「夫が子どもに暴力をふるうので離婚したいです」大変残念ではありますが、離婚のご相談を受けていると、こういったご相談を受けることがあります。
お子さんへの暴力や虐待については、緊急性の高い対応が必要となることもあるでしょう。
本記事では、配偶者が子どもへ虐待をしている場合に、離婚に向けて対応すべきことを解説します。
目次
虐待について
昨今は、児童相談所への虐待相談が急速に増加していることもあり、「虐待」のニュースを目にすることもあるかと思いますが、「児童虐待」については、法律でも正式に定義されている言葉であり、また、暴力をふるうだけが虐待に当たる訳ではありません。
児童虐待の防止等に関する法律では、2条において、児童虐待を以下のとおり定めています。
第二条 この法律において、「児童虐待」とは、保護者(親権を行う者、未成年後見人その他の者で、児童を現に監護するものをいう。以下同じ。)がその監護する児童(十八歳に満たない者をいう。以下同じ。)について行う次に掲げる行為をいう。
- 児童の身体に外傷が生じ、又は生じるおそれのある暴行を加えること。
- 児童にわいせつな行為をすること又は児童をしてわいせつな行為をさせること。
- 児童の心身の正常な発達を妨げるような著しい減食又は長時間の放置、保護者以外の同居人による前二号又は次号に掲げる行為と同様の行為の放置その他の保護者としての監護を著しく怠ること。
- 児童に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応、児童が同居する家庭における配偶者に対する暴力(配偶者(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。)の身体に対する不法な攻撃であって生命又は身体に危害を及ぼすもの及びこれに準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動をいう。)その他の児童に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと。
このように、児童虐待は、大きく4つの類型に分けられています。
まず、身体的虐待です。
子どもを殴る、蹴るなど、子どもに対して暴行を加えることが身体的虐待に当たります(児童虐待防止法第2条第1号)。
次に、性的虐待です。
子どもへ性行為をしたり、性行為を見せたりすることが性的虐待に当たります(児童虐待防止法第2条第2号)。
性的虐待については、加害者による口止めが巧妙にされていることや、子ども自身が言い出しづらい行為であるなどの事情から、周囲が被害に気付きづらい特徴があるとされています。
また、いわゆる「ネグレクト」といわれる、子どもに食事を与えなかったり、病気の子に適切な診察を受けさせないなどの「育児放棄」も虐待に当たります(同法第2条第3号)。
さらに、子どもに暴言を吐いたり、兄弟間で不当な差別的対応を取る、子どもの前で他の家族に暴力をふるうなどの行為は、「心理的虐待」に当たります(同法第2条第4号)。
心理的虐待については、身体的虐待と異なり、子どもの身体に直接傷跡などが残らないことから、周囲が虐待に気付きづらい特徴があるといわれています。
このように、虐待には暴力をふるう以外にも様々な類型があります。
児童虐待の相談先
児童虐待が疑われる場合には、児童相談所に相談することができます。
電話での相談も受付けられていますので、少しでも様子がおかしい、お子さんが暴力を受けているなどの悩みがある場合には、迷わず相談してみるといいでしょう。
また、各市区町村には、子育てに関する相談を受け付けている窓口がありますので、そういった窓口に相談してみることでも良いでしょう。
配偶者が子どもを虐待していることを理由にした離婚について
一般的に離婚をする方法として考えられる手段は、
①相手との合意による離婚届の提出
②調停による離婚
③裁判による離婚
があります。
まず、相手との合意があれば、お互いに離婚届に署名をした上で、夫婦の本籍地又は夫婦の所在地の役所の窓口に提出すれば離婚が可能となります。
しかし、配偶者が子どもを虐待している場合には、離婚をしたいと申し出ても相手が虐待の事実を認めて素直に離婚に応じることは考えづらいでしょう。
また、相手が逆上し、暴力などの矛先がご自身に向いてしまうこともありえるので、少しでも身の危険を感じるようであれば、ご自身が直接離婚を切り出すのは避けた方が良いでしょう。
相手が離婚に応じない場合には、調停や裁判の手続を進めることとなりますが、手続には一定程度の時間がかかります。
そして、その間、離婚をしたくない相手が、逆上するなどして、さらにお子さんやあなたに暴力をふるったり、暴言を吐いたりすることもありえるでしょう。
離婚手続を円滑に進めるためにも、まずはお子さん、そして、あなた自身の身の安全を確保することが一番ですから、可能な場合には別居するなどして、相手と距離を置くことをお勧めします。
また、それでも身の危険を感じるようなことがあれば、接近禁止命令といって、お子さんやあなたへ接触することを禁止する旨の保護命令を出してもらうことを検討しましょう。
保護命令を出してもらうためには、裁判所への申立をする必要があります。保護命令申立ての詳細は、こちらのコラムで解説していますので、ご参照ください。
申立書の書式や手続の方法は、各裁判所のホームページでも閲覧することができますが、緊急性が高い場合などには、ご自身で手続をすることが難しいこともあるかと思いますので、そういった場合は、専門家である弁護士へご相談いただくことをお勧めします。
また、緊急性が高い場合には、民間のシェルターを利用して一時的に避難することも可能となります。
シェルターへの入居には、公的機関からの紹介があるとスムーズです。
警察へ相談すると、各地のシェルターを紹介してくれます。
身の安全を確保することができたら、具体的に離婚へ向けて手続を進めていくこととなります。
相手が離婚に合意しない場合には、まず離婚調停といって、調停手続の中で離婚を求めていくこととなります。
離婚調停とは、家庭裁判所で行う手続であり、1名の裁判官(又は調停官)と2名の調停委員を交えて、話し合いにより解決をすることを目的とする手続です。
あくまで話し合いによるものなので、相手と合意できなければ調停は成立せず、調停が終了します。
これを「不調」といいます。
離婚調停が不成立となった場合には、離婚裁判を提起する必要があります。
調停とは異なり、裁判は、裁判官が判決で離婚が認められるか否かを判断する手続となります。
例えば夫婦の一方が離婚をしたくないと考えている場合でも、裁判所がその判断で離婚を認めるという点で、とても強力な手続となります。
そのため、現在日本では「調停前置主義」という制度が採用されており、離婚裁判をするためには、必ずまず先に離婚調停を提起することが必要です。
そこで、まずは離婚調停という手続で、相手と離婚することを合意し、条件(慰謝料や財産分与、親権など)を決めていく必要があります。
離婚調停は、家庭裁判所に申立書を提出して行います。
申立書提出後は、相手方にその申立書が裁判所から送付され、調停期日という裁判所で開かれる期日にて、調停委員が双方の主張を交互に聞く形で進められます。
そして、虐待を理由に離婚をする場合に、この離婚調停や、その先の裁判で重要となるのが、「虐待の証拠があるか」という点です。
経験上、相手が離婚に応じないという姿勢をとっている場合には特に、そうでなくても、虐待をしていた人が虐待をしたという事実を認めることはほとんどありません。
そこで、調停委員や裁判官に虐待の事実を分かってもらうために必要となるのが、証拠です。
例えば、病院にかかった場合の診断書や、怪我をした際の写真が重要な証拠となります。
また、配偶者の行動や発言を詳細に記載したメモ(日付や日時もあると良いです)、配偶者の暴言や暴力の際の音声を録音したデータなども有力な証拠となります。
また、既に児童相談所などに相談をしている場合には、その相談履歴も証拠として有用です。
調停で離婚が成立せず、裁判となる場合には、裁判官は、法で定められた離婚事由があるかを判断することになります。
法で定められた離婚事由としては、不貞行為(いわゆる「不倫」)が代表的なものですが、そのうちの一つに「婚姻を継続し難い重大な事由がある」というものがあります。
配偶者による子どもへの暴力は、この「婚姻を継続し難い重大な事由」(民法第770条1項5号)に該当しますが、裁判官が、「たしかに虐待があるので婚姻を継続しがたいであろう」と判断するためには、証拠は必ず必要となります。
ただし、あくまでご自身の身の安全を確保することがまずは第一です。
明確な虐待の証拠がないという場合でも、お話を詳しくお伺いすることで、こういったものが証拠になりえる、というアドバイスをできる場合もありますので、そのような場合にも、一度ご相談をいただければと思います。
子どもへの虐待により離婚をする場合の慰謝料について
子どもへの虐待があったことを理由に離婚する場合には、相手に対して慰謝料を請求できる可能性があります。
この慰謝料についても、調停や裁判の中で、相手に支払いを求めていくこととなります。
慰謝料の金額は概ね数十万程度となることが多いですが、悪質性や常習性などによって金額は増減します。
面会交流について
無事に相手と離婚をすることができるとして、もう一つご相談者様が気にされるポイントとして、離婚後に配偶者と子どもを面会させなければならないのか、という点です。
子どもを虐待していたような配偶者と子どもを会わせるのは、当然のことながら、ご心配でしょう。
たしかに、離婚をしたとしても、子どもと元配偶者との親子関係がなくなるわけではありません。
そこで、子どもと離れて暮らす親については、面会交流といって、子どもと会う、手紙や電話などで交流するなどして交流することが認められるのが原則です。
しかし、面会交流は、あくまで、子の福祉(子どもの健やかな成長)のために認められるものですから、面会交流をすることが子の福祉の観点で望ましくないと認められる場合には、面会交流を実施しないことができます。
相手が調停や裁判の場において面会交流を求めてきた場合には、相手による虐待の事実があり、面会交流の実施に具体的な危険性があることなどを主張していくと良いでしょう。
まとめ
配偶者が子どもに暴力をふるっている場合には、あなた自身も身の危険を感じていたり、周囲に相談をできる人がいないなど、とてもお辛い立場にあることは想像に難くありません。
当事務所では、経験豊富な弁護士が、ご相談者様の状況に応じて、離婚手続などのアドバイスだけではなく、今後の生活のためのより良い方法をご相談者様といっしょに考えながらご相談に乗ることができます。
また、迅速な対応を心がけていますので、現在身の危険を感じているなど、緊急性が高い場合には、即日の対応も可能となっています。
現在お悩みの方は、ぜひ一度、お気軽にご相談ください。