「不貞相手の配偶者から不倫の事実を指摘され、その場で誓約書を書いてしまったが、後から考えると内容に異なるところがある」「高額な慰謝料を支払う誓約書にサインしてしまった」
このように、誓約書を記載してしまった後でご相談を頂くことは多いです。
そこで、本記事では、誓約書や示談書を無効にできるケースについて解説します。
目次
1. 誓約書・示談書とは
誓約書とは、当事者の一方が相手に対して事実を確認したり、何らかの約束をする際に作成される書面です。
一方が相手に対して交付することが多く、署名も一方のみが記載します。
例えば「甲は乙に対し、不貞行為の慰謝料として金○○円を支払う」などということが記載されます。
示談書は、当事者間でお互いに合意した内容を記載する書面です。
当事者双方が署名をするため、慰謝料の支払以外に和解の条件(お互いに今後接触しない、不貞の事実を口外しない)が記載されることが多いです。
なお、書面のタイトル自体に法的意味はなく、「合意書」「和解書」「確認書」といったタイトルであっても、記載内容が同じであれば、法的効果は変わりません。
2. 誓約書や示談書にサインをするとどうなる?
誓約書や示談書にサインをした場合には、書面に記載された内容の義務を負うことに合意したことが客観的な証拠として残ってしまうこととなります。
相手は記載された義務の内容について履行するよう請求することができますし、そんな合意はしていないという主張は基本的に難しくなります。
例えば、慰謝料100万円支払うという内容の書面にサインをした場合、後から「本当は慰謝料は50万という約束だった」と主張しても、サインをした書面が残っている以上、書面に記載された内容が事実であると認定される可能性が高いでしょう。
書面にサインをするよう求められた場合には、事実と違う内容がないか、合意の内容は適正かなどをよく確認し、安易にサインをすることは避けるようにしましょう。
3. 誓約書・示談書を無効にできるケース
上記のとおり、一度サインしてしまうと後から内容と異なる主張をするのは難しいですが、以下のような場合には、書面の無効を主張できます。
①内容が公序良俗に反する場合
公序良俗とは、公の秩序と善良な風俗のことをいい、民法第90条には、公序良俗に反する法律行為は無効とすると定められています。
例えば、「人を殺してくれたら報酬を支払う」という約束のように、社会的に明らかに妥当ではない契約は、公序良俗違反として無効となるでしょう。
不倫の誓約書の場面では、慰謝料の相場(50~300万円)を大きく超えるような慰謝料を支払うといった内容の場合には、合意が無効となる可能性があります。
②錯誤により合意をした場合
錯誤とは、民法上は、内心の意思と実際に表示された意思に不一致が生じることをいいます。
簡単にいうと勘違いのことで、例えば「慰謝料100万円を支払う」というつもりでいたのに、「慰謝料1000万円を支払う」と約束してしまった場合には、内心の意思(慰謝料100万円を支払うという意思)と表示された意思(誓約書に書かれた「慰謝料1000万円を支払う」という意思)が不一致となっているといえます。
錯誤による意思表示は取り消すことができるので(民法第95条1項)、誓約書の内容は無効であると主張することができます。
ただし、錯誤が重過失による場合には、原則として錯誤無効を主張することができなくなります。
例えば、示談書の内容をよく確認せずにサインをしてしまったような場合には、重過失が認められ、錯誤無効の主張ができない可能性が高いでしょう。
③詐欺により合意をした場合
民法では、詐欺による意思表示は取り消すことができるとされています(民法第96条1項)。
例えば、本来は不貞行為をしていないのに「一緒に出掛けただけでも不貞行為になり慰謝料の支払い義務が生じる」などと言われてサインしてしまった場合、詐欺による取り消しを主張できる可能性があるでしょう。
④脅迫により合意をした場合
詐欺と同じく、脅迫による意思表示も取り消すことができます(民法第96条1項)。
例えば、「サインをしないと家族や職場にばらす」と告げられてサインしてしまった場合などが考えられます。
4. サインをしてしまった場合の対処法
①相手と交渉する
既にサインをしてしまった誓約書(示談書)の無効を主張する場合、まずは相手と交渉をすることが考えられます。
相手が無効であることを認めてくれた場合には、改めて正しい内容の誓約書を作成しましょう。
ただし、相手としては、一度サインがされた誓約書について、簡単に無効であると認めてくれない可能性が高いでしょう。
特に、錯誤や詐欺、脅迫の主張は客観的な証拠がない場合も多いため、立証のハードルは高いです。
少しでも説得的な主張をするため、なぜ誓約書が無効となるのか、根拠と共に相手に説明しましょう。
詐欺や脅迫を主張する場合には、具体的に相手の発言を挙げて主張することも効果的です。
②裁判で有効性を争う
相手と交渉をしても相手が誓約書が有効であると主張して譲らない場合には、裁判で書面が有効か無効かを裁判官に判断してもらうことになるでしょう。
なお、こちらから裁判を起こすことも可能ですが、相手が裁判において誓約書記載どおりの額の慰謝料の支払いを求めてきた際に、誓約書が無効であると主張する形をとるのが一般的です。
ただし、前述したとおり、錯誤や詐欺、脅迫の主張は、客観的な証拠がない場合には相当ハードルが高いです。
相手が脅迫的な言動をしていた録音があるなどの客観的な証拠がある場合を除いて、錯誤や詐欺、脅迫の主張がなしうるのかについては、弁護士に相談のうえで慎重に検討することをお勧めします。
なお、公序良俗違反については、事実の主張というよりは評価の問題(慰謝料の額が不相当に過大かという評価)のため、客観的な証拠がないといった問題は生じないでしょう。
5. 誓約書の無効を主張したい場合は弁護士に相談を
ここまで述べてきたとおり、誓約書の無効を主張することは相当程度ハードルが高いものです。
不倫相手の配偶者からサインをするよう求められても、その場で安易にサインせず、一度持ち帰って内容を弁護士に相談する等、慎重に判断することが重要です。
既にサインをしてしまった場合には、誓約書の無効を主張しうるのか、減額の交渉をするのが良いか、裁判になった場合の勝訴可能性等の事情を考慮して、対応方針を慎重に検討する必要があります。
ご自身のみで判断することは避け、早めに弁護士に相談するとよいでしょう。
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