交際をしている相手に別れを告げた場合に、「婚約破棄に当たるので慰謝料を請求する」などと言われてしまうことがあります。
しかし、婚約を破棄したとして慰謝料を請求できる場合は限られており、相手の言い分をそのまま鵜吞みにする必要がないことがほとんどです。
そこで、本記事では、婚約破棄の慰謝料について詳しく解説します。
目次
慰謝料とは
「慰謝料」という言葉は、日常生活で耳にされたことがある方も多いかと思います。
また、「傷ついたので慰謝料が請求できるはずだ」などという方も多く、慰謝料=傷ついた場合にもらえる金銭というイメージをお持ちの方が多くいらっしゃるようです。
しかし、これは正確ではありません。
慰謝料とは、「損害賠償」の一種でありますので、民法第709条に「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」と定められているとおり、他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した場合に初めて損害賠償の義務が発生するものです。
また、同じく民法の第710条には、「他人の身体、自由もしくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、第709条の規定により損害賠償の責任を負うものは、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。」と定められています。
この「財産以外の損害」に対する賠償を、一般的に「慰謝料」と呼びます。
つまり、慰謝料とは精神的苦痛に対する損害賠償のことをいいます。
婚約破棄の場合に慰謝料を支払う必要があるか
婚約破棄の場合に慰謝料を支払う必要がある場合とは、①婚約が成立していたこと②婚約破棄に正当な事由がないことの2つの要件を満たしている場合です。
①婚約の成立
相手は婚約破棄に対して慰謝料を請求しているのですから、当然の前提として、「婚約」が成立している必要があります。
そもそも婚約が成立していないのであれば、それを「破棄」したとはいえないためです。
婚約が成立していたと認められるためには、口約束で「将来結婚しようね」と言っていたとか、「結婚を前提に付き合っていた」といった事実だけでは足りません。
例えば、婚約指輪を贈っていた(もらっていた)、式場の予約をしていた、お互いの両親に既に結婚の挨拶をしていた、周囲に婚約したことを報告していたなど、客観的にも婚約関係にあることが明らかである場合に「婚約が成立した」と認められます。
そのため、真剣に交際はしていたけれど、特にまだ具体的に結婚の話が出ていなかった場合には、まず相手に「そもそも婚約が成立しているわけではないので、婚約破棄には当たらず、慰謝料は発生しない」ということを主張することで、慰謝料を支払う必要がないと言い得るでしょう。
②婚約破棄に正当な事由がないこと
「1」で述べたとおり、慰謝料は、「意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した」場合に発生するものです。
つまり、婚約破棄が正当な事由に基づくものであれば、慰謝料の支払い義務を負うことはありません。
例えば、相手から暴力を受けていた、相手が浮気をしたなどといった場合には、正当な事由として認められるでしょう。
以下、正当な事由があると認められ得る場合について解説します。
(ⅰ)相手から暴力を受けていた
暴力は、民法上の不法行為に該当することはもちろん、場合によっては刑事罰を受ける可能性のある行為です。
このような場合に婚約破棄をするのはむしろ当然であり、正当な事由があると認められる可能性が高いでしょう。
ただし、相手からの慰謝料の請求に対し反論できるためには、暴力があったことの証拠が必要です。
今婚約者からの暴力に悩んでいるという方は、怪我をした場合の診断書や傷の写真を保存しておく、暴力を受けた態様を日付や時間と詳細にメモしておくなどして、証拠を保管しておくようにしましょう。
(ⅱ)相手が浮気をしていた
例えば婚約中であるにもかかわらず、相手が他の異性と肉体関係を持った場合には、むしろ相手方の不適当な行為により婚約を解消するものですから、正当な事由があると認められる場合が多いです。
この場合にも(i)と同様、可能な範囲で証拠を保管しておくようにしましょう。
(ⅲ)年収や学歴など、重要な事項について相手が嘘をついていた
特に今後の結婚生活に影響するような重要な事項について嘘をついていた場合、例えば、収入を実際より著しく多く伝えていた場合などには、正当な事由があると認められる場合が多いです。
(ⅳ)性的不能
結婚生活において、子どもを授かるということは、夫婦間にとって重要なライフイベントである場合が多く、性的不能であることを隠していたことが発覚した場合などには、正当な事由があると認められる場合があります。
以上のように、正当な事由があると認められる可能性が高いケースについて解説しましたが、他方で、例えば「やっぱり結婚することが不安になった」というような理由で婚約を解消した場合には、正当な事由がないとされる場合が多いでしょう。
そのほか、以下のような事由についても、正当な事由がないとされる場合が多いと考えられます。
(ⅰ)性格の不一致
性格が合わないということを理由に婚約を解消したいという方は、ご相談を受けていても多くいらっしゃいますが、上で述べたように相手に明確に不合理な点がある場合と異なり、原因が相手にあって婚約を解消しても仕方ないという事情がない限り、正当な事由があると認められることは難しいといえます。
(ⅱ)他に好きな人ができた
こちらについては、相手には責任がなく、こちら側の一方的な都合であるといわざるを得ませんので、やはり正当な事由があると認められることは難しいでしょう。
慰謝料の相場
では、正当な事由がないとして慰謝料を支払わなくてはならない場合、慰謝料の相場はどの程度になるのでしょうか。
婚約破棄の慰謝料については、破棄に至った事由や相手の落ち度などによっても異なるため、一概に決まるものではありませんが、経験上は、50万円から200万円程度のことが多いといえます。
例えば、婚約者が妊娠中に婚約破棄を破棄した場合などは、心理的にも経済的にも、妊娠中の相手に与える影響が大きいという理由から、比較的慰謝料が高額となるケースが多いです。
また、婚約中であるにも関わらず他の異性と肉体関係を持った場合についても、当該肉体関係を持った者の責任は大きいといえますし、婚約を破棄された側に与える精神的苦痛も大きいといえますから、比較的慰謝料が高額となります。
婚約を破棄したとして慰謝料請求をされた場合の対応について
相手から婚約破棄をしたとして慰謝料を請求された場合に、どのように対応したら良いのでしょうか。
まずは、相手と交渉することが必要です。
そもそも婚約破棄をしたとして慰謝料を支払わなくてはならない場合に該当するのかなどを踏まえて、もし自分に慰謝料を支払うべき理由がないという場合には、その旨をしっかり相手に主張することが必要です。
なお、相手と交渉を行う場合には、口頭で行うと後々言った、言わないといった争いになってしまうおそれがありますし、とっさに不用意なことを言ってしまい自分に不利になってしまう、といったことが考えられますから、なるべく書面で行うと良いでしょう。
もし、上で述べたような場合に照らして、自己が慰謝料を支払うことについては仕方ない、というような場合でも、相手の請求している額が適正な額でない場合に、そのまま相手の請求する額を支払う必要はありませんから、減額の交渉をすると良いでしょう。
というのも、通常慰謝料の請求をする場合には、後々相手と交渉して減額した額で合意することも踏まえて、当初の請求額は比較的高額になっている場合も多いからです。
なお、相手から請求がされている場合に、絶対にやってはいけないのは、相手の請求を無視することです。
特に書面で請求が来ている場合「●日以内にご連絡いただけない場合、裁判等の手段を取ります」といった内容となっていることが多いです。
無視してしまうと、相手との任意の交渉で終わらせることができるチャンスを逃してしまうことになりますし、相手の心象としても、真摯に対応する気がないようにとらえられてしまい、円満に和解交渉をすることが難しくなってしまう場合が多いためです。
また、仮に慰謝料を支払うことで相手と合意した場合には、必ず合意の内容を書面に残しておくようにしましょう。
書面がないと、せっかく慰謝料を支払ったにも関わらず、後になって「以前支払われた額は慰謝料のうちの一部である」とか「そもそも慰謝料の支払いではなく、別途貸していた金銭の支払いである」などと言われてしまった場合に、反論することが難しくなるためです。
慰謝料以外の損害の請求について
上記のとおり婚約破棄に正当な理由がない場合には、慰謝料を請求される可能性がありますが、それに加えて、例えば結婚式を既に予約してしまっていた場合のキャンセル料、新居を購入していた場合の費用等の財産的損害を請求される可能性もあります。
婚約破棄について正当な理由がない場合には、こういった損害についても賠償をすることが必要となってしまいます。
ただし、必ずしも相手の主張する額全てを支払う必要があるわけではありません。
例えば、新居の購入については、購入額を支払う代わりに「家」=「不動産」という資産を手に入れることができるわけですから、購入額がそのまま相手の損害となることはありません。
まずは、相手に生じた損害がいくらであるのかを、精査する必要があるでしょう。
まとめ
以上のように、婚約破棄と慰謝料について解説をしましたが、慰謝料の支払いを実際に行わなくてはならないとしても、なるべく自分で交渉することは避けた方が良いと考えます。
なぜなら、「4」で述べたとおり、慰謝料を支払う場合であっても適正額であるのかなどについては慎重に判断が必要であるところ、自己が当事者の場合には冷静な判断が難しいことも多く、また専門的な知識が足りていないと、そもそも適正額が分からず、本来支払う必要のない高額な慰謝料を支払うことになってしまう可能性もあるためです。
また、慰謝料を支払う場合の合意書の作成についても、必ず必要な事項が記載できているかなどは、専門家ではないと分からない場合もあります。
弁護士に交渉を依頼することで、慰謝料を大幅に減額することができる場合も多いため、もし婚約破棄による慰謝料を請求されていてお悩みの方は、ぜひ一度お気軽にご相談ください。