突然、自宅にプロバイダから発信者情報開示請求の意見照会書が届いて驚いたという方もいらっしゃるでしょう。
意見照会書が届いたということは、大きな法的リスクを抱えている可能性があります。
きちんと対応すれば、早期に解決できる可能性がありますが、対応を誤ってしまうと大きな不利益を被るおそれがあります。
本稿では、意見照会書が届いた場合の対応方法を弁護士が解説いたします。
目次
1. 意見照会書とは
発信者情報開示請求の意見照会書は、プロバイダが発信者の氏名や住所等の個人情報を請求者に開示することについて発信者に意見を求める書面です(プロバイダ責任制限法第4条2項)。
意見照会書が届いたということは、請求者が発信者の投稿により自身の権利を侵害されたとして、発信者の個人情報の開示を求めているということになります。
意見照会書に対する回答期限に法的な制限はありませんが、実務上は意見照会書の到達から2週間以内とされることが一般的です。
2. 対応方法
①無視する
意見照会書に回答する法的義務はなく、罰則等もありませんが、無視することは非常に危険です。
プロバイダとしては、発信者の意見はないものとして、開示するか否かの判断をすることになりますので、開示される可能性が高まります。
また、情報が開示された後の損害賠償請求や刑事事件において、意見照会を無視したという事情が不利に扱われ、損害賠償額の増額や刑事事件化のリスクが高まるおそれがあります。
②同意する
自身が発信した投稿により請求者の権利を侵害したことにつき、反論の余地がない場合又は権利侵害が認められる可能性が高いと考えられる場合には、「同意する」と回答しましょう。
同意した場合、請求者に発信者の氏名や情報が開示されますので、後日、請求者が損害賠償請求や刑事告訴などの法的手続を取ってくる可能性が高いです。
したがって、同意する場合には、請求者と早期に示談交渉を行い、紛争の早期解決を図ることが得策です。
③投稿に心当たりがない場合
対象の投稿に関し、心当たりがない場合には、「同意しない」と回答することも考えられます。
もっとも、プロバイダは、投稿がなされたIPアドレスをもとに契約者を特定して意見照会書を送付しているので、プロバイダが誤って意見照会書を送ってきたという可能性は極めて低いです。
そのため、単に「心当たりがない」と回答するだけでは、開示が認められてしまう可能性が高いです。
したがって、仮にご自身に投稿の心当たりがない場合であっても、家族や同居人、その他インターネット回線を利用した可能性がある人がいる場合には、必ず投稿の有無を確認するようにしましょう。
家族等に確認した結果、投稿の事実が確認できた場合には、「同意する」とした上で、投稿した者の氏名や連絡先も併せて回答するようにしましょう。
その上で、投稿者は、請求者と早期に示談交渉を行うことが望ましいです。
他方、投稿にまったく心当たりがない方のうち、不特定多数の者がインターネット回線を利用できるような状態であったときは(例:店舗のフリーWi-Fi)、そのことが分かる説明と資料を添付した上で、「同意しない」と回答することで、開示が認められない可能性が高まります。
④権利侵害が認められない場合
投稿内容が権利侵害に当たらないと判断する場合には、その理由を詳細に記載した上で、「同意しない」と回答しましょう。
ただし、発信者情報開示請求における権利侵害の種類は多岐に渡り、また、法的な判断が必要になる場合があるので、権利侵害に当たるか否かの判断は慎重に行いましょう。
権利侵害に該当しない理由としては、以下のものが考えられます。
・名誉権の侵害(名誉毀損)
請求者の社会的信用を低下させるものではない、違法性阻却事由がある(公共性・公益目的・真実性の要件を満たす)など
・名誉感情の侵害(侮辱)
請求者を侮辱するものではない、社会通念上許される限度を超えるものではないなど
・プライバシーの侵害
私生活上の事実ではない、一般的な感受性を基準にして公開して欲しくない内容とはいえない、公知の事実であるなど
・著作権の侵害
対象のコンテンツに著作権が認められないなど
・肖像権の侵害
モザイク等により被写体が特定できない、公共の場所であるなど
⑤発信者情報開示請求の正当な理由がない場合
近年は、SNS上のやりとりにおいて、相手方に負の感情を抱いたという理由のみで、発信者情報開示請求を行うケースも散見されます。
そのような場合には、発信者の平穏な生活を害する目的である、発信者の名誉を不当に傷つける目的であるなどを理由に、発信者情報開示請求が却下された事例があります。
したがって、上記のような事情がある場合には、「同意しない」と回答した上で、発信者の平穏な生活を害する、発信者の名誉を不当に傷つける目的であることを指摘する説明とこれを示す資料を添付して回答すると良いでしょう。
3. 「同意しない」と回答した場合のリスク
意見照会書に「同意しない」と回答した場合であっても、プロバイダの判断で発信者の情報を開示する可能性があります。
また、「同意しない」という回答を受けて、プロバイダも開示を拒否した場合、請求者が発信者情報開示命令を求める裁判を行う可能性があります。
この裁判によりプロバイダに開示命令がなされれば、プロバイダは情報を開示することになります。
請求者に情報が開示された場合、請求者が、損害賠償請求、刑事告訴、削除請求などの更なる法的措置を講じてくる可能性があります。
特に、損害賠償請求の場合、権利侵害を理由とする慰謝料等に加え、発信者の情報を調査するためにかかった費用の損害賠償が追加されるおそれがあります。
また、明らかに権利侵害が認められるにもかかわらず、「同意しない」と回答してしまった場合には、不合理な対応であるとして、後の損害賠償請求訴訟や刑事裁判において、不利に扱われる可能性があります。
したがって、意見照会書に対しては、安易に「同意しない」という選択をすることは控えましょう。
4. 示談交渉をする場合
示談交渉は早期に行うことが重要
発信者情報開示請求に同意する場合、早期に請求者と示談交渉をすることが非常に重要です。
早期に示談交渉をすることにより、紛争の早期解決が期待できるほか、前述した発信者の情報を調査するためにかかった費用の損害賠償などの追加の法的請求を抑止でき、刑事事件化のリスクや訴訟対応のリスクを予防できる可能性が高まります。
示談金の相場
示談の金額については、名誉権侵害の場合は10万〜100万円程度(法人や有名人の場合は高額になる傾向)、名誉感情侵害の場合は1万〜10万円程度、プライバシー侵害の場合は10万〜50万円程度、肖像権侵害の場合は10万〜50万円程度が相場です。
また、ビットトレント(bittorrent)を利用した場合の著作権侵害の相場は、1作品当たり20万〜50万円程度になります。
もっとも、示談の金額は、投稿の内容やその頻度、侵害された権利、被害者の職業や地位などの諸事情を総合的に考慮した上で決定されるものなので、示談の金額を決めるに当たっては、弁護士に相談することをお勧めします。
また、相手方が法外な金額を請求してくる場合には、弁護士に間に入ってもらうことで、妥当な解決を図れる可能性が高まります。
示談する際は必ず宥恕文言と清算条項を入れる
示談する場合には、必ず宥恕文言(加害者の刑事処罰を求めない旨の条項)と清算条項(示談金以外に債権債務がないことを相互に確認する条項)を定めるようにしましょう。
これらの条項を定めずに示談をしてしまうと、後日、刑事事件化や追加の金銭請求がされる可能性が残ってしまうことになります。
5. 意見照会書に対する対応を弁護士に依頼するメリット
①意見照会書の内容を精査してもらえる
意見照会書に対して、同意するか否かの判断は非常に重要になります。
特に、権利侵害が認められるか否かの判断は、法的知識が必要になりますので、弁護士に判断を仰ぐべきです。
②説得力のある回答書を作成してもらえる
意見照会書に対し、「同意しない」と回答する場合、同意しない理由を説得的に回答できるかが重要になります。
弁護士に依頼することで、説得力のある回答書を作成してもらえるので、情報開示がされない可能性が高まりますし、回答書を作成する手間を省くこともできます。
③示談交渉を一任できる
前述のとおり、発信者情報開示請求に対し、同意すると判断した場合、請求者と早期に示談交渉を開始することで、紛争の早期解決、追加の損害賠償請求や刑事事件化の予防に繋がる可能性が高まります。
弁護士に依頼することで、弁護士に示談交渉を一任でき、上記のような法的リスクを回避できる可能性が高まり、示談交渉の負担をなくすことができます。
6. まとめ
発信者情報開示請求の意見照会書が届いた場合、法的判断が必要となることが多く、対応を誤った場合、大きな法的リスクを負う可能性がありますので、意見照会書が届いたという方は、まずは弁護士に相談することをお勧めします。
当事務所は、インターネット・IT問題にも注力しており、発信者情報開示請求の意見照会書が届いたケースの対応を多く経験しております。
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