「遺産分割協議をしたいけど、相続人の一人と連絡が取れない」
このような場合でも、遺産分割協議は相続人全員で行う必要があるため、連絡が取れる相続人のみで遺産分割協議を行うことはできません。
相続人の行方が不明で連絡を取れない場合には、不在者財産管理人を選任することで、代わりに遺産分割協議に参加してもらうことができます。
そこで、本記事では、不在者財産管理人の選任方法や選任後の流れについて解説します。
目次
1. 不在者財産管理人とは
不在者財産管理人とは、従来の住所又は居所を去り、容易に戻る見込みのない人の財産を管理するために、利害関係人又は検察官の申し出により家庭裁判所が選任する人のことをいいます。
つまり、行方が分からない人の財産を管理する人です。
なお、単に連絡が取れないだけで住所が分かっている場合には、「不在者」とはいえず、不在者財産管理人の選任はできませんので注意が必要です。
2. 不在者財産管理人の選任が必要なケース
以下のような場合には、不在者財産管理人の選任をするとよいでしょう。
①相続人の中に行方不明の人がいる場合
前述のとおり、行方不明者がいる場合、相続人全員で行うことが必要な遺産分割協議ができず、いつまでも遺産をどう分けるかの協議ができません。
そこで、相続人の中に行方不明者がいる場合には、不在者財産管理人の選任をするとよいでしょう。
②行方不明者と共同で所有している不動産があるケース
例えば、亡くなった方(被相続人)の不動産が、行方不明者と共有となっている場合があります(兄弟で不動産を共有している場合など)。
共有者が相続人でなければ、遺産分割協議自体は可能です。
ただし、相続後に不動産を売却したい場合には、共有者の許可が必要となり、行方不明者との共有不動産を売却することができないので、不在者財産管理人の選任を検討するとよいでしょう。
③不在者に相続放棄をしてほしい場合
行方不明者に相続放棄(亡くなった方の財産や負債のすべての引継ぎを拒否すること)をしてほしい場合にも、不在者財産管理人の選任を申し立てるとよいでしょう。
相続放棄は、相続の開始があったことを知ってから3か月以内に行う必要があります。
あくまでも、相続の開始を知ってから3か月以内のため、行方不明者が相続の開始を知らない限り、相続放棄が可能となり、相続に関する権利関係がいつまでも確定しなくなってしまいます。
このような場合に不在者財産管理人を選任し、相続放棄してもらうことで、権利関係の確定が速やかに行えるでしょう。
ただし、不在者財産管理人が相続放棄をできるのは、不在者の利益になる場合(債務の方が多い場合等)のみに限られますので、注意が必要です。
3. 不在者財産管理人ができること
不在者の財産の管理
不在者財産管理人に与えられた権限の一つが、不在者の財産を管理することです。
具体的には、財産を保存行為と、管理行為であるとされています(民法第103条)。
例えば、所有している不動産の修繕は管理行為に該当するため、不在者財産管理人が行います。
他方で、不動産の売却については、保存行為や管理行為にしないため、原則として行うことができません。
これは遺産分割協議についても、同様で、遺産分割協議も、保存行為・管理行為のいずれにも該当しません。
そこで、不動産の売却や遺産分割協議が必要な場合には、不在者財産管理人は、家庭裁判所から、「権限外行為許可」という特別の許可を得て行う必要があるので注意が必要です。
不在者の財産目録を作成する
不在者財産管理人は、不在者の財産目録を作成する義務を負います(民法第27条1項)。
不在者財産管理人は、選任されたら、不在者の財産を調査し、財産一覧を目録に記載します。
また、不在者財産管理人は、年に1回、家庭裁判所に財産管理の状況を報告することが求められています。
遺産分割協議
前述のとおり、不在者財産管理人が遺産分割協議に参加するには、家庭裁判所から特別の許可を得ることが必要です。
この許可は、不在者財産管理人自身が許可を受けたい行為の内容を記載した申立書を家庭裁判所に提出して行います。
遺産分割協議の場合には、相続人間における遺産の分割内容を示して許可を得ることになります。
遺産分割協議については、こちらのコラムで詳しく解説していますので、ご参照ください。
なお、不在者財産管理人の不利益になる方法(法定相続分を下回る相続分とする遺産分割協議の内容)の場合には、許可が得られない可能性が高いので注意が必要です。
4. 不在者財産管理人の選任方法
申立て方法
不在者財産管理人の選任は、判明している最後の住所地を管轄する家庭裁判所に、申立書や以下の必要書類を提出することにより申立てができます。
- 申立書
- 不在者の戸籍謄本(全部事項証明書)
- 不在者の戸籍附票
- 財産管理人候補者の住民票又は戸籍附票
- 不在の事実を証する資料
- 不在者の財産に関する資料(不動産登記事項証明書、預貯金及び有価証券の残高が分かる書類(通帳写し、残高証明書等)等)
- 利害関係人からの申立ての場合:利害関係を証する資料(戸籍謄本(全部事項証明書)、賃貸借契約書写し、金銭消費貸借契約書写し等)
- 収入印紙800円分
- 連絡用の郵便切手(郵券):管轄の裁判所に事前に種類や額を確認しましょう
申立書の書式は、家庭裁判所のホームページで確認することができます。
申立てができる人
不在者財産管理人の選任ができるのは、以下の人に限られています。
- 利害関係人
- 検察官
不在者の配偶者や相続人にあたる人、不在者の債権者(不在者にお金を貸している人等)は、利害関係人に該当します。
不在者財産管理人になれる人
不在者管理人は、不在者の財産を適切に管理できる人でなくてはなりません。
そこで、不在者と利害関係が対立してしまうような、債権者などの利害関係人は不在者財産管理人になることはできません。
利害関係人でなければ、資格がなくても不在者財産管理人になることは可能ですが、通常は弁護士や司法書士などがなることが多いです。
前述したとおり、不在者財産管理人の選任の際に、候補者を推薦することはできますが、最終的に誰が不在者財産管理人になるかを決めるのは裁判所のため、必ず候補者が選任されるわけではないことには注意が必要です。
5. 不在者財産管理人の報酬
不在者財産管理人が弁護士や司法書士などの専門家である場合、不在者財産管理人に報酬を支払う必要があります。
報酬の額は、不在者の財産の内容や管理の手間等を考慮して、家庭裁判所が決定しますが、概ね月に1~5万円程度であることが多いです。
この報酬は、不在者の財産から支払われますが、不在者の財産がない又は少ない場合には、申立人が予納金として支払う必要があります。
この場合には、裁判所からの指示に従い20~100万円程度の予納金を支払います。
納めた予納金は、不在者の財産管理が終わった際に残額があれば返還されます。
6. まとめ
不在者財産管理人の選任の申立ての際には、多くの資料が必要となったり、不在の事実を証拠に基づいてしっかりと説明する必要があります。
不在者財産管理人の選任の申立てから実際に選任がされるまでは、早くとも半年程度かかるため、選任までに時間がかかってしまうと、いつまでも不在者の財産が放置されたままとなり、適切な管理ができない、いつまでも遺産分割協議ができないなどの不都合が生じてしまいます。
当事務所では、相続に関するご相談を数多くお受けしておりますので、お困りの方は、一度お気軽にご相談ください。
