配偶者からモラハラを受けているので離婚したい、というご相談をよく受けることがあります。
モラハラ、と一言でいってもいろいろな態様があり、離婚するための方法も様々考えられます。
そこで、本記事では、スムーズに離婚するために取り得る方法をご紹介します。
目次
モラハラとは
モラハラとはモラルハラスメントの略で、言葉や態度で相手に精神的なダメージを与えることをいいます。
その態様は様々考えられますが、夫婦間では、おおむね以下のようなことが考えられます。
- 家事ができないなどの暴言を吐く/相手を見下すような言葉を投げかける
- 生活費を少ししか渡さない
- 執拗に行動を管理する
- 相手を威圧するような態度を取る
このように、いろいろな態様が考えられます。
まず、身の危険を感じるような場合には、相手との距離を置き、自分の身の安全を確保することを考えましょう。
モラハラを理由として離婚するためには?
離婚は、お互いに話し合い離婚をするか(これを協議離婚といいます)、離婚調停を申し立て、調停委員の仲介の元相手方と話し合った上で離婚をするか(これを調停離婚といいます)、裁判を起こして裁判官の判断により離婚するか(これを裁判離婚といいます)のいずれかの方法にてすることとなります。
相手と協議の上で離婚をする協議離婚においては、裁判や調停等の手続が不要となることから、一般的には、調停離婚や裁判離婚と比べてかかる費用が低額であったり、短期間で離婚が可能となります。
しかし、モラハラをするような相手の場合には、ご自身で交渉をすることが難しいことが多いでしょうし、相手が誠実に交渉に応じてくれないことが想定されます。
そのため、まずは協議離婚を目指すとしても、交渉については、第三者、できれば専門的な知見を有している弁護士を通じて交渉することをお勧めします。
相手が交渉に応じてくれない場合には、離婚調停を申し立てることとなります。
日本では現在、「調停前置主義」という制度が採用されており、離婚裁判を提起するためには、必ずまず先に離婚調停を提起する必要があります。
離婚調停が成立し、離婚に合意ができれば、裁判を提起する必要はありませんので、離婚裁判は、調停でも相手方との合意ができなかった場合に提起することとなります。
なお、離婚調停とは、家庭裁判所で行う手続です。
1名の裁判官と2名の調停委員を交えて、当事者の話し合いにより問題を解決をするための手続ですが、実際には、調停委員2名が調停を申し立てた側(「申立人」といいます)と申し立てられた側(「相手方」といいます)の主張を交互に聞きながら、お互いが合意できる解決方法を探していく形で進められ、裁判官は調停のポイントとなるような合意をする場合などに適宜出席することとなります。
私の経験上、モラハラをするような相手方の場合、自分は何も悪くない、自分が離婚を求められているという現実がなかなか受け入れられないなど、任意の交渉ではなかなか交渉が進まない場合が多いですが、離婚調停にて第三者的立場である調停委員を交えて協議をすることで、相手も冷静になり、交渉が進むこともよくあります。
しかし、離婚調停においては、離婚の条件(例えばお子さんがいる場合に、養育費をいくら支払うのか、お子さんとの面会はどのように行うのか、慰謝料の支払いはあるのか、支払いがあるとしていくらくらいか、住んでいる家はどちらが住み続けるのかなど)についても決めることとなりますから、それらの条件について合意ができない、といったことも多々あります。
離婚調停において合意ができない場合には、裁判を提起して、裁判官に判決という形で離婚を認めてもらう必要があります(なお、離婚裁判の途中で和解という形でお互いが合意することもあります。このような場合には、裁判官が判決を下すのではなく、お互いが合意した離婚条件について、裁判所が書面(「調書」といいます)に記して手続が終了することとなります。)
そして、離婚裁判においては、どのような事由でも離婚を認めてもらえるわけではありません。
仮に一方が離婚をする意思がない場合でも、裁判所の判断により夫婦を離婚させるという、ある種強力な手続でありますから、法が認めた離婚事由に該当する場合にのみ離婚が認められるということとなります。
法律が認める離婚事由とは、以下のとおりです(民法第770条)。
第七百七十条 夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
一 配偶者に不貞な行為があったとき。
・・・いわゆる配偶者が「不倫」をしたときのことです。
法的には、不貞な行為があったと認められるためには、他の異性と性交渉があったことが必要となります。
二 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
・・・正当な理由がなく夫婦間の義務に反することをいいます。
夫婦間においては、夫婦間同居義務、扶養義務など、共同して生活を営む義務があります。
これに反して、連絡なしに家を出て帰らないなどした場合には、悪意の遺棄に当たることとなります。
三 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。
・・・言葉どおり、配偶者の生死が3年間明らかでない場合には、裁判により離婚が可能となります。
なお、この場合には、例外的に調停を経て裁判をする必要がないとされています。
そもそも生死が不明であるので、相手が調停手続に参加する見込みがないといえるためです。
四 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
・・・うつ病や統合失調症などの精神病にかかり、かつ、回復の見込みがない場合に認められる離婚事由です。
「回復の見込みがない」ことが必要ですから、単に診断されたのみでは離婚が認められないこととなります。
また、配偶者がうつ病にかかったからといって、すぐに離婚を言い出すような場合には、逆に「悪意の遺棄」に該当するとされてしまう場合がありますので、注意が必要です。
病気にかかってしまった配偶者からすれば、その後の生活に大きな影響を与えることとなりますから、裁判所が本号の離婚事由を認めるには相当高いハードルがあるといえます。
五 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。
・・・上記に上げた事由がない場合であっても、夫婦関係が破綻していて、修復の見込みがない場合にまで婚姻関係を継続する必要はないといえますから、婚姻生活を継続することが難しいといえるほどの事由がある場合には、離婚が認められます。
夫からの暴言等に加えて暴力がある場合などは別ですが、モラハラの場合には、基本的には、1号から4号に挙げた事由には該当しないことが多いため、本号の離婚事由を主張していくこととなります。
モラハラを受けている場合にスムーズに離婚するためには?
では、モラハラを受けている場合に、スムーズに離婚するためには、どのような準備が必要でしょうか。
以下にて解説します。
① モラハラの証拠を集める
交渉をして離婚をするにしても、裁判にて離婚をするにしても、やはりこちらの主張を裏付ける証拠というものは、必ず必要となります。
特に、裁判にて離婚するためには、上で述べた通り、裁判官に主張を認めてもらう必要がありますので、より証拠の重要性が高まります。
モラハラについては、暴言があったり、態度で威圧するなど、客観的な証拠が残りにくいことが多いです。
そのため、相手の言動や態度については、逐一日記などにまとめて、いつどのようなことがあったのかを後から主張できるようにしましょう。
できるだけ詳細に、かつ時系列にまとめておくことにより、後に証言などが必要となった場合の自身の記憶の喚起にも役立ちます。
また、可能であれば相手方の言動の録音もしておくようにしましょう。
ただし、録音していることが相手方にばれてしまった場合、さらに相手から追いつめられるような態度を取られたり、暴力に発展してしまうなどのことも想定されますから、注意が必要です。
さらに、第三者に相談することも証拠集めの一つの手段として有効です。
この時の第三者は、身内ではなく、客観的な立場の第三者だとより良いです。
②別居する
モラハラに耐えられない場合などは、とりあえず別居をする、ということも離婚の成立に向けては有効です。
仮に裁判になった場合には、別居期間が長期であればあるほど、夫婦関係が破綻しているとして、婚姻関係を継続しがたい重大な事由があるということが認められやすくなります。
逆に、同居を続けている場合には、特段の事情がない限り夫婦関係が破綻しているということが認められず、相手が離婚をすることに合意しない場合には、長期間離婚ができなくなってしまう可能性が高まります。
また、別居をすることで、相手方にとっては、離婚を本気でしたいという意思を示すことにもつながります。
私が対応した案件でも、実際に、交渉段階では「離婚する気はない」と主張し続けていた相手方が、別居をすることにより、本当に夫婦を続けていく気がないということを悟り、協議離婚に至ったというケースがありました。
金銭的な不安があるという方もいらっしゃるかもしれませんが、配偶者の収入がご自身の収入より高い場合には、婚姻費用といって、夫婦の生活費の分担義務に基づき、一定の費用を支払ってもらえることがあります。
夫婦においては婚姻に必要な費用を分担する義務があるため、お互いの収入でその費用、つまり生活費を按分することとなります。
そのため、相手方の収入が自分の収入より高い場合には、毎月一定額を支払ってもらうことができます。
また、この婚姻費用は、別居していている場合でも離婚しない限り支払いの義務があるものですから、別居中の生活費が不安という場合であっても、かかる費用を請求することで、離婚に向けての準備を整えることができます。
なお、家庭裁判所のホームページにおいて、婚姻費用の大まかな額が分かる表(婚姻費用の算定表というものです)が公開されていますので、大まかな額を知りたい方は、ホームページを見てみると良いでしょう。
まとめ
配偶者がモラハラをしている場合でも、モラハラをしている側は、その自覚がないことが多いです。
そのため、離婚を切り出しても、冗談ではないかとか、夫婦仲はうまくいっているのに離婚する必要がないのでは、というような反応をすることが多々あります。
こういった場合には、ご自身のみで交渉されてもなかなかうまくいかないことが多いです。
弁護士を通じて交渉することにより、本気で離婚をするのだという姿勢を示すことができますし、モラハラをしているような相手との交渉は、精神的にも追い込まれてしまうことが多いでしょう。
当事務所の弁護士は、離婚事件の経験が豊富であり、モラハラをしているような相手との交渉をしたことも多数ありますので、相手方の特性に合わせた最適な解決策を、ご相談者様と一緒に考えることができます。
現在悩まれているかたは、ぜひ一度、お気軽にご相談ください。