配偶者と離婚をすることを検討している中で、大きな問題となりうるのが、住宅の問題です。
賃貸の場合には、どちらかが新たに住む家を探し、引っ越しをすれば済みますが、購入した住宅に住んでいる場合には、名義の問題や、住宅ローンの返済等、考慮すべきことが多いでしょう。
そこで、本記事では、離婚の際に所有している住宅をどのように扱うことが考えられるか、住宅ローンはどのようにすべきかについて解説します。
目次
1. まずすべきこと
まずは、現在の住宅の状況について調査をするようにしましょう。
現在の名義は夫婦のどちらとなっているか、住宅ローンの契約内容、住宅ローンの残額、保証人の有無などを確認する必要があります。
例えば住宅ローンの残額より、物件を売却した場合の売却価額が低い場合(これをいわゆる「オーバーローン」といいます)と、そうではなく物件の売却価額が高い場合(=アンダーローン)とでは、考慮すべき事項が異なってくるからです。
なお、不動産の名義は、法務局で全部事項証明書(登記簿)を取得することで確認ができます。
また、不動産のおおよその査定額については、各不動産会社の簡易査定やサイト等で確認することができます。
固定資産税評価証明書の金額は、市場価格よりも低額であることが多いので、注意が必要です(市場価格の7割程度と言われています)。
2. 財産分与について
離婚をする際には、夫婦が所有している財産について、「財産分与」が行われます。
夫婦が婚姻期間中に協力して築き上げてきた財産は、名義がどちらであるかにかかわらず、夫婦二人の共同の財産といえるので、離婚に伴い分与すべきであるという考えに基づくものであり、簡単に言うと、離婚時に存在する夫婦の共同財産を、それぞれ1/2の割合で分与することと考えることができます。
例えば、預貯金が1,000万円ある場合には、夫と妻で500万円ずつ分けるという形です。
不動産についても財産分与の対象となるため、自宅を購入して所有している場合には、こちらも財産分与の対象となります。
この財産分与の際、マイナスの財産、つまり住宅ローンのなどの借り入れ(=債務)が、プラスの財産よりも少ない場合には、財産分与で考慮されます。
例えば、預貯金1,000万円で、借り入れが200万円ある場合には、1,000万円から200万円を差し引いた800万円を1/2ずつ分けるという形です。
一方で、プラスの財産よりもマイナスの財産が多い場合に、マイナスの財産を夫婦で分けるということはありません。
例えば、預貯金が200万円で、借り入れが1,000万円の場合、1,000万円から200万円を差し引いた800万円の債務を2人で分けるということはなく、債務は名義人が負担することになります。
実務上は、手続きが簡便であることから、借り入れをそれぞれ分担して負担し、それぞれが返済していくというのではなく、プラスの財産から-の財産を引いた残額(例でいうと800万円)を分与するという形がとられることがほとんどです。
以上を前提に、以下では、アンダーローンとオーバーローンの場合の考えられる対応を解説します。
3. アンダーローンの場合
調査の結果、アンダーローンとなっている場合には、不動産を売却し、売却代金でローンを一括返済し、残額を夫婦がそれぞれ1/2ずつ取得するという方法がよくとられます(残額を1/2ずつ取得するのは、「2」で述べたように、財産分与の必要があるためです。)。
離婚することにより、現在居住している家ほど広い家は不要となったり、月々の収入でローンの支払いを継続していくことが困難であるなどといった理由が一般的に生じやすいため、こういった方法がよくとられます。
一括返済をしてしまえば、例えば住宅ローンの借り入れが夫の名義で、連帯保証人が妻であるなどの場合も、今後の対応を検討する必要がなくなりますので、簡単な手続きであるといえるでしょう。
なお、もちろんどちらかが家に住み続ける事は可能です。
例えば、夫が不動産の名義人であり、住宅ローンの名義人でもある場合には、夫が住宅ローンの支払いを続けながら家に住み続けるということが考えられます。
ただし、この場合には、夫は物件の査定金額から住宅ローンの残額を控除した額(=不動産の実質的価値の額)の半額について、財産分与として妻に支払いをする必要があります。
妻が家に住み続ける場合については、「4」で解説するような問題点が生じるほか、妻が不動産の名義人となる(=不動産を取得する)場合には、妻が夫婦の共同財産である家を取得することとなるので、妻から夫へ財産分与として不動産の実質的価値の半額を支払う必要が出てくる、ということとなります。
ただし、ほかの財産(預貯金等)がある場合には、夫の方がその財産の取得額を多くするなどして調整することも可能です。
4. オーバーローンの場合
オーバーローンの場合には、不動産の任意売却により一括返済をするメリットがアンダーローンの場合に比べて少ないこととなりますので、どちらかが家に住み続けるということも考えられます。
ただし、この場合には、若干複雑な検討が必要になります。
例えば、夫が不動産の名義人であり、住宅ローンの名義も夫、妻が連帯保証人となっている場合を想定します。
この場合に夫が住宅に住み続けるのであれば、夫がローンを支払っていくという形が通常です。
ただし、連帯保証人となっている妻についても、離婚によって連帯保証人ではなくなるということはできないため、夫がローンの支払いを怠った場合などに、金融機関から請求を受けるということとなります。
金融機関との交渉によって、新たな保証人をつけることや、保証協会を利用すること、ある程度まとまった額を返済すること等を条件に、連帯保証人から外してもらうことも考えられますが、すんなり応じてくれる金融機関が多いというわけではありません。
どうしても連帯保証人から外れることができなかった場合には、離婚の際に、夫が住宅ローンの支払いを怠り、妻が金融機関の請求に応じて住宅ローンを支払った場合には、夫に請求ができることを確認する書面などを作成しておくことを検討しましょう。
なお、「2」で述べたとおり、財産分与についてはマイナスの財産が考慮される場合もあります。
オーバーローンの場合、①オーバーローンの不動産は財産的価値がないものとみなし、不動産も住宅ローンも財産分与の対象から除外するという考え方、②例えば預貯金や株など他の財産を加算するとプラスの財産の方が多くなる場合には、(住宅ローンの残額―不動産の査定額)÷1/2についてはプラスの財産から差し引いた上で1/2ずつ分与するという考え方があります。
次に、この場合に妻が家に住み続ける場合ですが、住宅ローンの名義が夫であることから、夫が住宅ローンの支払いを続けるという形が考えられます。
妻が住宅ローンの名義人となるよう、金融機関と交渉をすることも考えられますが、特に夫の方が収入が高い場合には、金融機関が名義変更に応じてくれることは考えづらいでしょう。
なお、夫がローンの支払いを続ける場合であっても、夫が債務全額を負担するという夫側に極めて不利な条件に応じる可能性は低いでしょうから、妻が夫に一定の額を支払うことを条件とすることが多いです。
具体的には、財産分与の財産分与の額で調整(妻が財産分与として夫に一定額を支払う)する、子供がいる場合の養育費の額から住宅ローンの支払い分を差し引く、不貞行為などを理由として離婚する場合等、慰謝料が発生する場合には、慰謝料の支払いに変えて住宅ローンの支払いを行ってもらう、などの調整をすることなどが考えられます。
住宅のほかにどのような財産があるか、養育費や慰謝料の支払いがあるかによって、どのように調整すべきかを検討することとなります。
そして、この場合には、住宅ローン完済後の名義の移転についても取り決めておく必要があるでしょう。
妻が家に住み続けるのであれば、住宅ローン完済前に名義を変更するのがよいとも思われますが、金融機関が、住宅ローンの完済前に名義変更に応じてくれることはほぼないといえます。
そこで、「住宅ローンの支払い完了後に、不動産の名義を変更する」ことについて、両者間で合意し、書面に残しておくことをお勧めします。
さらに、確実に夫に対して住宅ローンを支払ってもらうための手段も検討する必要があるでしょう。
最低限、夫が住宅ローンの支払いをする義務があることを記載した書面は残しておく必要がありますが、可能な限り、公正証書を作成しておくことをお勧めします。
公証役場という場所で作成することができ、公文書として認められているものです。
公正証書がある場合には、夫が住宅ローンの支払いを怠った場合に、夫の給与や銀行口座の預金を差し押さえて、そこから支払いを受けることができるためです。
また、住宅ローンの支払いを担保する方法として、連帯保証人を付けてもらうことも考えられます。
なお、住宅ローンの契約は名義人が継続して居住することを前提として契約であることから、夫が居住しなくなるという事情がある場合には、事前に金融機関に対し、事情を相談しておく必要があるでしょう。
もう1つ、妻が家に住み続ける場合にとられる方法として、「借換え」が考えられます。
これは、妻が住宅ローンとは別の金融機関から住宅ローン相当額を借り入れて、住宅ローンを一括返済してしまう方法です。
この方法を用いれば、夫名義の住宅ローンは消滅し、妻名義の別のローンが残ることになるため、上記のような夫が住宅ローンを支払い続けることにより生ずる問題を解消することができます。
ただし、一般的に離婚に伴う財産分与に関連して住宅ローンの借換えをしてくれる金融機関は少なく、対応している金融機関があっても、金利が高額であったり、審査が通りにくいなど、少しハードルの高い方法になります。
5. まとめ
以上で述べたように、住宅の扱いは、離婚時に大きな問題となりうる事項です。
財産分与も関係し、どちらかが一方に対し相当程度高額の金銭を支払う必要も出てくることがあるため、なかなか相手との合意ができないということもあります。
また、不動産をどちらかが取得する場合には、その他の金銭や株等で財産分与の方法を調整するなどの方法がある一方、ご自身のみで交渉すると、どういった方法が最善なのか、判断がつきづらい場合もあるのではないでしょうか。
当事務所では、経験豊富な弁護士が、現在のご相談者様の生活の状況を踏まえ、最善なアドバイスができるよう対応させていただきますので、ぜひ一度お気軽にご相談ください。