捜査を開始します。
具体的には、当事者や目撃者からの事情聴取、現場検証、実況見分、捜索差押え、防犯カメラ映像の確認などを行います。
②検察官送致(書類送検)
警察は、捜査の結果、犯罪事実が極めて軽微であり、かつ、検察官へ送致する必要がないと判断した場合、「微罪処分」として、刑事事件を終了させます。
微罪処分とされた場合には、刑事事件手続が終了するので、再び警察から呼び出されたり、起訴されたり、前科が付くことはありません(ただし、捜査機関から犯罪の嫌疑をかけられて捜査の対象となった履歴(前歴)は残ります)。
一方で、検察官への送致が必要であると判断した場合には、捜査資料等の書類が検察官に送られます。
これを「検察官送致」といいます(いわゆる「書類送検」のことです)。
検察官送致がなされると、検察官が当事者の取調べを行うことがほとんどです。
また、その他捜査が必要と判断した場合には、検察官も必要な捜査を行います。
③終局処分(起訴・不起訴)
検察官による捜査が終了すると、検察官は、起訴するか、不起訴にするかを判断します。
これを検察官による「終局処分」といいます。
起訴されると、原則として刑事裁判が開かれることになりますが、例外として「略式起訴」というものがあります。
略式起訴とは、100万円以下の罰金又は科料に相当する事件について、被疑者に異議のない場合、正式裁判によらないで、検察官の提出した書面により審査する裁判手続を行うよう請求する起訴のことです。
略式起訴の場合は、書面のみで判断がなされることになるので、裁判所に出頭したり、法廷で発言をする必要はありません。
不起訴処分がなされた場合は、その時点で刑事事件は終了となるので、刑事裁判が開かれたり、前科が付くことはありません。
不起訴処分となる理由としては、嫌疑不十分(犯罪の証明が十分でない)、起訴猶予(起訴することが相当でない)などが挙げられます。
④公判
起訴(略式起訴を除く)された場合、刑事裁判が行われることになります。
検察官と弁護人がそれぞれ提出した証拠や刑事裁判の期日(公判)での当事者の供述等を考慮した上で、裁判官が有罪にするか、有罪にするとしてどのような量刑とするか(懲役◯年、罰金◯円など)を判断します。
4. リスク回避のためには早期の示談が重要
刑事事件化した場合、前述したように、逮捕されたり、前科が付いてしまうリスクがあります。
また、暴行は、民法上の不法行為に該当する可能性があるので、民事で損害賠償請求をされるリスクもあります(民法第709条、同第710条)。
これらのリスクを回避するためには、早期に相手と示談をすることが重要です。
示談が成立すると、起訴される可能性を大幅に減少させることができます。
すなわち、相手と示談するに際し、相手が「刑事処罰を求めない」という文言(「宥恕文言」といいます)を含めることで、検察官は示談の成立と被害者の処罰を望んでいないことを重視し、不起訴処分とすることがほとんどです。
また、示談の場合、ほとんどのケースで「清算条項」という互いに示談金の支払以外の債権債務がないことを確認する内容の条項が入りますので、損害賠償請求などの民事のリスクもなくすことができます。
前述のとおり、刑事事件化した場合、捜査の開始→検察官送致→起訴→刑事裁判と、刑事事件の手続が進んでいく可能性があります。
起訴された後は、示談が成立したとしても、検察官が起訴を取り下げることはありませんし、裁判所も示談の成立を理由に公訴棄却(刑事裁判の打切り)や無罪判決を下すこともありません。
したがって、刑事事件化した場合は、早期に示談交渉を開始し、示談成立を目指すようにしましょう。
5. まとめ
暴行罪で警察に通報されたというご相談を受けることは多いですが、中には、「ちょっと押しただけ」、「相手が先に挑発してきた」、「相手も殴ってきた」などの理由で、大事にはならないと考えている方が少なくありません。
しかし、暴行罪は人の生命・身体に対する罪であり、決して軽微な犯罪ではありません。
実際に、「ちょっと押しただけ」、「相手が先に挑発してきた」、「相手も殴ってきた」という案件で、逮捕されたり、起訴されて前科が付いているケースもあります。
警察に通報されている場合には、既に大きな法的リスクを抱えている状況ですので、楽観視せず、慎重に対応を検討するようにしましょう。
どのような対応が適切であるかは、専門的な知識や経験がないと判断が難しいので、まずは弁護士に相談することをお勧めします。
当事務所は、暴行事件の対応を数多く経験し、示談成立の実績も豊富です。
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