不倫相手に不倫慰謝料(不貞慰謝料)を請求し、相手方と示談や和解をする場合、配偶者との接触禁止条項に加え、接触禁止条項に違反した場合の違約金を設定することがあります。
本稿では、違約金条項の定め方や違約金の相場について、解説いたします。
目次
1. 違約金とは
「違約金」とは、当事者が合意した事項に違反した場合に支払義務が生じる金員のことをいいます。
民法には、「当事者は、債務不履行について損害賠償の額を予定することができる」というように、損害賠償の予定として定められています(民法第420条1項)。
不倫慰謝料について、相手方と示談や和解をする場合も、合意した内容に違反した場合の違約金を定めることが可能です。
2. 接触禁止条項・違約金条項とは
不倫慰謝料における「接触禁止条項」とは、不倫相手に対し、配偶者との連絡及び接触をしないことを約束させる条項です。
不倫発覚後も夫婦が婚姻関係を継続する場合に付されることが多い条項です。
具体的には、「乙(不倫相手)は、甲(不倫された側の配偶者)に対し、正当な理由なく、今後、丙(不倫した側の配偶者)と連絡及び接触しないことを約束する」などと定めます。
不倫慰謝料においては、この接触禁止条項に対し、違約金を定めるケースが多いです。
違約金条項の具体的な内容としては、「乙は、甲に対し、前項(接触禁止条項)に違反した場合、違約金として、丙との連絡1回につき◯万円、接触1回につき◯万円、不貞行為1回につき◯万円を直ちに支払う」などと定めます。
なお、不倫慰謝料において示談書に含める条項の具体的な内容については、以下のコラムで解説しておりますので、ご参照ください。
3. 違約金の相場
接触禁止条項に対する違約金の相場は以下のとおりです。
連絡を取った場合 | 5〜10万円程度 |
接触した(直接会った)場合 | 10〜50万円程度 |
不貞行為を行った場合 | 100万円程度 |
違約金の額を設定するに当たり、注意しなければいけないのは、違約金の額があまりにも高額である場合、違約金条項が無効になってしまうおそれがあることです。
例えば、接触禁止条項に対する違約金として1回当たり1000万円の違約金を設定した場合には、公序良俗違反(民法第90条)や心裡留保(民法第93条但書)を理由に無効となる可能性が高いです(心理留保とは、互いに真意でないと知ってした合意は無効となるという規定です。
違約金が過大である場合、互いに現実的に支払うことができないと知っていて合意をしたと判断され、心裡留保に該当する可能性があります)。
4. 注意点
違約金条項の設定には相手方の合意が必要
違約金条項を定める場合には、必ず相手方の合意が必要となります(違約金の額も含む)。
違約金条項を一方的に定めることはできず、また、仮に訴訟(裁判)で違約金の設定を求めたとしても、裁判所が違約金を定めるよう命令する判決が出ることはありません。
慰謝料の減額交渉に利用されるおそれがある
前述のとおり、違約金条項を設定するためには、相手方の合意が必要となります。
そのため、違約金条項の設定を求めた場合、その対価として慰謝料の減額を求められるおそれがあります。
また、違約金条項を設定する場合、婚姻関係を継続することを前提としているケースが多いことから、婚姻関係を継続する=婚姻関係が破綻していない又は婚姻関係に与えた影響が少ないことを慰謝料の減額事由として主張される可能性があります。
離婚後の接触禁止条項は無効
配偶者と離婚する予定又は既に離婚しているが、不倫相手と再婚させないために接触禁止条項と違約金条項を設定したいというご相談を受けることがあります。
しかし、接触禁止条項は婚姻期間中のみ効力を有するもので、離婚成立後は無効となってしまうため、上記のような目的で接触禁止条項及び違約金条項を設定することはできませんので、注意が必要です。
5. 接触禁止条項以外の条項にも違約金を定めることは可能?
不倫慰謝料の示談に際しては、接触禁止条項以外にも、条項を定めることがありますが、原則として、接触禁止条項以外の条項に対しても、相手方の同意があれば、違約金を設定することが可能です。
ただし、違約金の額の妥当性(無効にならない金額の相場)は、各条項の内容によって異なってきますので、他の条項にも違約金の設定を検討している方は、弁護士に相談することをお勧めします。
また、接触禁止条項のような一定の行為ないし不作為を約束する条項(いわゆる約束条項)ではなく、慰謝料の支払の懈怠に対し違約金条項を付すことも可能ではあります。
特に、分割払いとする場合、支払が滞った時のために違約金を定めたいという相談者様・依頼者様は多いです。
慰謝料の支払に関し、違約金条項を設定した場合、利息制限法との兼ね合いや前述した公序良俗違反や心裡留保の問題が生じるおそれがあります。
そこで、慰謝料の支払に関し、実質的に違約金を定める方法として、実務上は、以下の方法がよく採られています。
- 慰謝料の金額を300万円と設定する
- 月額10万円を10回の分割払いとし合計100万円を支払った場合には、その余の慰謝料の残額200万円を免除すると定める
- 月額10万円の支払を怠った場合には、直ちに300万円を支払うと定める(「期限の利益喪失約款」といいます)
このような定め方をすることにより、実質的に、慰謝料100万円の分割払いを怠った場合の違約金を200万円と定めることができます。
利息制限法、公序良俗違反、心裡留保などの問題が生じにくい方法であるため、裁判実務でも多く採用されている方法です。
6. まとめ
違約金条項の設定は、金額の設定を誤ってしまうと無効となったり、相手方の同意を得られないと設定すらできないなど、非常に難しい交渉が必要となる事項です。
違約金条項を含めた相手方との示談交渉を検討している方は、弁護士に相談した上で交渉を行うと良いでしょう。
当事務所は、不貞慰謝料案件に注力しており、違約金に関する交渉も数多く経験しております。
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