「子どもが面会交流を嫌がっている」「再婚しているので元夫や妻に子どもを会わせたくない」こういった事情で、面会交流を実施したくないといったご相談をいただくことがあります。
しかし、面会交流は子どもの健全な成長のために認められているものであり、親権者の一存で拒否できるものではありません。
そこで、本記事では、面会交流を拒否できる場合や拒否した場合のリスクについて解説します。
目次
1. 面会交流とは
面会交流とは、夫婦が離婚や別居をしたときに、子どもの親権者ではない親や監護をしていない親(「非監護親」といいます)が子どもと直接会ったり、電話やメールをしたりして交流することをいいます。
両親が離婚や別居をしたとしても、子どもにとっては双方が親であることに変わりなく、子どもの健全な成長のためには両親の継続的な関与が必要であるとされていることから、面会交流は子の福祉を害さない限り認められるべきだと考えられています。
しかし、あくまで子どもの健全な成長のために認められている権利であることから、面会交流によって子どもの健全な成長が阻害される場合には、面会交流を拒否することができます。
2. 面会交流を拒否できるケースとは
面会交流は、子どもの健全な成長という子どもの利益のために認められていることから、子の福祉に反する場合には、面会交流を拒否できます。
具体的には、以下のような場合には面会交流を拒否することが可能です。
①子どもを虐待するおそれがある場合
子どもを過去に虐待していたことがあったり、子どもと面会した場合に虐待するおそれがあるような場合には、面会を認めることで子の利益を害することになりますから、面会交流を拒否できる理由となります。
相手から面会交流を実施する調停が提起されている・審判がされている場合には、調停委員や裁判所に対して、具体的に虐待のおそれがあることを主張する必要があります。
例えば過去の診断書や怪我の部位の写真など、証拠とともに主張するようにしましょう。
また、過去に虐待をしていた事実があったとしても、将来にわたり一切面会交流が認められないというわけではないことに注意が必要です。
相手が改心していて虐待のおそれがないと判断されれば面会交流が認められることがあるので、現在においても虐待のおそれがあることを具体的に主張できる必要があるでしょう。
②子どもを連れ去るおそれがある場合
面会交流の実施後に、子どもを親権者の元に返さずに連れ去ってしまうおそれがあるといった場合にも、子の福祉に反するとして面会交流を拒否できます。
ただし、「会わせると連れ去ってしまうかもしれず心配だ」というだけでは足りず、具体的に連れ去りのおそれがある必要があるでしょう。
また、面会交流の支援をする第三者機関の立ち合いの元であれば、連れ去りをすることが難しいことから、連れ去りのおそれがある場合でも、第三者機関の立ち合いの元といった条件付きで面会交流が認められることもあります。
③子どもが面会交流を拒否している場合
子どもが明確に面会交流を拒否している場合にまで、無理やり面会交流を実施することは、子どもの健全な成長を阻害しかねないといえるでしょう。
ただし、幼少期の子どもの場合には、自分の意思をうまく伝えられなかったり、一緒に暮らす親に気を遣って会いたいと言い出せないといったことが想定されることから、幼少期の子どもが「嫌」と言っているのみでは、拒否が認められない場合があります。
裁判実務では、おおむね15歳以上の子どもが面会交流を拒否している場合には、子どもの意思が尊重されます。
④再婚をしている場合
再婚をしているからと言って、一概に面会交流の拒否が認められるわけではありません。
ただし、幼少期の離婚で子どもが再婚相手を実の親と理解している場合など、面会交流の実施により子どもと再婚相手の生活に混乱が生じてしまうことが想定される場合には、面会交流が拒否できる場合があります。
面会交流の実施が子どもや子どもの生活環境に与える影響を考慮して、面会交流の実施が子どもの福祉に反すると判断される場合には、面会交流の拒否が認められるでしょう。
⑤アルコール依存・ギャンブル依存がある場合
例えば非監護親にアルコール依存症がある場合には、面会交流の場で子どもの健全な成長を阻害するような行動をしてしまったり、ギャンブル依存の場合、競馬場など子どもの健全な成長を阻害する場所に連れて行ってしまうといったおそれがあります。
このように、面会交流の実施が子どもの健全な成長を阻害すると認められる場合には、面会交流の実施を拒否できる可能性があります。
ただし、②の場合と同様、第三者機関の立ち合いの元など一定の条件の元であればそういったおそれがないと判断され、面会交流の実施が認められる場合があるでしょう。
3. 面会交流を拒否するとどうなる?
今まで述べてきたように、面会交流の実施は子どもの健全な成長のために認められるべきであると考えられていることから、単に「子どもを会わせたくない」といった理由で面会交流を拒否することはできません。
面会交流を拒否したいと考えている親権者の方から、「面会交流の場に連れて行かなくてもよいですか?」といったご質問を受けることがありますが、以下のリスクがあることから、一方的に面会交流の実施をしないことは避けるべきです。
①履行勧告をされてしまう
履行勧告とは、家庭裁判所の調停や審判で決まった義務を守らない人に対して、家庭裁判所がその義務を履行するように勧告する手続です。
面会交流の調停や審判で、面会交流の実施に関する条件が決まっているにも関わらず、面会交流の実施をしない場合には、相手方から履行勧告の申立がされてしまう可能性があります。
履行勧告の申立がされると、裁判所から面会交流の実施をするよう連絡が来ます。
これを無視したからといって、強制的に面会交流の実施がされるものではありませんが、履行勧告を無視したことが②で述べる間接強制金の額や③で述べる慰謝料の額に影響を与える場合があります。
②間接強制をされてしまう
間接強制とは、判決や和解で定められた義務を履行しない者に対し、一定期間内に義務を履行しなければ、間接強制金の支払をするよう命ずることをいいます。
面会交流については、裁判所が直接子どもを面会交流の実施場所に連れていくといったことができないため、直接強制といって義務の内容を直接実現することは認められていません。
そこで、間接強制金の支払いを命じることにより、間接的に義務の履行を促す手続があるのです。
調停や審判で面会交流の実施が認められていて、それを約束どおりに実施しなかった場合「不履行(=面会交流の実施をしないこと)1回あたり〇万円を支払え」といった形で間接強制の支払いが命じられることがあります。
間接強制金は、1回あたりは数万円~十万円程度であることが多いですが、何度も拒否することにより、間接強制金の額が積みあがってしまい、膨大になってしまうということにもなりかねません。
③慰謝料請求をされてしまう
面会交流の実施について互いに合意していたり、調停や審判により面会交流の実施が認められているにもかかわらず、一方的に面会交流の実施を拒否した場合には、面会交流の実施がされないことにより精神的苦痛を被ったという理由で慰謝料請求がされる可能性があります。
実際に、面会交流の実施を一方的に拒否したことを理由に慰謝料の支払いが認められているケースもありますので、注意が必要です。
なお、慰謝料の額は事案にもよりますが、数十万円~百万円程度の慰謝料の支払いが認められる場合もあります。
4. 面会交流の実施の拒否に関するよくある疑問
①相手が不倫したために離婚した場合に面会交流の実施を拒否できる?
面会交流の実施を拒否したい理由として、「不倫をした親にはもう会わせたくない」「不倫をしたのだから、子どもに会わせることは悪影響だ」という考えをお持ちの方もいるかもしれません。
しかし、離婚事由と面会交流の実施は別問題であり、不倫をしたからといって、そのことのみをもって子どもと面会交流をすることが子どもの健全な成長を阻害するとはいえません。
面会交流の実施については、あくまで「子どもの福祉の観点から面会交流は実施されるべきか」という点により判断されるのです。
②相手が養育費を支払わないので面会交流を実施しないことはできる?
相手との合意や調停・審判などで養育費の支払が定められているにもかかわらず、相手が養育費の支払 をしない場合、支払がされるまでは子どもに会わせたくないと考える方もいるでしょう。
しかし、面会交流の実施と養育費の支払についても別問題であり、面会交流の実施を拒否していい理由とはなりません。
相手が義務を実施しないからといって、こちらも義務を実施しなくていいということにはならないため、相手が養育費の支払をしない場合には面会交流を拒否するのではなく、履行勧告や強制執行をするなどして支払を求めていくようにしましょう。
5. 面会交流の実施を拒否する方法
面会交流の実施を拒否したい場合には、面会交流調停を実施することを検討しましょう。
面会交流調停は、面会交流を求める場合だけではなく、実施を拒否したい場合にも申立てをすることができます。
また、面会交流の実施にあたって一定の条件を付したい場合も、面会交流調停を実施するとよいでしょう。
例えば、連れ去りが心配な場合に第三者機関や親族の立会いをすることを条件としたり、まずは手紙や電話などの交流から始めていくなどの方法を調停の場で話し合うことができます。
6. まとめ
面会交流の実施については、一方的に拒否をしてしまうと間接強制や損害賠償請求などのリスクがある一方で、子どもの健全な成長のために、拒否が認められるべき場合もあります。
拒否できる理由があるのに正しく主張ができず、面会交流が認められることによって子どもに不利益を与えてしまうことにならないためにも、面会交流の拒否を検討している場合には、一度弁護士に相談するとよいでしょう。