離婚の際に養育費を支払う取り決めをしたのにその後支払いがされない、又は、養育費の取り決めをすることなく離婚してしまったというご相談をよくいただくことがあります。
子どもの健全な育成にあたり、養育費の支払いを受けることはとても重要です。
以下では、ケース別に養育費の支払いを受けるために必要な事項について解説します。
養育費とは
養育費とは、子どもの監護・養育のために必要な費用のことをいいます。
子どもが経済的・社会的に自立することができる時期までに必要な費用であり、衣食住などの生活費はもちろん、教育費や医療費も養育費に含まれます。
夫婦が離婚をしたとしても、夫婦間の子について、親であることには変わりない両親は、両者とも、子どもの養育にかかる費用を負担する義務があります。
そのため、子どもを監護している親(厳密には親権を持っている親とは別であり、実際に子どもと生活を共にし、養育している親をいいます)は、他方の親から養育費を受け取ることができる権利を有します。
養育費の額について
養育費の額は、両親の収入や子どもの人数、年齢等を考慮して決定します。
具体的には、子どもの監護養育に要する費用をそれぞれの収入に基づいて按分して決定します。
養育費の額について、詳しくは、こちらの記事で解説していますので、ご覧ください。
離婚の際に養育費について合意している場合
(1)合意が書面に残っている場合
離婚の際に離婚協議書といって、離婚の条件(財産分与の額や慰謝料の額など)を記載した文書を作成することがあります。
こちらの離婚協議書に「子の養育費として月額●円を支払う」といった記載がされている場合には、まずはその書面に基づいて内容証明郵便にて支払いをすることを求めることが考えられます。
(2)~(4)で述べるような手続より費用や期間が少なくすむことから、手軽な方法であるといえます。
内容証明郵便とは、郵便局が、いつだれがどのような内容を誰宛に送ったかを証明してくれる郵便です。
相手に対して正式な請求であるということを示すことができる意味でも、単なる書面での通知よりも有効な方法といえるでしょう。
ただし、既に取り決めをしたにもかかわらず支払いが滞っているという点で、相手が書面を受け取るのみで任意に支払われるということは、残念ながらあまり期待できません。
相手にプレッシャーを与える意味でも、弁護士名での内容証明郵便を送付することをお勧めします。
(2)裁判手続について
(1)の方法で書面を送る場合には、一般的には「書面受領後●週間以内にお支払いください」というような形で相手に支払いを求めます。
かかる期間が経過しても、一向に支払われない場合には、次なる手段を考えなくてはなりません。
そこで考えられるのが、訴訟提起です。
養育費を支払う旨の合意が書面に残っている場合には、「合意のとおり養育費を支払え」という形で訴訟を提起するのが良いでしょう。
訴訟提起し、相手に合意通りの養育費を支払えという判決を得ることができた場合には、(3)で述べるような強制執行手続をすることで、差押といって、相手の給与等から直接支払わせる手続をすることができます。
また、養育費を支払う旨の合意が書面に残っている場合には、相手としても、訴訟において合意通りに支払わないという旨の主張は難しいことから、こちらに有利な判決を得られる可能性は高いといえるでしょう。
(3)強制執行手続について
強制執行とは、債務を有している人の財産を差押さえ、債権を回収するための裁判所による手続です。
差押とは、簡単にいえば、財産の利用や売却などの処分を禁止することをいいます。
差押さえる対象の財産は、相手が有している不動産や預金、相手が会社員の場合の給与等様々考えられます。
ただし、例えば預金であれば、どこの銀行に口座を有しているかを把握する必要がありますし、給与であれば勤めている会社が分からなければなりません。
ところが、元夫や元妻などの場合、現在は生活を共にしていないことから、相手がどのような財産を有しているか把握しづらい、離婚後に転職して勤め先が分からないということがあります。
このような場合に相手の財産を把握するための手段として、「財産開示手続」という制度があります。
名称からも分かるように、どのような財産を有しているかを開示させるための手続です。
近年、養育費の不払が社会問題ともなる中で、財産開示手続をより利用しやすくするという観点から、元々は債務者(=養育費の支払い義務がある相手方)本人へ開示を請求することしかできなかった点が改正され、第三者(たとえば市区町村や銀行等)への開示請求もできることとなりました。
このような制度を利用して、相手の財産を把握し、相手の財産から支払われるべき育費を回収することができます。
なお、強制執行の大まかな流れ(代表的な給与等の債権を差し押さえる場合)は以下のとおりです。
①財産の把握・対象財産の確定
財産開示手続等も利用しながら、相手が有している財産を把握し、どの財産を対象に強制執行を行うかを決定します。
②債務名義正本の用意
強制執行を行うためには、相手に対して、確かにこちらが養育費を支払ってもらう権利があることを示す書類が必要となります。
(2)で述べた訴訟により判決を得た場合には、判決書により、確かに相手が養育費を支払う義務があることを示すことができます。これを「債務名義正本」といいます。
なお、判決書のみでは強制執行はできず、まず執行文付与申請といって、債務名義に強制執行の効力を持たせるための申請をする必要があります。
③執行の申立
②で述べた執行力のある債務名義が用意できたら、申立てに移ります。
申立には、債務名義のほかに、当事者の住所氏名を記載した目録や、差押の対象財産を記載した目録等の書類が必要です。
必要書類がそろったら、申立手数料(4000円)や、書類を相手方などに送るための郵便切手(約3000~5000円)とともに裁判所に提出します。
④差押命令
差押の申立を受けた裁判所は、必要書類の確認や、差押えの理由があるかを確認し、理由があると認めるときは、「差押命令」を発します。
この差押命令が送達(簡単にいえば、命令の内容を記載した書類を送付すること)されると、差押の効果が生じます。
給与を差押える場合には、相手が勤めている会社に差押命令が送達されます。
この命令を受領した会社は、相手に直接給与を支払うことができなくなり、申立人は差押えた分の給与を直接支払うよう請求することができるようになります。
ただし、多くの人の場合、給与で生活費を賄っていることがほとんどであり、債務者自身の生活も保障する必要があるという観点から、給与の差押については、差押えできる額の上限が決められています。
この限度額は、原則として、手取り額の4分の1となりますが、養育費の支払いを請求している場合は2分の1となり、通常の場合と比べて限度額が高くなっています。
(4)公正証書について
ここまで強制執行について説明しましたが、(3)で述べたとおり、強制執行には「債務名義」が必要です。
そして、契約書など単なる相手との合意文書は、「債務名義」には当たりませんので、(2)で述べるような裁判手続を実施して、債務名義を取得する必要がでてしまいます。
そのため、もし離婚時に相手との養育費の合意がある場合には、公正証書を作成することをお勧めします。
公正証書とは、公証役場という場所で作成することができ、公文書として認められているものです。債務名義として利用することができる文書で、裁判手続を得ることなく、強制執行の手続をすることができます。
ただし、公正証書に「債務の履行を地帯したときは直ちに強制執行に服する」という「強制執行認諾文言」がない場合には、公正証書を債務名義として強制執行手続を行うことはできませんので、注意が必要です。
離婚の際に養育費に関する合意がない場合
「とにかく早く離婚をしたい」などの理由から、離婚時に養育費の取り決めをせずに離婚してしまった人も多いでしょう。
そのような場合でも、養育費を受け取ることは不可能ではありません。
以下のとおり、考えられる対応方法をご紹介します。
(1)協議
まずは、相手に支払いを申し入れるということが考えられます。
離婚の際はお互い感情的になってしまっていた部分があったとしても、少し経ったことにより改めて協議することで、冷静に協議ができ、支払いに応じてくれるということもあるからです。
(2)調停を申し立てる
協議や内容証明でも全く相手が応じてくれない場合には、調停を申し立てることを検討しましょう。
調停とは、家庭裁判所において行われる手続で、裁判官1名(又は調停官1名)と調停委員2名を交えて、相手方と話し合いにて合意することを目指す手続です。
裁判官は、調停で合意をする際など、手続上重要な局面で手続に関与しますので、調停の手続は、基本的には調停委員2名と進めていくことになります。
こちら側の主張と相手側の主張を交互に聞いていく方法にて進行します。
あくまで話し合いにて合意を目指す手付きのため、お互いの合意なく、強制的に裁判所や調停委員が結論を出すということはありません。
また、調停はおおよそ1月に1回のペースで行われます。
相手との間で養育費の支払額や支払方法の合意ができれば調停が「成立」したとして終了します。
成立までにかかる時間は、早くて半年程度であることが多いです。
養育費の額を調停にて決める場合、調停委員からは、算定表に基づいた額で合意するように意見がされる場合が多いです。
算定表とは、双方の収入や子どもの年齢、子どもの人数から、適切な養育費を算出するために用いられる表です。
算定表ができる前は、双方の収入の金額や、必要な支出等を事案ごとに算出して養育費の額が決められていたのですが、算定までに相当な時間がかかることから簡易迅速に計算するために裁判官により作成されたのが、算定表です。
裁判官により作成されたものであることから、例外的な事情がある場合を除き、調停や(3)で述べる審判等で算定表から大きく離れた額が裁判官や調停委員から提案されることは、ほとんどありません。
なお、家庭裁判所のホームページで閲覧ができるので、おおよその額を知りたい方は、一度確認してみてください。
(3)審判について
調停でも相手との合意に至らず、調停が不成立となった場合には、自動的に「審判」という手続が開始されます。
審判においては、双方の収入等の資料を基に、裁判官が養育費の額を決めます。
なお、調停を得ずに審判を申し立てることも可能ですが、その場合、裁判所の判断で調停に付されることが多いことから、実務上は、調停を先に申し立てることがほとんどです。
審判は、「Aは、子が18歳に達するまで、子の監護養育の費用として月額●円を支払え」という形でされ、相手には、それに従い養育費の支払い義務が生じることとなります。
まとめ
この記事では、元配偶者が養育費を支払ってくれない場合の対処方法について解説しました。
強制執行手続や調停の申立ては、弁護士に依頼しなくても進めることはできます。
ただし、書類の記載方法が独特であったり、相手にのみ弁護士がついていると、調停を有利に運べなかったりするなど、ご自身のみで対応することが難しい場面も多いでしょう。
当事務所では、養育費の請求について経験豊富な弁護士が、当初から親身にサポートすることが可能ですので、悩まれている方は、ぜひ一度ご相談ください。