ビットトレント等を利用して漫画や動画をダウンロードしたら、プロバイダから著作権違反を理由に発信者情報開示請求の意見照会書が届いたという場合、損害賠償請求を受けたり、刑事事件化するリスクがあります。
本稿では、トレントシステムを利用して発信者情報開示請求をされた場合の対応方法を解説します。
目次
1. トレントとは?
トレント(torrent)システムとは、これを利用してファイルをダウンロードすると、同時にそのファイルがアップロードされ、他者に送信されるというシステムです。
著作物をアップロード(公衆送信)する場合、著作権者の許可を得る必要があるため(著作権法第23条)、トレントシステムを利用し著作物をダウンロードした場合は、原則として、違法ダウンロードのみではなく、違法アップロードもしたことになってしまいます。
2. 発信者情報開示請求とは?
著作権を侵害された者は、加害者に対して、損害賠償請求や刑事告訴を行うことができます。
損害賠償請求や刑事告訴を行う場合、加害者を特定する必要があるので、IPアドレスを割り当てたプロバイダに対し、契約者の氏名や住所等の個人情報を開示するよう求めることになります。
これが発信者情報開示請求です。
意見照会書が届いたということは、損害賠償請求や刑事告訴等の法的手続を行う準備として、権利を侵害された者が発信者情報開示請求を行っているということになります。
3. トレントで発信者情報開示請求をされている場合のリスク
①損害賠償請求
前述のとおり、著作権違反の場合、損害賠償請求を受けるリスクがあります。
損害額は、基本的に、ダウンロード回数×販売利益という計算方法により算定されるため(著作権法第114条1項)、トレントシステムでダウンロードした作品が人気の作品である場合、損害額が高額になるおそれがあります。
②刑事罰
著作権違反の場合、法定刑は10年以下の懲役又は1000万円以下の罰金若しくはこれを併科されると定められています(著作権法第119条1項)。
著作権者が刑事告訴をし、起訴された場合には、上記刑事罰を受けるおそれがあり、場合によっては、逮捕されるなどの身柄拘束のリスクもあります。
4. 意見照会書に対する対応方法
発信者情報開示請求がなされた場合、プロバイダは、発信者の氏名や住所等の個人情報を請求者に開示することについて発信者に意見を聴かなければなりません(プロバイダ責任制限法第4条2項)。
この意見を聴くための書面が意見照会書になります。
意見照会書の回答期限に法的な制限はありませんが、実務上は意見照会書の到達から2週間以内とされることが一般的です。
意見照会書に対する対応としては、以下のものが考えられます。
①無視する
意見照会書に回答する法的義務はなく、回答しないことに対する罰則等もありませんが、無視することは非常にリスクが高いです。
プロバイダとしては、発信者の意見はないものとして、開示するか否かの判断をすることになりますが、トレントの発信者情報開示請求の場合、ほとんどのケースでプロバイダは開示する判断をしますし、仮にプロバイダが開示を拒否した場合であっても、裁判所が開示命令の決定を出すことがほとんどです。
発信者情報の開示がなされた場合、前述した損害賠償請求や刑事事件化のリスクを負うことになるので、無視するという対応は避けるべきでしょう。
②同意する
トレントシステムを利用して作品をダウンロードした認識がある場合には、「同意する」と回答するのが良いでしょう。
前述のとおり、トレントの発信者情報開示請求の場合、最終的に開示がなされるケースがほとんどであるからです。
また、同意することで、スムーズに示談交渉に入ることができ、前述した損害賠償請求や刑事事件化といった法的リスクを回避し、紛争の早期解決を図れる可能性が高まります。
③開示を拒否する
「同意しない」と回答することも可能ですが、前述のとおり、トレントの発信者情報開示請求の場合、ほとんどのケースでプロバイダは開示する判断をしますし、仮にプロバイダが開示を拒否した場合であっても、裁判所が開示命令の決定を出すことがほとんどです。
したがって、安易に「同意しない」と回答することは避け、情報の開示に納得できない理由がある場合には、弁護士に相談して意見を仰ぐと良いでしょう。
④心当たりがない場合
トレントシステムの利用に心当たりがない場合には、「同意しない」と回答することも考えられます。
もっとも、プロバイダは、投稿がなされたIPアドレスをもとに契約者を特定して意見照会書を送付しているので、プロバイダが誤って意見照会書を送ってきたという可能性は低いです。
そのため、単に「心当たりがない」と回答するだけでは、開示が認められてしまう可能性が高いです。
したがって、仮にご自身に投稿の心当たりがない場合であっても、家族や同居人、その他インターネット回線を利用した可能性がある人がいる場合には、必ず投稿の有無を確認するようにしましょう。
5. 示談交渉を行う場合の注意点
示談交渉は早期に行うことが重要
トレントの発信者情報開示請求においては、早期に請求者と示談交渉をすることが非常に重要です。
早期に示談交渉をすることにより、紛争の早期解決が期待できるほか、前述した高額な損害賠償請求や刑事事件化のリスクを回避することができるためです。
示談金の相場
トレントの示談金の相場は、1作品当たり20万〜50万円程度です。
もっとも、近年は、アダルト動画作品について、株式会社ケイ・エム・プロデュース、有限会社プレステージ、株式会社WILL、株式会社Exstudioが著作権侵害を理由とする発信者情報開示請求を行うケースが増加しています。
また、その他漫画・アニメ・音楽等の著作権侵害についても、発信者情報開示請求がなされているケースが多いです。
トレントシステムを利用している方の場合、多くの作品をダウンロードしていて、どの作品をダウンロードしたか認識がないというケースが少なくありません。
したがって、1作品のみで示談(和解)が成立したとしても、他の作品について、追加の発信者情報開示請求がなされる可能性があるので、1作品を対象とした個別の和解ではなく、包括的に和解することも検討した方が良いでしょう。
示談する際は必ず宥恕文言と清算条項を入れる
示談する場合には、必ず清算条項(示談金以外に債権債務がないことを相互に確認する条項)と宥恕文言(加害者の刑事処罰を求めない旨の条項)を定めるようにしましょう。
これらの条項を定めずに示談をしてしまうと、前述した高額の損害賠償請求や刑事事件化のリスクを防止できていないことになってしまいます。
6. トレントに関する紛争を弁護士に依頼するメリット
前述のとおり、トレントの発信者情報開示請求に対しては、相手方と早期に示談交渉を開始することが重要です。
弁護士に依頼することで、弁護士に示談交渉を一任でき、また、高額な損害賠償請求及び刑事事件化等の法的リスクを回避できる可能性が高まります。
7. まとめ
これまで述べてきたとおり、トレントで発信者情報開示請求がなされている場合、大きな法的リスクを負っていることになるので、意見照会書が届いた場合には、早急に弁護士に相談することをお勧めします。
当事務所は、インターネット・IT問題にも注力しており、トレントの発信者情報開示請求に対する対応経験は豊富です。
トレントで発信者情報開示請求を受けており、対応にお困りの方は、お電話又は問合せフォームよりお問い合わせください。